‥さっき見た光景はなんだったのか‥
祐希さんとエリカさん‥‥‥。
祐希さんは‥‥‥少し距離をおこうと俺に言った。
‥‥‥‥‥‥
別れようと言われたわけじゃない‥‥。
なのに、さっきの2人のキスは‥‥‥‥。
祐希さんはもう俺の事なんか好きじゃないんだろうか‥‥‥。
エリカさんに心を奪われてしまったのだろうか‥‥‥。
‥‥‥それもそっか‥‥‥。あんなに綺麗な人に好かれたら、誰だって好きになるやん‥‥‥。
無くした指輪‥‥‥。
2人のキス‥‥‥‥‥。
もう‥‥‥‥‥
何もかもがどうでもよくなってきた‥‥‥。
「‥‥‥‥藍?どうした?」
何回も呼ばれていたのだろうか‥気付かない俺の肩を優しく叩きながら勇斗が、俺の顔を覗き込んでいた。
ふと勇斗を見ると、片手にビールを持っている‥‥。
『人の事気にして呑まないようにしてるの?』
勇斗の言葉を思いだす。
以前飲んだ時に、醜態を晒した事があり‥それから酒は飲まないようにしていた‥‥‥。
祐希さんが悲しむから‥‥。
‥‥でも、今は‥‥
一体何に気を遣う必要があるんだろうか‥‥
こんな記憶なら無くなったほうがいい‥‥
気を抜くと一気に暗い感情が自分の心を支配しそうな感覚に‥飲み込まれたくない一心で、勇斗のビールを奪い取る。
ゴクゴクゴクゴク‥‥。
自分のビールを奪われたからなのか、呑まないと言っていた俺が呑んでるからなのか‥勇斗は一気に酒を流し込む俺を唖然として見つめる‥。
ドンッ!
行儀悪くグラスをテーブルに叩きつけ、勇斗に一言‥
「おかわり!」
勇斗Side
「勇斗ー!もう一杯!」
‥呑まないと言っていた藍が何故か飲みはじめて‥これで何杯目だ?6杯目になるんだろうか‥
ピッチが早く、次から次に飲み干してしまう。
「おいっ!藍、飲み過ぎじゃね?」
小川さんにそう言われているが、藍は全く気にする様子もなく飲み続けている。
山本さんも小野寺さんも心配そうに藍を見てるのを伺うと‥かなりの酒乱なのだろうか‥‥。
そして、誰も藍にお酒をあげなくなったからなのか‥グラスが空になると‥‥
「勇斗ー♡お酒ちょうらい!」
隣に座る俺を上目遣いで見上げて催促してくるようになった。
白い肌に赤らんだ頬、癖なのか口元は半開きで赤い舌がチラッと見えるたびに、何とも言えない感情が俺の中に芽生えだす‥。そんな事を考えていると‥
「ちょっと!勇ちゃん、藍さんと見つめ合って何してるの?」
いつの間に隣にきたのか‥エリカに声を掛けられるまで気付かなかった‥。
「お前に関係ないだろ、てか、何でこっちにきたの?」
「祐希さん、いま、電話中‥心配しなくてもまた戻ってきたら、向こうに戻るし♡‥って、藍さん凄く酔ってない?」
そう言って、藍の顔をエリカが触ろうとした瞬間‥
拒否するように藍が避けた事により、俺の胸に飛び込む形になった。
「うわっ、藍?大丈夫?」
慌てて藍の表情を見ると‥‥さっきまでのほろ酔いとは違う、何かを耐えているような、そんな感情が色濃く現れていた‥。
フフフ‥そんな藍を見ながら何故かエリカが笑う‥
「?何で笑ったの?」
「藍さんは‥私に触られたくないんだよね‥」
「答えになってねぇし、てか、お前藍に何かしたの?」
意味ありげに呟くエリカを、きつく睨むと、
「やだ、怖い勇ちゃん、わたし何にもしてないよ‥‥たぶん‥ね‥。それより、勇ちゃん、」
「はっ?何?」
「(小声)勇ちゃん、藍さんが好きでしょ?」
「‥‥‥お前に関係ないだろ」
「(小声)藍さんって酔っちゃうと記憶無くなるらしいよ‥今がチャンスじゃない?」
「バッカらしい」
「(小声)せっかくいい事教えてあげてるのに‥」
あざとく頬を膨らませるエリカを再度睨むと‥冷たいなぁと呟きながら立ち上がり、自分の席に戻って行った‥。
何しに来たんだ、アイツは‥なんとなく気になってエリカの方を眺めていたら、いつの間にか戻っていたキャプテンがこちらを見ていた‥。
俺とも目線が合うわけじゃない‥誰を見ているんだろう?‥目線の先を辿れば‥
俺の隣りで今だにうつむいてる藍に向けられている気がした‥。
藍を見てる‥‥?
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
「藍?大丈夫か?」
軽く肩を叩くと、やっと顔を上げてくれた。
「だいじょーぶ、ゆうと‥やさしーね」
酔いが回っているのか‥幼い子が喋るような話し方になっている藍はそう言うと、俺の顔を見つめニコッと笑った‥
でも、笑ったと思った藍の目には涙が溢れていた‥
「あっ、勇斗!何藍を泣かせてんだよ!?」
小川さんに怒鳴られるが、何故泣いてるのか、俺にも分からない。
なくした指輪か‥‥
それともエリカ‥‥?
