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私は悪魔に育てられた。
実の親の顔は見たことがない。
母からの話では、私は崖から崩れ落ちた馬車の中で唯一生きていたらしい。他は手遅れだったらしい。雨の日、泣き声を聞き私を拾ったらしい。
世間一般では悪魔は知能が低く対話のできない人を食らう化け物だと言う。母は正反対の悪魔だった。
ベツレヘム「お母さん、おなかすいた」
母の袖をくいっと引っ張ると母はその触手のような長い腕でよく木に実った果実を取ってくれた。
ベツレヘムの母「はい。」
ベツレヘム「わーい!」
ベツレヘムの母「ふふ。」
母はとても穏やかな人で争いを好まなかった。
しかし唯一、母が交流を持っている人間がいた。その人間たちは皆2枚の赤い羽をぶら下げていた。その人達は傭兵「フェニックス」と名乗っていた。鴉のお面を被っていたリーダーと呼ばれる存在はよく私の世話を焼いてくれた。
鴉「ベツ!大きくなったなぁ!ほおら!」
そう言って鴉面の男はよく私を高く持ち上げて遊んでくれた。
鴉「ほら、『羊』が仕立てた新しい服だよ。獣人は成長が早いからね。」
鴉はよく新しい服をくれた。『羊』が仕立ててくれたと言っていたが、肝心の『羊』は1度も目にすることがなかった。1度聞いてみたことがあったが、『羊』は裏方に徹していて表に出ることは一切ないと言って言った。
ベツレヘムの母「ねぇ、ノアはまだ…」
鴉「…まだ見つかっていない。」
鴉はよく母と内緒話をしていた。盗み聞きしていたこともあったが、よく分からない難しい話だった。1つ、今でも覚えてるのはよく「ノア」という単語が聞こえていたことだった。
母はよく木々の隙間から星空を眺めるのが好きだった。そんな母と星空を一緒に眺めるのが私も好きだった。
ベツレヘム「ねぇお母さん。」
ベツレヘムの母「なぁに?」
ベツレヘム「わたしのなまえには、どんないみがあるの?」
ベツレヘムの母「ベツ、あの星が見える?」
私がそう聞くと母は私の頭を撫で、1つの星を指した。
ベツレヘム「みえるよ。」
ベツレヘムの母「あれはね、星空の中で1番明るい星なの。『ベツレヘム』っていう星で最も純粋な星とも呼ばれているのよ。」
ベツレヘム「じゅん…すい?」
ベツレヘムの母「おっきくなったら分かるわ。」
母はただ笑って私の頭を再び撫でた。
母のことが大好きだった。
ある日母は私に言った。
ベツレヘムの母「…ベツ、かくれんぼして遊びましょう?」
ベツレヘム「えー?やだ!お母さん探すの下手なんだもん!」
ベツレヘムの母「そんなこと言わないで。だってベツレヘム隠れるの上手なんだもん。でもお母さん今日は自信があるの。だから、ねっ!」
ベツレヘム「しょうがないなぁ。」
そう言って私は隠れ場所を探しはじめる。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
ベツレヘム「お母さん、おそいなぁ…。自信あるって言ってたのに…。」
自分でも知らない間に、しっぽがたしたしと揺れ、頬が膨らみムスッとする。
ベツレヘム「しょうがない!おむかえしてあげよう!」
そう言って隠れていた場所から出ると、鴉の大きな声が聞こえる。
鴉「皆ー!こっちにいたぞ!」
ベツレヘム「からす?どうしたの?」
鴉「君を探していたんだよ。」
ベツレヘム「?あっ!からす、お母さんみてない?お母さんとかくれんぼしてたの!」
鴉「かくれんぼ?…そういうことか…。」
ベツレヘム「みたのー?みてないのー?」
鴉「…見たよ。でもお母さんはね、少し用事が出来たらしくってしばらくベツレヘムと会えなくなっちゃったんだ。」
ベツレヘム「そっかぁ…。」
無自覚にしっぽと耳がしょんぼりする。
鴉「…お母さんがいない間、1人だと寂しいだろう。よかったら俺達と一緒に来ないかい?」
鴉は屈んで、私の頭を撫でながら穏やかな声で聞く。
ベツレヘム「あそんでくれるの?」
鴉「俺達はお仕事があるけど…羊が遊んでくれるよ。」
ベツレヘム「ほんと!?わーい!」
鴉「…それじゃあ迷子にならないように手を繋ごうか。」
ベツレヘム「うん!」
鴉「…今から目を閉じて。」
ベツレヘム「?わかった。いつまでとじればいいの?」
