大おじさんの声真似に近かったからかもしれない。本人はきっと威厳たっぷりに演出したつもりなんだろうけど、逆に、頼りにならない端役の演技を見ている気分になった。
だけど大根役者は、周囲の反応なんて気づきもしないで、下手な演技を続ける。
「賢人、当主としてお前に仕事を与えよう。あのしきたりがうちに伝わってる理由を調べるんだ。言っておくが、怖がってるわけじゃないぞ。なぜあんなことをし始めたのか、理由を知らなければ守りようもないからだ。それまではここに滞在するのを認めてやってもいい。ただし長く居座ろうとして、妙に長引かせたりするんじゃないぞ。そんなのは見てれば分かるんだからな」
まさしく命令するように言うと、武さんは来訪時の動揺ぶりなんて嘘みたいに、堂々と離れを出て行く。扉を出る直前、優斗を見てとてもとても嫌な笑い方をしたけど──むしろ優斗は、肩の荷が下りたようだった。
昨日の様子から考えても、跡取りの座を優斗に盗られるかもとか、そんな風に考えていたのかもしれない。賢人さんに対しても朝似たようなことを言っていたし、キツく当たられていた優斗としては、絡まれることが少なくなるならそのほうがよかったんだろう。
もちろん事態は想定外のことばかりで、情報を整理しきれていない。特に大輔さんは負担に耐えかねたのか、音を立てて閉まったドアを見たまま、玄関に座り込んでしまった。
「あなた」
「……すまない、頭がグチャグチャになって……。なにが起こってるのか、うまく理解できないんだ。ばあちゃんが死んで、大雨でうちだけ孤立した上に、親父たちまで死んだなんて……。これは現実なのか? それとも今朝からずっと、夢の中にでもいるんだろうか。もう、なんにも分からない……」
頭を抱えてうずくまった大輔さんを茜さんが包むように抱きしめるのを、俺たちは見て見ぬフリした。なんとなく、見ちゃいけない気がしたんだ。
そっとその場を外れて、賢人さんは俺たちをリビングに手招いた。
「大輔さんが落ち着いたら僕は一度、自宅に戻って資料を探してくるよ。三人が本当に座敷わらしに連れて行かれたかどうかは分からないけど──関連があるなら、調べるべきだと僕も思う。まずは火葬場に連絡をとって、全員の死亡状況も確認してみるよ。火葬後なら食事をとっても構わないと思う。君たちには我慢をさせてしまうけど……」
「あの、俺も行っていいですか?」
挙手した優斗の言葉に、俺も少し驚いてしまった。
「父さん、母さんと二人にしてあげたほうがいいと思うんだ。俺も頭が追いついてないからその、少し違うことを考えたいっていうか。もちろん危ないのは分かってるし、陸はここにいてもらっても──」
「いやいや、優斗が行くなら俺だって行くよ。一人で残されたってつまんないし、賢人さんの家も見てみたいしな」
優斗の気遣いだと分かってはいるけど、この家に話し相手もいないのに置いて行かれるのは、ちょっと勘弁したい。
賢人さんも察してくれたらしい。そういうことならと、俺にも同行の許可をくれた。
大輔さんたちが二階に行った気配を察知したあと、賢人さんの家に行く旨を手紙にして外に出る。母屋は静まり返っていたから、みんなそれぞれの離れに戻っていたんだろう。
雨は少しマシになっているようだった。
敷地外に停められていた車に乗り込み、滑り落ちた山肌を見ながら進む。三科家に被害がなかったのが奇跡的なんじゃないかという有様で、土砂が流れていった方向を考えると、集落は何軒かの家が潰れていてもおかしくないと思えた。
三科家に救助が来るとしたら、集落を助けてからだ。そうなると思っていたよりも長く籠城することになるかもしれない。
優斗が飲食できないのに俺が食べられる状況にあるのは後ろめたい気分だったけど、いざとなれば抜け駆けも視野に入れるべきだろうか。
──そんなことを考えているうちに、小さな家が見えてきた。