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「…僕は誰だ、何故此処にいる?」
僕は僕自身も終わらせたいと思っていた。恐怖粒子に感染し、シャン代表には見捨てられ…もう後がない状況だからだ。恐怖粒子は感染すると、やがて自我を失い、暴走する。恐怖粒子の恐ろしさは嫌と言うほど教えられてきた。暗躍したり恐怖粒子を使ってでも、 順位を上げて会社や代表に尽くさなきゃいけない。自分の為にも。ずっと、特に最近はそう思って過ごしてきた。でも、ヒーロー人生やシャン代表からの期待や信頼、信頼値、実質全て失ってしまった。恐怖粒子のせいで。
あの犬のせいで。何のために此処にいるのか、自分はヒーローなのか… それすらも分からなくなってしまった。
でも、恐怖粒子に支配され、悪者にされて死ぬのは嫌だった。『最期までヒーローとして死にたい』それが、元ヒーローとしてのプライド。
だから、急にビルの屋上に転送されたとしても、あまり疑問は抱かなかった。寧ろ、ラッキーだと思った。何もかも、終わってしまった僕からしたら─────。
そう最期に無駄な考えを巡らせていると、真下から声が聞こえた。
「黙れ、ナイス!いくら今完璧だからって、いつかは醜いジジイになって、ポジションを奪われるんだ〜!」
…【完璧】だなんて、ポジションだって、僕の中ではもう崩れさってる。でも、【完璧】に縛られるなんてもう僕はこりごり。僕の【完璧】が欲しいのなら、ポジションが欲しいのなら、
─【僕】になりたいのなら。
僕はビルの屋上の下を一つ飛び降りた。左に居たのは僕と同世代位で黒髪の会社員。何の因果か、僕に何処となく似ている。彼なら、僕よりも上手く立ちまわれるに違いない。
そして…【完璧なヒーロー】もぶっ壊してくれるに違いない。そう確かに感じた。
僕がここから飛び降りたら、それを目撃した彼をジュエンさん達は僕の替え玉にするだろう。
僕は彼に最期のお礼の挨拶をした後、
空を踏んだ。最期だからなのか、一瞬が一分位に感じた。落ちていく感覚が、これから死ぬというのをうっかり忘れる位、心地良かった。これがヒーローだった、最初で最期の心の平穏。その平穏をもっと噛み締めようと、ゆっくり瞼を閉じた。…これで、僕は楽に───
─なれなかった。何かに当たった時の鈍い音も、頭に刺さるような、鋭い痛みも衝撃も何も無く、ただただ地面がある感覚だけ。失敗したのだろうか。そう思い、瞼を上げてみると、
異常なまでに整頓され、潔癖的に清潔で、僕の銅像がある、僕の部屋だった。現実的じゃないけれど、『時が戻ったのだろうか』と一瞬思った。しかし、それは────
「うっわ…。君の部屋 趣味悪っ…。」
杞憂だった。ドアの後ろには背の高い、見慣れない紫色のウサギが僕の銅像を見つめながら、呆気にとられていた。
「良いなぁ、僕の部屋も 君の部屋位、広ければ良かったのに〜…」
片手で器用に鍵を弄くり回しながら、羨ましそうに紫色のウサギの…ジャックスは話す。
こう見えて人間らしい。
「でも 君の部屋みたいなのは御免だね」
「まあ、そうだろうね…。あんな【完璧】に奇麗すぎる部屋は、誰だって嫌だと思うよ。」
「じゃあ 君はあの銅像、嫌じゃないの?」
「…【完璧】に奇麗すぎるよりは。」 「やっぱり君 趣味悪いじゃん」
「いやあれはヒーローとしての信念を高め…」 「ヒーローって皆そんな気持ち悪いことすんの?」
「…多分、僕だけかもしれない…。」「やっぱり君 趣味悪いじゃん」
うう…意外と痛い所を突いてくる…。
「取り敢えず、君がいて良かったよ。ここで一番早く起きて色々な所回ったんだけど、誰一人居なくてさ。ず〜っと退屈だったんだよね」
「そういえば、何で僕の部屋の鍵持ってるの?」
「よく分かんないや。なんかあった、そんな感じさ。どの鍵がどのドアのかは殆ど総当てで判断してるし…そういえば、前の世界でもそうだったなぁ…コイツも僕とセットで連れてこられたりして」
彼は鍵がこぼれそうな程入った、重そうなバケツを片手で持ち上げ、空いた手で指差した。
「…これ、何個位あるの?」
「分かんない。というか勝手に出てくるし…数えてもキリがないんだよね」
ヒーローになってから、他愛のない会話をしたのは親友以外初めてかもしれない。 …そういえば、あいつへ暫く連絡していない。死ぬ前に、あいつに一言メッセージを遺しておくべきだった。
「あそうだ、ここにいた前の経緯の話。一番大事なの忘れてた!僕いつも通りに部屋のベットで寝てたらここにいたんだ。君は?」
「……飛び降りた。ビルの屋上から。」
彼の大きく黒い瞳孔が一気に小さくなった。
「…おいおい、ヒーロージョークにしては、ブラックすぎ…」「本当さ」
ジャックスは黙り込んでしまった。空気の味が苦くなり始めた。
「ねえ」
長い時間に感じた沈黙の空気の中で、彼が重い口を開いた。
「…飛び降りて、どう感じた?」
彼の性格からは想像できない、あまりに意外すぎる質問。彼が口を開いた瞬間、ありきたりの説教をするのかと思ったが、その質問と声の質で感じた。『ジャックスも、僕と同じなんだ』と。
明るい面を常に見せなきゃいけなくて、人には言えない、後ろめたいことがある。それでずっと消えたがってる。僕は、その時感じたこと全部を彼に伝えた。
「そう、僕も…」「死んだら全部赦されるとでも思ってるのか?」
誰かがまだ聞いてもいない彼の言葉を否定した。声をした方向を向くと、フードを被った、小柄なスケルトンが立っていた。フードの中は黒い影でよく見えなかったが、それを無視するかのように、 赤い目がギラギラと光っていた。
登場人物紹介
(キャラを知らない人向けの説明用です、全キャラ知ってる人は見なくてもいいです )
※主にナイス以外のキャラは、説明欄がナイスが現時点で知っている情報、主観のみになります