鴉「俺が良いと言うまで閉じてくれると嬉しいな。」
ベツレヘム「わかった、ベツ、良い子だからできるよ!」
鴉「ありがとうベツ。」
鴉はそれ以降、拠点に着くまで喋らなかった。
鴉「ということで君にこの子のお世話を頼むことにした!」
羊「………」
羊から小さいため息が聞こえてきた気がした。初めてあった羊という人間は髭の生えた大きいおじさんだった。
ベツレヘム「おっきぃ…!」
鴉「じゃ、後はよろしく!」
羊「あっ、おいこら!はぁ…ベツレヘム、だな。仲間達からよくお前のことは聞いている。俺はカイオス。これからよろしく。」
そんなこんなで私は羊がメインになって傭兵フェニックスに育てられた。大きくなるにつれて母のことも嫌でも理解してきた。
母はもうこの世にいないのだと。
私が羊と出会って間も無い頃はそんなに仲が良くなかった。なにせカイオスは超がつくほど口が悪く、言葉足らずなのだ。だから初めの頃はすれ違いが多かった。
ベツレヘム「かいおす、なにしてるの?」
カイオス「お前達の服を作ってやってるんだ。お前が今着てる服も、俺が仕立ててやったんだ。」
ベツレヘム「かいおす、ふくつくれるの!?すごい!」
カイオス「どーも。」
ベツレヘム「ね、これなんでうごいてるの?」
そう言って動いているミシンの針に手を伸ばす、すると慌ててカイオスが私を突き飛ばす。
ベツレヘム「いっ…!」
カイオス「馬鹿か!?お前は!?」
今では私が無知で悪かったことも知ってる。カイオスが本気で心配してくれたからこそ突き飛ばしたことも。でも子供の頃にそんなことは分からなくて、ただただ突き飛ばされたことが悲しかったのを覚えている。フェニックスに来るまで、私の周りにカイオスのように叱る人は居なくて余計悲しくなった。
次の日、私はカイオスの部屋を出入りを禁止され、二度と邪魔をするなと怒られた。その事を鴉に泣きながら伝えると、鴉は物凄い剣幕でカイオスを叱っていた。
鴉「カイオスウウウうぅぅ!」
カイオス「うわぁっ!?り、リーダー…」
リーダー「カイオス、お前またベツに酷いこと言っただろう!俺達はお前が口が悪いだけで俺達のことを思ってくれてるのを分かっているが、子供には分からないんだ!もう少し口調を穏やかにしろ!」
鴉に頭の上がらないカイオスは私にとって新鮮だった。
その後、カイオスはみっちり絞られ、私も少し怒られた。当然のことだと思う。その件から察することがお互い上手じゃない私達は鴉がよく仲介するようになった。その度に鴉に呆れられたものだ。
私が16になると、鴉から母のことを教えられた。母は、狩猟を生業とする人達に狩られてしまったんだと。ハンターか、狩人かまでは分からなかったが、どうして人を食べる悪魔じゃなくて人を食べたことの無い母だったんだと怒りを感じたのを今でも覚えている。いや…正確には今でも。
私はその後正式に傭兵フェニックスに加入することになった。誰かから言われた訳でもなく、自ら加入することを選んだ。カイオスには猛反対されたが押し切った。
ちなみに以前なんでちょっと団の名前がダサいのか、カイオスに聞いてみたことがあるが、創設者のセンスが終わっていたらしい。
正式に傭兵フェニックスに加入したことによって鴉、リーダーからアヴィニア人のこと、悪魔のことを聞かされた。…それはとても重たい内容だった。アリィさん達は外見では13くらいだろう。そんな年端もいかない子供に話すべき内容ではなかった。
1人前になって、ある程度任務をこなすようになった。その日は悪魔討伐の任務を受けたが、着地に失敗し、足を負傷して動けなくなった。
ベツレヘム「まずいまずいまずい…」
悪魔の足音が徐々に近づいてくるのを感じる。
ベツレヘム「どうしてこんな時に…」
悪魔は既に、目の前まで来ていた。
ベツレヘム(肉食…あぁ…痛そうだなぁ…)
死の間際に考えたのはそんなくだらない事だった。悪魔が大口を開ける。牙がすぐそこまで迫っていたその時、ある声が聞こえた。
???「はあっ!」
声と共に、炎の玉が悪魔にぶつかる。悪魔は怖気付き逃げていく。
ベツレヘム「…あ、アヴィニア人の…!?」
???「大丈夫ですか!?」
遠くから犬の獣人の男の子が走って私の方に来る。
ベツレヘム「君は…」
アカネ「あっ、僕はアカネっていいます。」
それが本物のアカネ君との出会いだった。