レースのカーテン越しに浮かぶ高樹の表情は、下弦の月明かりに照らされて、いやらしく、狂おしく、見ているだけで官能を刺激され、抗えない身体に靜子自身も酔い痴れていた。厚い唇。ツンと尖った高い鼻。長いまつげ。頼もしい肉体、脈うつ鼓動を独り占めにしている。
ひとりの人間を、私は支配しているのか。
それとも、服従しているのは私の方がー。
恍惚の世界で、ふたりでオーガズムに達して温もりを感じ合う時間は幸せだった。
靜子は高樹の顔を指で撫でた。
髪をクシャクシャにしながら、筋肉質の背中にキスをして、額から鼻筋、そして瞼に指をあてがいながら想像を繰り返し、色情に染まり、溺れた…。
男の身体に印される、赤い色をした路。
存在している。
この世界で生きている。
耳を噛んで引き千切る。
柔らかい瞼に指をめり込ませる。
ゼリー状の水晶体が飛び散る。
ぬぶぬぶと音を立てながら潰れてゆく眼球。
鶏皮に似た瞼を壁に投げ棄てると、大きく窪んだ眼底から蛆虫が湧いた。
数万匹の蛆虫は、男の顔を埋め尽くして靜子の腕へと這い上がる。
月明かりの中、レースのカーテンの隙間に影が見えた。
その女は、静かに笑いながら、
「助けてくれて、ありがとう」
と、言っていた。
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