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暫し(しばし)の沈黙の後、コユキは用心深く言葉を発するのだった。
「アンタが『怠惰のアセディア』なのは分かったわ…… んで、ここにいるアタシの家族は幻覚か何かなんでしょうね…… アンタの狙い、目的は何なの?」
「狙い? ですか? 特段ありませんね、目的と問われるのでしたら、労働を通じてお客様、コユキ様の役に立つ事ですね」
即答するアセディア。
不思議とコユキには嘘を言っている様には感じられなかったし、現に今も小首を傾げて不思議そうにこちらを見ているだけで、下の階の二人の様に金縛りを仕掛けて来てもいなかった。
「ささっ、何なりとお申し付けを、コユキ様?」
思い悩んで様子を伺っていると、重ねて要望を問い掛けてきた。
そこまで言うのなら、物は試しと考えたコユキは、探る様な視線のままで答えるのであった。
「んじゃ、何か食べさせてちょうだい、そうね、ピザがいいわ! どう、叶えられる?」
「はい! 承知致しました! では準備いたしますので、出来上がるまでそちらに掛けてお休み下さいませ」
そう言って指差した場所には、コユキが寝そべっても充分なほどの広さを持った、フカフカの柔らかそうなカウチソファが現れていた。
言われるままにコユキが腰を下ろし、座り心地の良さに驚いていると、コユキの前に、食事を摂るのに丁度良さそうなサイズのテーブルが、これまた不意に現れる。
驚いているコユキの横では、台所のシンクっぽい台の前に立って、グラスに果汁百パーセントのオレンジジュースを注ぐ、アセディアの姿があった。
グラスにストローを注し、トレイに乗せてコユキの前のテーブルに置いてから言う。
「どうぞ、お飲みになってお待ち下さい」
にっこりと微笑んでさっきの作業台の前へと戻って行った。
コユキはオレンジジュースに鼻を近付けてクンカクンカ匂っていたが、恐る恐る口に含み、暫くしてから緊張した面持ちで飲み込んだ。
――――ふむ、普通に美味しいわね? 一応念の為にスキルを使っておこうかな?
「自然回復UP(極小)」(ボソっ)
そう考えて、聞こえないくらい小さい声でスキルを発動させるのであった。
その後も注意深く様子を伺い続けていたのだが、アセディアの行動に不審な素振は一切無く、というか、なんというか…… 普通であった。
何も無い空間から、ピザシートと刻み済みのピーマン、スライスされたトマト、チーズ、ピザソース、茹でマッシュルームを生み出して、淡々とピザ作りを続けている。
そんな真似が出来るんだったら、最初から完成されたアツアツピザを出せば楽なのに、コユキは首を傾げるのだった。
そうこうしている内に、これも空間から生み出したオーブンから『チ~ン』と軽快な音が響き、ミトンをつけたアセディアが、注意深くピザを皿に移しピザカッターをコロコロやってから、ニコニコ顔でコユキの元へ運んできた。
「お待たせしました、コユキ様、美味しく出来ていれば良いのですが…… あ、熱いのでお気をつけて、まだお代わりしますよね?」
コユキが無言で頷くと、素早い動作で台へと戻り、又、一つ一つの材料から生み出し始めた。
――――なんか、効率悪いわね? 最初に準備を整えてから、焼き続ければ良いんじゃないの?
考えていたせいか、気が付けば、警戒もせずにピザを口に運んでしまっていたコユキであった。
――――やばいっ!
「い、頂きますっ!」 パンっ!!
そっちかよ、思わず呟いてしまう程、コユキ、我がお婆ちゃんは真面目だったのだ、真面目と言えば、
「あ、はい! どうぞぉ~」
お前もかよ…… 忙しく調理をしながらアセディアが答えたのだ。
その後は、モクモクと食べ続けるコユキに対して、間を空け無い様に必死に調理に精を出すアセディアの姿が暫く(しばらく)続いた。
「お代わり必要ですか?」
六枚目のピザをコユキの前に置いてアセディアが確認の言葉を掛け、コユキが答える。
「ううん、これでもう良いわよ、なんか苦労掛けちゃったわね♪ あんがと」
コユキにしては小食であったが、それも仕方あるまい……
元々、家族の女性陣は料理上手であったし、最近は善悪のメチャクチャ美味しいご飯を食べていたのだ、如何にアセディアが一所懸命にもてなしてくれたとしても、そこは当然の如く、差が出てしまうのだ、特に『手際』については雲泥(うんでい)であった。
「いいえ、とんでもない! 喜んで頂いた様で、こちらこそ、ありがとうございます」
コユキの感謝の言葉に、本当に心の底から嬉しそうに礼を返すアセディアであった……