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のどかな村に入ると、村人がちんすこうに挨拶をしてきた。
「やあ、可愛いお嬢ちゃんだね」
いかにも人が良さそうな中年女性である。ニコニコと笑顔で話しかけてくる。目の前にいる少女が悪の化身だなどとは考えもつかない様子だ。
「第一村人発見!」
村人を指さし、元気一杯に叫ぶ。
「あはは、元気だね」
「おばちゃん、宇宙怪獣どこにいるか知らない?」
村人に獲物の居場所を尋ねるちんすこう。するとおばちゃんは驚いた様子で答えた。
「おや、もしかしてあれを見に来たのかい? あんまり近づかない方が良いよ、今は大人しくしてるけど宇宙怪獣だからね」
そう言いつつ、居場所を教えてくれる。マイコバクテリウム・オメガは村の外れに不時着した宇宙船の側で所在なく佇んでいるようだ。誰か助けてやれよ。
一見人が良さそうに見えるが、村人は余所者に冷たい。ましてや宇宙怪獣などというわけのわからん生物が困っていようが知ったことではなかった。邪魔だからと退治の依頼まで出してしまう始末である。
「わかった、あっちだね! 汚物は消毒だー!」
見たこともないのに汚物呼ばわりである。
「消毒は出来ませんが、タックルを使えば簡単に倒せますわ。所詮は最初のイベントボスですからね」
サーターアンダギーが標的について説明した。要するに雑魚である。宇宙船を手に入れなければ話が始まらないとはいえ、わざわざ強奪させる必要があるのだろうか? 念のために言うがこれは悪党向けのシナリオではない。
「あれが宇宙怪獣なんちゃらか!」
もはや名前の頭の一文字すら覚えていないちんすこうの目に映ったのは、体長数メートルはあろうかという、茶色と灰色と緑色がマーブル模様になったスライムのような物体である。ヌラヌラと不気味な艶があり、ブルブルと体が痙攣している。時々ブシューと謎のガスを体から放出していた。前言撤回、やはり汚物である。
「オオオオォ……タスケテ」
生意気にも助けを求める汚泥。ちんすこうは躊躇した。こんなキモいスライムにタックルなんかしたくないのだ。
「さあ、タックルで倒すのです!」
何故か楽しそうなサーターアンダギー。こいつは友達を罠に嵌めた顔だ! だがちんすこうはやらねばならない。全宇宙の平和のため、この醜悪極まりない怪生物を抹殺するのだ!
「そうだ、何か武器はないの?」
さすがにちんすこうといえど素手で戦うのは気が引ける。インベントリを確認すると、中には果物ナイフが入っていた。
「装備すると念じれば装備出来ますわ」
なんとなく残念そうな口調でサーターアンダギーが教えてくれる。言われた通りに念じると、手に果物ナイフが現れた。
「おおー、いいじゃんいいじゃん!」
ナイフをブンブンと振り回す少女。マイコバクテリウム・オメガはビクリと体を震わせた。身の程知らずにも恐怖しているのである。倒されるために存在するような汚物の分際で!
だが、ちんすこうはまだ迷っていた。
「果物ナイフじゃこのデカイのは斬れないよね」
気付いてしまったようだ。心なしかホッとした様子のマイコバクテリウム・オメガ。
次の瞬間、ちんすこうは走り出した。長い武器を探しに行くのだろうか?
「見つけた!」
ちんすこうがそう叫んで近づいたのは、彼女達の様子を見物していた村の青年である。
「タックル!!」
「ぎゃあああ!」
何を血迷ったのか、村人をタックルで引きずり倒すちんすこう。そして更に次の行動に出る。
「タックル! タックル! タックル!」
タックルを繰り返し、青年を何度も突き飛ばしていく。それはみるみるうちにマイコバクテリウム・オメガに近づいていき……
「とどめのタックル!!」
猛烈な勢いで弾き飛ばした青年を汚泥にぶつけたのであった。
「グアアアァ」
「ぐわあああ!」
二つの悲鳴が上がり、不気味な宇宙怪獣は溶けるように消えて行ったのだった。
「勝利!」
拳を突き上げ、勝鬨を上げる。業が5ポイント悪に傾いた!