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退職届
「本当に辞めてしまうのかね」
「はい」
いつもは忙しくもあり、楽しげな雰囲気をも持つ職場は、今日は特別な空気を流していた。
少し冷たく、寂しさの香りを感じる。
「考え直してくれないか、君は本当に優秀だ。多くの仕事を一度に仕上げてくれる腕を持ち、効率も内容も良く完璧だ。君が現れてから会社の雰囲気も、売上もはるかに良くなった」
「そのようなお言葉、わたくしには勿体無いです。ここでお世話になり、社会に触れ、多くの事を学べた事、感謝しております。しかし、決意は揺るぎません」
中には涙を拭う者もいた。親しみやすい体質な故、それなりの関係を築いてきた者も多いだろう。
「そうか。そこまで決意が固いのなら、これ以上止めはしない。今までありがとう。体調に気をつけて、また困ったらここに戻ってきなさい」
なんとも温かい会社なのだろう。本当に真っ白で綺麗な所だ。自ら申し出たが、無意識に涙が。
「お世話になりました」
会社の人々は、皆最後まで別れを惜しむ、悲しみに満ちた眼差しで送った。
「久しぶりだな。帰るぞ」
「ああ」
「しかし、仕事は全うしただろうな。次の侵略予定の星の偵察。お前が色々とこの星の文明や弱点を解析する事を」
「ああ。もちろんしたさ。だがここは侵略するに値しない」
「なぜだ」
「我々の文明よりはるかに劣る。侵略してもこれっぽっちも意味がない」
「そうか」
六本の手を持つそれらは、小型の宇宙船に乗り込むと、瞬く間に消えていった。