そろそろ遅い時間になったということでお開きになるようだ‥
背中を擦っていた藍は、いつの間にか寝てしまったらしく、俺の膝にコロンと横になり寝息を立てていた‥。
柔らかそうな頬を触るとモゾリと動き、その動きで目尻に溜まっていた涙が一雫流れる‥。
「帰るぞーって藍、寝てんの?起きろー」
小川さんが藍の頰をツンツンと突く。
「小川さん、大丈夫っす。俺が藍、連れて行くから」
えっ?お前が?小川さんが驚いたように俺を見つめる‥。
「家も近いし‥何か問題でもあるんすか?」
「問題は‥ねぇけど‥」
小川さんがチラリとキャプテンの方を見てる気がした‥いくらメンバーと言っても連れて帰るのにキャプテンの許可がいるのだろうか‥?バカバカしい‥。
「キャプテン、俺が責任持って連れて行くんでいいっすよね?」
「あっ、‥‥‥‥いや、俺が連れて行くよ」
「いや、俺‥明日藍と用事もあるし、俺が連れて行くんで」
それでも‥と、何か言いかけたキャプテンを遮るようにエリカが‥
「祐希さん♡勇ちゃんに任せたらいいですよー、藍さんも勇ちゃんなら安心ですから♡」
そう言いながらエリカがまた寝ている藍に手を伸ばしてきたので‥咄嗟に阻止しようと手を弾いたら‥
あっ‥‥‥‥‥‥
エリカのバッグが床に落ち、中身が散乱してしまった。
「もうー、勇ちゃんひどい!」
お前が触ってきたからだろ‥と思いつつ、悪いと一言かけ、散乱した物を集める‥
そんな中、ふと床にキラリと光る指輪が落ちてる事に気付く‥‥‥。
「この指輪って‥‥‥‥」
拾い上げマジマジと指輪を見る‥。
シンプルなシルバーで裏に‥刻印が書かれている。
‥こんなものエリカ、持ってたかな?
ふとエリカを見ると、何故か慌てて俺から指輪を取り上げようとしていた‥。
「勇ちゃん、それ返して!」
「ちょっと待って!」
エリカが言うと同じタイミングで、小川さんが歩み寄り、エリカより先に指輪をとりあげる‥
指輪をじっくりと見たあと
「これさ‥俺見たことあるんだよね‥藍のじゃない?」
「はっ?」
まさか‥藍が無くしたと言っていた指輪‥??
それをエリカが持っていたってこと?
信じられなくてエリカを見つめると‥エリカは小川さんから指輪を奪い取ると‥妙に気まずそうな表情をしていた‥‥
そこで全てを察した‥。
「‥‥なんで、お前が持ってんの?」
「‥‥‥勇ちゃん、違うの!たまたま拾っただけで‥」
「はっ?拾ったんならすぐ返せばいいだろ!」
思わず怒鳴り口調になる。
「藍は今日さっきのお店まではあったって言ってたんだ、そこで拾ったんならすぐ返すだろ!」
「勇ちゃん‥ぐすっ、だって‥‥」
ちょっと待てと小野寺さんに制止されるが、俺の怒りは収まらない。エリカは怒る俺を涙目で見てるが‥‥いや、それでも気が済まない。
藍が‥どんな気持ちでこれを探していたのか‥ボロボロ泣きながら自分を責めていたのか‥
それを見ているからこそ、余計に許せなかった。
「藍は‥一生懸命探してたんだぞ‥自分が落としたと思って‥」
「だから、遅くなったんだ‥それを探してて‥」
小川さんの言葉に無言で頷く。
「ぐすっ、ごめんなさい‥本当に後から渡そうと思ったんだよ‥」
エリカが言い訳を並べるが、もうそんなのはどうでも良かった‥エリカにグイッと近寄り
「指輪、返して、藍に渡す」
「勇ちゃん‥でもね、その指輪‥」
エリカが言い淀むが、
「関係ない!返せ」
強い口調にエリカも、指輪を返してくれた。ただ、キャプテンを見るような視線に‥何となく察しがついた‥‥。
それでも構わない。
指輪を受け取り、寝ている藍を抱き抱え、店を出ようとすると‥
キャプテンが俺の前に立ち塞がる。
「藍は俺が送るよ」
「‥キャプテン、藍は俺と帰るって話してたんですよ?それなのにダメなんすか?」
強気でキャプテンの前にグイッと近付き‥
「それとも‥藍が俺と帰るのに何か問題でも?」
‥嘘だった、藍が俺と帰るとは言っていない‥でも、それでもキャプテンが藍を連れて帰るのは嫌だった‥‥そう俺の心が警告してる気がしたから‥‥。
「キャプテンは藍と何かあるんすか?‥何でもないっすよね?」
そう耳元で囁くと、キャプテンは何も言わなかった‥。
‥キャプテンが、答えられないのを何故か俺は分かる気がしながら‥店を出た‥‥。
外はさらに寒さを増している‥‥。
藍が‥少しでも寒くないようにとギュッと抱きしめながらタクシーを拾った‥‥‥。
‥‥‥夜に溶け込むように‥‥
誰にも邪魔されないように‥‥‥。
コメント
5件
ゆうきさん。マジで反省ですねw 小川さん!正座させて説教しましょ!
スッキリはしたけどゆうとくんごめん😭藍ちゃんは祐希さんに返してあげてください😭