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録画

1 - 親愛なるあなた様へ

♥

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2025年08月01日

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⚠️注意⚠️

この話には以下の要素が含まれます。

・自殺を暗喩する描写

・自殺未遂を暗喩する描写

・殺人を暗喩する描写

・犯罪を暗喩する表現

上記の内容が受け入れられる方のみお進みください。


また、この作品によって特定の人物や団体に対する反感の助長または、自殺教唆などの反社会的思想の肯定や擁護、誘発をする意図はございません。

あくまで創作物としてお楽しみください。


















録画


親愛なるあなた様へ


「私は生きていく価値のないゴミみたいな人間です。


あなたは優しい。私にはその優しさが辛くて欲しくてたまらない。私のような人間が、光に満ちたあなたに触れていいわけがない。あなたが、あなたが私に優しくする度に私は罪悪感で吐き気を催し、自己嫌悪に陥る。あなたと関わる事自体が、ほとんど自傷行為みたいなものだってわかっているんです。それでも、あなたの優しさに縋りたい。あなたの優しさに私は救われたから。道化のように笑うあなたも、真剣に立ち向かうあなたも!全部が全部魅力的で……



あなたが好きです。先輩、あなたを愛しています。




私が先輩を好きになったのは、初めての演劇部の発表会でのことでした。今でも時々思い出してしまうのです。私の、致命的ではないけど些細なことでもない失敗。他のメンバーと比べて人一倍演技が下手な私にとって、セリフを間違えないことだけが唯一の取り柄だったのに。でも先輩は私のその失敗をなかったことにしてくれた。舞台の流れの中に溶かしてくれた。私を、あなたが救ってくれたんです!

あのときに、私はあなたに惚れてしまった。きっと、もうどうしようもないくらいに。


あなたはこの演劇部になくてはならない存在です。それは今も昔も変わらない。


去年の夏、あなたは告白したんですってね。あなたより随分小柄な裏方の女の子。彼女もとっても魅力的でした。明るくて、聞き上手で、それでいて物事に真剣になれる素敵な人。あなたと同じですね。彼女はあなたにそっくりだ。誰の目から見ても、あなた達はお似合いだった。彼女もあなたが好きだったから、尚のこと。ただ、時期が悪かっただけ。そのとき彼女には彼氏がいた。

その日は有耶無耶になって、次の日も有耶無耶になって、その次の日も、次の日も次の日も次の日も、ずっと有耶無耶なまんま。うまく消せなかったノートの落書きみたいに跡が残って……

それなのに、彼女はきっと、まっさらな白紙に戻したつもりだったのでしょうね。


彼女はあなたに残酷なことをしました。でも、それはあなたも一緒だったでしょう?



ねえ、先輩。

彼女のことは残念でしたね。

とってもとっても残念でした。

私も彼女が大好きだった。

あの日からずっと、私のハンカチは乾かないまんまです。


熱中症、怖いですね。あの事件のおかげと言ってしまうのは不謹慎かもしれません。でも、体育館倉庫に冷房がついたのは、良いことだと思うんです。内側から鍵が開くようにもなったんでしたっけ。彼女みたいになってしまう人が今後現れないことを祈っています。

心の底から。










先輩ですよね?

体育館倉庫の鍵を閉めたのは。

知ってますよ。あなたのことをずっと観てましたから。


あの日のこともよく覚えてます。


彼女の葬式から数日後。

そして、あの年最後の舞台のリハーサルの前日。

あなたは21時過ぎに家を出た。私、びっくりしましたよ。まさかそんな時間に家から出てくるなんて思ってなかったんですから。

当てもなく彷徨っている様子のあなたが、青白く発光しているように見えた。

綺麗で、どこか、壊れそうで。


時間なんて忘れていた。

ただ、あなたを眺めるだけ。あなたの後ろを遠くから着いていくだけ。

学校の前を歩き、最寄りの駅を通り過ぎ、公園で少し遊んで、ずっと、ただずっと彷徨う。

それだけの時間が、あっという間に過ぎていった。


あの夜の全てが、今でも脳裏に焼き付いて離れない。

録画みたいにいつでも鮮明に思い返せるんです、あの日のことを。


ねえ先輩。

なんであんなことしたんですか?

