灯りを落とした部屋を柔らかく照らしているのは、オレンジ色の間接照明。
宗輔の寝室に一人となって、落ち着かなくなる。ベッドにただ座って待っているのは、いかにもな感じがして恥ずかしい。私は立ち上がって窓辺に寄り、カーテンをそっと開けてみた。
眼下には街の灯りが広がっていた。遠くの方には淡いオレンジ色の光の帯が見える。確かあの辺りではイルミネーションイベントが開かれているはずだ。今年は見に行く時間がなかったが来年は二人で行ってみたいものだ、などと思った時、ドアが静かに開く音がした。
宗輔の声が私を呼ぶ。
「佳奈、こっちにおいで。そこは冷える」
カーテンを元に戻して、私は彼の傍までぎこちない動きで近づいた。
私の両手を取りながら、彼が迷いを滲ませた声で訊ねる。
「今さらだけど、俺の部屋で良かった?」
「急にどうしたの?」
「もっと豪華にホテルの部屋でも取れば良かったかな、って思ってさ。俺だけじゃなく、佳奈にとっても特別な日になってほしいから」
「ふふっ。宗輔さんは、時々強引になり切れない時があるわよね」
「もう君に嫌われたくはないからな」
私は彼の胸にそっと頭を預けた。
「十分に特別な日よ。宗輔さんの部屋に来られて、二人きりの時間を過ごせてる。良かったと思っているわ」
「そう思ってくれているんなら良かった」
宗輔の腕が私の体に巻き付く。
「こんな風に君に触れることができる日が来るとは、正直思っていなかったよ」
感慨深げにつぶやき、彼は私に口づけた。甘いキスを続けながら、私のパジャマに手をかける。パジャマの下から現れた私の体に視線を走らせて、彼は囁いた。
「きれいだ……。それにしても、その下着。いつもそんなの着けてるのか?」
「ち、違うわ。これは……」
呆れているかしら――。
私は両腕で自分の体を隠すように抱いた。
「それは、俺のため?」
私はこくんと頷いた。
「だってこんな姿、あなたにしか見せないもの。少しは魅力的に見えるかと思って……」
「っ……。君はいったい俺をどうしたいんだ?ただでさえ他の男の目が心配なのに、それ以上魅力的になるのはやめてくれ」
彼は独占欲をぶつけるかのように深く、私に口づけた。
私はそれに応えながら、彼に誘われるがままベッドの上に倒れ込んだ。
「佳奈、愛してる」
心の底から絞り出すような声で、宗輔は私の耳元に囁いた。
私を見つめる瞳は切なげに潤み、そこに満ちる彼の深い想いが私の心を鷲掴みにする。彼を愛しているという気持ちが息苦しいほどに沸き起こり、私は自ら彼の唇を求めた。
私のすべてを吸いつくしてしまいそうなほど、強く、激しく絡むキスで、彼は応えた。
蕩けそうな口づけを交わし合い、彼は私の顔を優しく撫でる。
「この前言った通り、すべて愛してやるから覚悟して」
「お手柔らかにお願いします……」
彼は優しい微笑みを見せた後、吸い付くような、けれども優しいキスを、私の体中に次々と落としていった。
その度に私の体は素直に反応した。彼が口づけた場所から快感ともどかしさが広がっていく。
彼の手が私の胸を露わにし、その突端を口の中に含みながら、一方の胸の膨らみを慈しむように撫で始めた。
私の唇からは甘い吐息がこぼれおち始め、もどかしさがますます募る。加えて疼きが生まれ、それを堪えるように私は両膝を立てた。
宗輔の手がやんわりと私の内腿を這い、膝を崩す。その先に触れた指先をショーツの上でつうっと滑らせた。指が動く度に、私の唇からは甘い声がもれる。
「もっと気持ちよくしてやる」
彼は私に口づけながら、指先をショーツの中に滑りこませた。反応を確かめるように、彼の指が動く。ゆっくりと優しく、けれど時には強くじらすようにしながら攻められて、自分でも分かる程、下着の内側が蕩けている。
「もっと……」
さらなる快感を求める言葉を口にする自分に戸惑う。しかし、彼ならこんな私のことも受け止めてくれるはずだと思う。
彼の優しい声がする。
「気持ちいい?」
私は頷く代わりに彼の首に腕を回して、キスをせがむ。
「キスも、もっと」
「っ……そんなに煽らないで」
彼の手がじれたように、私のショーツを取り去る。一糸まとわぬ姿となった私をまぶし気に見て、彼もまた着ていた物をすべて脱ぎ去った。
