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#独占欲
#ワンナイトラブ
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「はぁぁぁぁぁ~~」
「あー、みなみ先生がため息吐いてる!」
「しあわせがにげちゃうんだよね」
「しあわせたべちゃえ! とつげき!!」
宮本先生の声に、園児が私の回りを口を開けながらパクパク走り回る。
宮本先生は大きなお腹を押さえながら、その光景をケラケラ笑っていた。
「みなみ先生の幸せ、食べた人――!」
はーい、と元気な声でチューリップクラスは返事をする。
その中に、ちょっとだけ眠そうな真君の姿もあって居たたまれない。
「もう! ダメよ? 子ども達の前でため息は」
宮本先生は大らかに笑い、場を和ませてくれていた。
――しまった。しまった。
ついつい昨日のことを思い出して、仕事中なのにため息なんて吐いてしまった。
オルガンの上の楽譜をめくり、明るい曲を選ぶと弾きはじめる。
ため息を吐きだしたのは、昨日帰ったら侑哉が居なかったから。
私と明美先生が飲んでいた珈琲が冷たくなってテーブルの上に置かれたまま、侑哉と明美先生とバイクは無くなっていた。
その後、明美先生から謝罪メールと侑哉から『しばらく飛鳥さんのところに居る』とほぼ同時にメールが来たから、いくら馬鹿な私でも察してしまう。
分かってる。
――二人は同じ夜を過ごしたんだ。
なのに、私の心はそれほどダメージを受けていなくて。本当に現金な奴で笑ってしまう。
朝のバスで、欠伸を隠しもせずに、真君と立っていた部長。
心は止まらない。切なく甘く滲んでいる。
お帰りの会が終わると、園児をお残り担当の先生に引き継いで貰い、私と宮本先生はクラスの掃除に回る。
でも宮本先生は、もうかなりお腹が大きいのでなるべく花の水替えやら絵本の整理やら動かない事をお願いしている。
「みなみ先生も今日は早番よね? 車で送って行くから一緒に帰りましょう」
「え、いや、とんでもないですよ! 宮本先生とは逆方向ですし」
箒で床を掃きながらそう言うと、宮本先生は胸をドンっと叩いて、笑った。
「大丈夫! 今日は検診なの。もう9カ月だから週に一回、病院に行かなくちゃいけなくてね」
クスクス笑う先生の言葉に、私の手は止まる。
それと同時に箒を握る手が、汗ばんでいく。
「あの、あ、えっと、宮本先生の行っている産婦人科って、不妊治療とか月経不順とかも見てもらえますか?」
こんなこと聞いて、色々聞かれたらどうしよう、とかどんどん悪い考えが頭を過る。
けれど、相変わらず宮本先生は、肝っ玉母さんのような優しい笑顔でウインクする。
「うちは、別棟に不妊治療専門の先生が居るわよ。生理不順もそっちで見てくれるし、評判良いみたいよ」
「そ、そうなんですね……」
建物が別なら、赤ちゃんも見なくて心を左右されなくて済むかもしれない。
「つ、連れて行ってもらってもいいでしょうか!」
変な汗を体中から掻きながらそう言うと、宮本先生はにっこりスマイルのまま頷く。
「もっちろんもちろん。行きましょう」
それ以上は詮索してこないし、明日のクラスの話に戻ってので少し、緊張の糸が切れた。
私も、頑張らなくちゃ。