夫とだけはしたくありません（夫sideストーリー）

「そ。あからさまにバレるような行動をしたら、許さないかも。だってそれは、私のことを軽く見てるってことでしょ？でも、うまく隠してくれたらそしたら私は気づかないからね、気づかないなら浮気したことにならないんじゃない？私が気づいて初めて浮気になる気がする。するとしたら私には絶対バレないでしてよね！って感じ？」

ね？といつも通りの顔で俺に同意を求める杏奈が、何か知っているような気がしてドキリとした。

「もし雅史が浮気をしてそれを私が知ってしまったら、きっと元には戻れないと思う。私は雅史のことをずっと責めるだろうし、そんな私を私自身も嫌いになるし、そのうち雅史もそんな私を嫌いになると思う」

＿＿＿＿＿まさかバレてないよな？

なんだか具体的な話をしている杏奈を見て、内心ドキドキしながら話に入る。

「え、まぁ、杏奈の言うこともわからなくもないけど。そもそも俺は浮気なんてしないからバレるとかの心配もない。舞花ちゃん、いらぬ質問だったね」

「今はそうかもしれないけど、雅史さんもうちの隼人くんもそのうち浮気しちゃいそうな予感がするんですよね……」

＿＿＿＿＿おいおい、何を言い出すんだこの子は

あまりに強く否定するのもかえって怪しまれそうだし、かと言ってそのままにしておくのもよくない気がする。

俺は佐々木を見た。

佐々木は、俺とは視線を合わせずお代わりのお茶をゆっくりと口に運んでいた。

「予感って、そんな。舞花ちゃんみたいな可愛い奥さんがいるんだから佐々木が浮気なんかするわけないよ、安心しなよ、な？佐々木」

俺は軽めに佐々木を擁護する。

俺のことも擁護してくれよと思いながら。

「雅史が浮気ねぇ……」

杏奈は口に人差し指を当てて、何かを考えているようだ。

「杏奈、いらん心配しなくていいから」

「ううん、意外とあるかもなって考えてた。雅史は佐々木さんほどじゃないけど、そこそこイケメンだし。その気になれば寄ってくる女もいるかなって」

「あはは、ないないないない。奥さんを大事にしてて子どもの育児もするような男だよ、俺は。佐々木みたいにイケメンでもないし独身に見えるわけでもないし」

うっかりおかしなことを言ってしまうと、紗枝とのことを追求されるかもしれないと思って、差し障りのない答えをする。

「そういうことだから、舞花さん、うちはご心配なく」

これ以上この話をしたくなくて、話を終わらそうとした。

「隼人くんも浮気なんかしないでね、もししたらパパとママに言いつけるから！」

ぶふっと今度は佐々木がお茶を吹き出した。

「しないよ、するわけないだろ？」

「だってよくそんな話、聞くでしょ？奥さんが妊娠してる間に旦那さんが浮気するって。そんなことしたら舞花……隼人くんのこと許さないから！杏奈さんに相談して、訴えるから」

「そうね、佐々木さんはモテそうだもんね。わかった、その時は私が味方になるから、安心して。そんなに心配しないで。お腹の赤ちゃんに悪いよ」

＿＿＿＿＿いやいや。そっち方面で仲良くなっちゃダメだろ！

杏奈と舞花が、何かの同盟を結んだ気がした。

佐々木を見たら、まだ浮気もしてないのに顔がひきつっていた。

罠にかけてまで佐々木と結婚したかった舞花のことだ、浮気がバレたりしたらとんでもないことをしそうだ。

そんな想像をしたら、俺まで顔がひきつった。

「あの……さっきの杏奈さんの話だと、バレなければ浮気してもいいってことですか？」

唐突な佐々木のフリに、杏奈がキョトンとした。

「そうなりますね。でもね、無理ですよ、どんなにうまく隠したつもりでも、わかってしまうんです。だから諦めた方がいいですよ、浮気なんて」

杏奈は佐々木に向かって話している。

「特に舞花さんみたいに心底佐々木さんのことを愛してる奥さんからすると、ほんのちょっとの違和感を感じてしまったら、もうそこからとことん追求してしまうと思いますよ。愛されてる度合いが強いと、ひっくり返った時に怖いですよ、ね？舞花さん」

「うん、隼人君が浮気とか想像しただけで心臓がちぎれそうになるもん。だから絶対しないでね」

「はいはい、しませんよ、安心してください奥様」

佐々木が舞花のことをまるで子どもをあやすように、言い聞かせている。

＿＿＿＿＿佐々木が浮気なんかしたら、えらいことになりそうだな

俺は舞花と杏奈を交互に見て、そう思った。