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〇ひまりと滉星の暮らす家
寝室で眠れずにいるひまりはまだ滉星の横顔を見ていた。
ひまり(あの日のことは、今だって昨日のことのように覚えてる……。
私が滉星を問い詰めたら今までのことも全部シャボン玉みたいに
消えちゃうんだよね……確実に……)
ひまりは滉星に背を向けるようにベッドの中で姿勢を変える。
N「今ある幸せを手放したくはない。せめぎ合う自分の心」
ひまり(何も知らない振りを続けても……問い詰めても……どっちに転んだって
今までの幸せはもう二度と戻ってこない……)
ひまりの頬に涙が伝う。
翌朝、ろくに眠れなかったひまりは早めに起きていた。
一方で、滉星はいつもよりもだいぶ遅れて起きてきた。
滉星「ふわぁ~あ。ひまり、おはよ」
ひまり「おはよう。朝ご飯にはちょっと遅いから今日はブランチにしよっか」
滉星が時計を確認して驚く。
滉星「うわっ、ほんとだ。俺、結構寝ちゃってたなぁ~」
ひまり「疲れてたんだよ。
……それで、疲れてるところ申し訳ないんだけど、ブランチのあと、ちょっと
時間いいかな? 話したいことがあるの」
滉星「なになに~? 改まっちゃって。
……あ、もしかして何かお高いもののおねだりだったり? い~よ、い~よ。
毎日おいしくて体にいいご飯を作ってくれる奥さんのお願いだったら
何でも聞いちゃうよ~」
ひまりは困ったように笑うだけ。
そして、すでに準備していた食事をテーブルへと運ぶ。
ひまり「食後のコーヒーも淹れとくね」
滉星「いいね。ありがと」
N「ねぇ、滉星。気づいてる? 今日は髪だってきちんと整えてるんだよ。
メイクだってしてるし、服だっていつもと違うでしょ?」
ひまりは朝早くから髪をセットし、メイクをして、服を選んでいた。
ひまり(……気づいてないんだろうなぁ……)
諦めたように笑って俯くひまり。
N「ねぇ、滉星。今、私は妻としてじゃなく、ひとりの女性として
あなたと向き合ってるんだよ……」
結局、何も気づかないまま食事を始める滉星。
食後、ひまりがコーヒーを運んできて、改まって席に着いて滉星と向き合う。
コーヒーを飲みながら、滉星はへらっとした笑顔を浮かべていた。
滉星「……で、俺は何をおねだりされちゃうのかな?」
ひまり「おねだりならよかったんだけどね、そうじゃないの。
そうだなぁ……あなたへの断罪、かな?」
滉星「えぇっ!? 怖いなぁ~。ひまりちゃん、頼みますよ~」
滉星に動じる様子はない。いつもの調子でおどけている。
ひまり(その余裕がいつまで続くかしらね……)
ひまり「10日くらい前なんだけど、DMが送られてきたの。たぶん相手は女の人」
滉星「へぇ~」
表情を変えない滉星にひまりは少し苛立ちを覚える。
ひまり「……その女の人、あなたの知ってる人だと思う」
滉星の眉がわずかに動く。
滉星「えっ……誰?」
ひまり「名前はわからない。
アカウント名も適当だったし、DMの中でも名乗ってなかったから」
少しほっとした様子の滉星。
滉星「そっか……でも、誰かわからないってのも気味が悪いね。
で、相手は何て言ってきてたの?」
ひまり「……あなたが不倫してるって。仮にあなたが不倫なんかしてないって
言い張っても、絶対に言い逃れができないような証拠画像付き」
滉星の顔が青くなる。
ひまり(本当にドラマみたい……。
人間のこういうときの顔なんて、一生のうちでそうそう拝めるものじゃないけど
見たくなかったなぁ……)
ひまり「私にはわからないけど、あなたにはわかるんでしょ?
相手の……彼女の名前。どうしてこういうことになったのか、ちゃんと説明して」
滉星は青い顔を引きつらせながら、自身の膝の上でぎゅっと握った拳を見つめていた。
しばらくして少し顔を上げるものの、ひまりの顔は見れずに視線を横にそらす。
滉星「……あ、相手は……」
〇回想シーン
会社で仕事をしている滉星。
N「滉星の話では、相手は会社の同僚。
私との結婚が決まって、周りに結婚報告をしたあとにそういう関係になったのだそうだ。
式の4か月前、同僚たちの好意で滉星をお祝いする飲み会が開かれた」
貸し切りのレストランで同僚たちから盛大に祝ってもらう滉星。
そのまま二次会で居酒屋へ移動。
二次会が終わる頃には滉星もすっかり出来上がっていた。
同僚A「……そろそろお開きにするか。俺ら会計しとくから、日比野はゆっくり帰れよ」
滉星「ありがとうございます~」
同僚B「タクシー代もここに置いときますね。早く愛する奧さんのとこに帰ってあげてくださいよ~」
滉星「皆さん、本当にありがとうございます~」
「じゃあ、お先に~」という声とともに、同僚たちがひとり、またひとりと帰っていく。
そんな中、最後のひとりが滉星の横に座った。
ふわりと女性ものの香水が香ってきて、滉星はくらりとする。
DMの画像と同じ真っ赤な唇が滉星に話しかけた。
女「前からずっと好きでした」
N「二次会まで残っていたその女の言葉を聞いて、滉星の理性が飛んだ……」
二次会後、滉星とその女性はホテルで互いを貪り合った。