「ここにもたくさんキスしてやる」
宗輔は私の脚の間に顔を埋めた。
あっと思った時には彼の舌先を感じ、痺れるような快感に支配される。溢れかえりそうになる声を抑えようとして、私は自分の指を噛もうとした。しかし彼の手がそれを止める。
「だめ。佳奈の声が聞きたい」
私の手を捉えたまま、宗輔は再び顔を伏せた。その舌先がますます淫らに動く。
こらえきれずに声がもれる。
彼は顔を上げて、満足げに私を見た。その口元には笑みが浮かんでいる。
「可愛い。もっと聞かせて」
「いじわる……。あっ……」
甘く鳴かされ続けて、気づいた時には身をよじらせながら宗輔の体にしがみついていた。
そんな私を彼の腕がぎゅっと抱き締める。
「俺の佳奈。君のすべてが好きだ。離さない」
「宗輔さん、愛しているわ」
私たちはさらに強く固く互いの体に腕を回す。
宗輔が私の体を貫く。最も奥深い所に彼を感じたその時、心が震えた。彼に貫かれる度に私は高みに押し上げられていった。瞼の裏に白い光が走ったと思った時、体だけではなく心までが満たされた感覚に包まれ、私は彼と共に絶頂に達した。初めて知った幸福感だった。
そのまましばらくの間、私たちはその余韻に浸りながら、互いの温もりを確かめるように抱き締め合っていた。
「……大丈夫か」
宗輔はゆるゆると私の上から起き上がり、隣に体を横たえた。私を気遣う彼の言葉が嬉しい。
「えぇ」
私は幸せな気分で、すぐ傍にある彼の顔に手を伸ばした。
その手を取って彼は囁く。
「気持ちよかった?」
改めて訊ねられると恥ずかしい。赤面した顔を隠すように、私は彼の胸に顔を寄せた。
「えぇ。……あのね。宗輔さん、ありがとう」
「俺こそありがとう。愛してるよ」
頭上で彼の幸せそうな声がした。
彼は私の唇を指でなぞりながら言う。
「風呂、もう一度入ろうか」
「シャワーでいいわ」
「あったまった方がいい。ちょっと待ってて」
宗輔は床に落としたままだったスウェットの上下をさっと着て、部屋を出て行った。その十数分後部屋に戻って来て、私を促す。
「行こう」
「え?」
「一緒に入ろう」
「恥ずかしいわ……」
「でも恋人同士って、そういうのは普通だろ?」
「そういうものなの?」
「佳奈は経験ない?」
余裕を感じる宗輔の物言いに、なんだか面白くない気分になる。
「ないわ。宗輔さんはあるっていうわけ?」
「まぁ、一応は。佳奈に出会うずっと前だけど」
「ふぅん……」
「何だよ、拗ねてるのか?」
「別に」
私の言葉に、なぜか彼はくくっと嬉しそうに笑う。
「ヤキモチか?」
「ヤ、ヤキモチなんか妬いていないわよ」
私はつんとして顔を背けた。彼の過去の女性関係に嫉妬しても仕方がない。そう思っているはずなのに、なんとなくもやもやする。
視線を感じて目を上げた。宗輔の目が私を愛おしそうに見ている。
「佳奈、機嫌直して。体、洗ってやるから」
「そ、そんなの自分でできる」
しかし、あっという間に毛布をはぎ取られた。裸のまま抱きあげられて、脱衣所まで運ばれてしまう。
私を下ろした彼は、着ていた服をさっさと脱いで裸になった。目を逸らした私を見て笑う。
「恥ずかしがるのなんか、今さらだろ」
「やだ、デリカシーなさすぎ」
「ごめんごめん。でももう諦めて、早くこっちにおいで」
宗輔の腕に腰を捉えられて、私は諦めた。
二人してシャワーを浴びる。その後、彼がボディソープを手に取った。
「背中、洗ってやる」
「う、うん」
私は胸元を両腕で隠しながら、彼に背を向けた。抱かれて間もない上に、愛撫するような手つきで体を洗われて、私の体はいちいち敏感に反応した。そのおかげで、バスタブの中に一緒に体を沈めていても、背中に彼を感じて落ち着かなかった。それどころか彼がほしくてたまらなくなってしまう。
「佳奈」
宗輔は私の双丘に触れ、その先を指で弄びながら耳元で囁いた。
「もう一度、しようか。時間はたっぷりある」
私は甘えるように答えた。
「うん。したい……」
私たちは慌ただしく体を拭いて寝室に戻り、再び身体を重ね合わせた。
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