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見つめられると動けなくなってしまうなんて、そんな二十五歳。
そりゃ、大人の男性に相手にされるわけもないんだ。航平の顔が頭に浮かんでしまい、翻弄されてばかりの自分を嘆いた。恋心までもが流されるままだなんて、そうなると芯がないにも程がある。
柚はいまだ高鳴る胸が信じられなくて、押さえつけるようにして、おさまってくれと祈りながら触れたのだった。
「はーい、ちゃんと戻るよ。休憩中くらい放置しててよ、過保護だねぇ」
短い応対を終え、優陽はいつもの笑顔を貼り付けて、柚へと笑いかける。先ほどの揺れ動く瞳はどこへやら。例の胡散臭い笑顔に戻っているということだ。
「ゴメン、またうらっち」
「マネージャーさん可哀想です」
“うらっち”こと、浦川という男性は優陽のマネージャーという、想像するだけで振り回されて胃が痛くなりそうな職についているそうだ。
約二年前、現在の事務所に所属してから、ずっと彼のスケジュールや私生活やらの管理をしているらしい。
(優陽さんの私生活を管理……?)
あ、ほんと胃が痛くなりそう。 なんて思ってるとおでこを指で軽く弾かれた。
「ボーッとしてないで。俺、もう戻るから、ほら行って」
何事もなかったように解放されたのて、先程の優陽のイタズラという名のスキンシップでバッグから落ちてしまったスマートフォンやタオルなんかを拾って。
「はい、頑張ってください!」
そう言って頭を下げて、アパートへと駆ける。
急ぐ必要もないのだけれど。
優陽は、柚がアパートの自分の部屋にたどり着き、その扉を閉めるまで車を動かさない。
と、いうことに前回気がついたので、なんだか気持ちが急いでしまうのだ。
彼と過ごす、この謎の時間。
(まあ店長とは優陽さんの話題のおかげで話すこと、増えたかもなぁ……効果、ありってことになるの?)
それならば、謎というには失礼かもしれない。
柚にとってのメリットを生み出すための時間は。
CMタイアップが決まっているという、彼の新曲。その制作合間、休憩という名のサボり時間で賄われているようなのだ。
(それにしても……今のところそんなに遊び歩いてるようにも見えないし)
だとしたら、彼の言うメリットに私が利用される日は来るのだろうか。どちらにせよ、柚のほうがあれよこれよと享受しすぎている。どう考えてもフェアではない。