あのとき、家を出てからもうすでに5時間、日付なんてとっくに変わっていた。

つまり、リハーサルの日。

本番直前だったんですよ?

あなた以外にあの役をできる人なんていなかった。

あなたはそれだけ偉大な人なんです。

あなただってそれは自覚していたはずだ。

なのに、なのになんで





あの公演が行われる予定の場所。その目の前にある道路に架かる歩道橋から……



ねえ、先輩。なんであなたは生きてると思います?

歩道橋なんて精々ビルの2階ぐらいの高さですもの、だから落ちてもそうそう死なない。勿論それもあります。でも落ちた先は車道だ。しかも深夜の真っ暗な中、落ちた衝撃のせいで動けないそのままの状態で放置されれば、きっと車に轢かれたはずだったでしょう?

今、この場所に、何事もなかったかのように立っていられるのは、

あのときあなたが車に轢かれて死ななかったのは、私が落ちたあなたを歩道まで運んで、救急車を呼んだからです。

あなたを、私が救ったんです。


私みたいな人間が!あなたを!!



はは、これくらいのことで救世主を気取るなって思いますよね。私もそう思います。でも、私は醜い人間です。あなたの命の危機を目撃したことを、意識の無いあなたに触れたことを、救急車を呼んだことを、あなたが知らないなんて。そんなこと、私には耐えられない。ただ、あなたに知って欲しかったんです。

私は、あなたに触れたことがあると。





先輩。

もうそろそろであなたの自殺未遂から1年が経ちますね。

この間は彼女の一周忌でした。

どんな気持ちでしたか?

あのときの舞台は外部と提携していたものだったから、中止になることは無かった。

でも、彼女の死に方が死に方だったから、

顧問は監督不行き届きで謹慎、

部活動は活動休止に追い込まれた。


先輩、私、この1年、ものすごく頑張ったでしょう?

副部長として、部長や部員の心を支え、校長先生やご遺族を説得して、演劇部を立て直した。

だから今年、去年とほとんど変わらないスケジュールでここまで来ることができたんです。





ねえ、先輩



私とお付き合いしてくださいませんか?

私はこの通りあなたを愛しています。好きです。言葉で言い表すことなんかできないくらいに好きなんです。


ねえ先輩、


私はあなたの過去の過ちを知っています。

あなたが犯した罪を、あなたが彼女を死に至らしめた犯人だということを知っています。


ねえ、先輩!


私は、他の誰よりもあなたのことを深く愛しているし、他の誰よりもあなたのことを理解しているつもりです。これは私の驕りかも知れません。でも、あなたの好きなことも、嫌いなことも、将来の夢も、言葉に詰まると手を合わせる癖も、どんなことで瞳孔が開くのかも、どんなことで呼吸が浅くなるのかも何もかも全部、全部ぜーんぶ!!!全部、わかってます。美しいところもカッコいいところも馬鹿なところも醜いところも全てわかってるんです。わかった上であなたを愛している。


だから、


だから!

















……なーんて、ね。

こんな脅しみたいな告白したって先輩の心が手に入らないことはわかってます。それに、脅迫まがいの告白で付き合うなんて、何より私が自分を許せない。こんな間違いだらけの人生でも、ゴミみたいな人間の人生でも、好きな人にはちゃんと誠実になりたい。


先輩がこれを見つけてこれを再生する頃には、私はきちんと自分を殺すことができているでしょうか?私は意気地のない人間ですから、もしかしたら何も行動を起こせていないかも知れないですね。あなたみたいに歩道橋から飛び降りるか、それとも彼女のように密室に閉じこもって熱中症になって死ぬか、それとも……





昨日決めました。


私は、私なりの方法で死ぬ、と。


今年最後の公演が終わったら、私は死ぬことにします。

彼女にまた会えたらなぁ…。

まあ、私みたいな人間が彼女と同じところに行けるなんて思っちゃいませんが、ね。


さようなら、先輩。

愛しています。

最期の日まで、ずっと」






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