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第106話:助っ人依頼と、キツネ兄弟の猛特訓
十勝の限界集落には、短い夏の本格的な猛暑が到来し、ギラギラとした日差しが降り注いでいた。
古民家の縁側で、俺はいつものように完璧な水加減で炊き上げた『玄米』と、香ばしく焼いた『大豆パティ』を真顔で咀嚼していた。
そんな平和すぎる昼下がり、庭先に軽トラが猛スピードで突っ込んできた。
「アキヤくーん! 大変じゃ! 緊急事態じゃあ!!」
砂埃を上げて飛び出してきたのは、この村の村長だった。
「村長、どうしたんですか? また怪しい業者が来ましたか?」
俺が箸を止めて立ち上がると、村長は息を切らしながら俺の肩をガシッと掴んだ。
「違うんじゃ! 今週末の『十勝地区・親善草野球大会』なんじゃが、ウチのチームの内野手がぎっくり腰で倒れてしもうてな! このままじゃ人数不足で不戦敗じゃ!」
「はぁ。草野球、ですか」
「頼むアキヤくん! 若いモンはもう君しかおらんのじゃ! 助っ人として試合に出てくれ!」
村長の悲痛な叫びに、俺は少し考え込んだ。
実は俺、こう見えて野球は嫌いではない。
むしろ十勝や北海道の高校野球の歴史、各チームのエースの球速データから過去の予選記録まで、頭の中に詳細なデータベースが入っているほどの生粋の野球好きである。
「……わかりました。村の危機とあらば、協力しましょう」
「おおっ! 恩に着るぞアキヤくん! ポジションはどこでもええが、できれば内野を頼む!」
村長が嵐のように去っていった後、俺は物置の奥から愛用の野球道具を引っ張り出してきた。
手入れの行き届いた『ミズノのグラブ』と、同じく『ミズノのファーストミット』だ。
ブラック企業時代にも密かに買い揃え、完璧な型付けを施してきた俺の相棒たちである。
「お兄さん、野球できるんですか?」
小春ちゃんが珍しそうにファーストミットを覗き込んでくる。
「元・陸上自衛隊『需品科』を舐めるなよ。強靭な足腰と、物資を正確に投擲する肩の強さには自信がある」
俺は準備運動を済ませ、古民家の広い庭でゴロ捕球と送球の感覚を取り戻すための『特訓』を開始した。
パンッ! という小気味良いミットの音が、真っ青な夏の十勝の空に響き渡る。
その音に反応した者がいた。
「コンッ!?」
「キュンッ!」
庭の隅で昼寝をしていたキタキツネの兄弟、コン吉とコン次郎だ。
俺が転がした白球を見た瞬間、二匹の野生の狩猟本能(遊び心)に火がついたらしい。
弾かれたように駆け出し、俺が壁に向かって投げたボールが跳ね返ってくるよりも早く、凄まじいダッシュでボールに追いついた。
「おい、お前ら。それは食べ物じゃ……」
俺が言いかけるより早く、コン吉が器用に前足でボールを挟み込み、そのまま見事なグラブトス(?)の要領で、コン次郎へとボールを弾いた。
「キュンッ!」
コン次郎はそれを見事なダイビングキャッチで口に咥え、俺の足元まで一直線に走ってきて『ぽとっ』と落とした。
「……お前ら、今のは完全にプロ顔負けの二遊間の連携(ゲッツー)だったぞ」
『ミャーウ(私も混ぜなさいよ)』
縁側でとろけていたシロまで、面白そうな気配を察知して庭へと降りてきた。
ジンバルに固定された俺のiPhone miniの画面では、一千万人のリスナーたちがこの光景に釘付けになっていた。
『キツネがゲッツー取ったwww』
『野生の身体能力バグりすぎだろww』
『シロ様も参戦!?』
俺は少し悪戯心が湧き、シロに向かってふわりと高いフライを投げ上げた。
太陽の光に重なる白いボール。
普通の猫なら見失うか、驚いて逃げるだろう。
だが、我が家の神獣は違った。
シロは地面からフワリと反重力で数十センチ浮き上がると、落下してくるボールの軌道を、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――で正確に見切り、肉球を柔らかく使って『スッ……』とボールの勢いを完全に殺してキャッチしたのだ。
まさに、名手も顔負けの完璧な衝撃吸収(ショックアブソーバー)。
「……………………は?」
俺と小春ちゃんは、完全に言葉を失った。
そして、チャット欄は前代未聞の大爆発を起こしていた。
『うおおおおおおおお!!!!』
『シロ様の超絶滞空キャッチきたあああ!!!』
『今のクッション性、完全にゴールデングラブ賞だろwww』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Incredible! I will buy a major league team for Shiro right now!“(信じられない! 今すぐシロのためにメジャーリーグの球団を一つ買おう!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Those foxes are worth a 100 million dollar contract!“(あのキツネたちには一億ドルの契約の価値があるな!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×10連発)=”Akiya! Let them play in the game!“(お兄さん! 彼らも試合に出してあげて!)』
『限界集落から最強のモフモフ球団爆誕ww』
「お、お兄さん……! コン吉くんもシロちゃんも、メジャーリーガーになっちゃいますよ!?」
小春ちゃんが興奮してぴょんぴょん跳ねている。
「落ち着け小春ちゃん。皆さまも冷静に」
俺はミズノのファーストミットをパンッと鳴らし、いつもの限界言い訳タイムを発動した。
「彼らは野球をしているわけではありません。キタキツネの狩猟本能による動体視力と、猫特有の優れた肉球のクッション性が、偶然ボールの軌道と一致しただけです。ええ、ただの大自然の生態系がもたらした『少しアクロバティックなじゃれ合い』に過ぎません」
「んなわけあるかあああ!!!」
小春ちゃんが、俺の背中に愛あるメガホン・スマッシュを見舞った。
「完全に二遊間の連携プレーしてましたよね!? シロちゃんに至っては浮いて捕ってましたよね!? どこにそんな大自然の生態系があるんですか!! 素直に才能を認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのメガホンツッコミww』
『少しアクロバティックなじゃれ合い(メジャー級のゲッツー)』
『主、今日も元気に生態系を歪める』
『これもう、大会の助っ人もふもふ達でいいだろww』
リスナーたちの腹を抱えるような爆笑コメントが滝のように流れる中、俺はため息をつきながらボールを拾い上げた。
「まぁ、いい練習相手にはなるか。行くぞお前ら、次は千本ノックだ」
『ミャウ!(かかってきなさい!)』
「コンッ!」
こうして、限界集落の古民家の庭で、元・需品科の俺と、奇跡のフィールディングを誇るモフモフたちによる、世界一バグった『野球の猛特訓』が幕を開けた。
今週末の草野球大会。
ただの人数合わせのつもりだったが、俺の愛用するミズノのグラブと、この最強のモフモフ応援団(?)がいれば、意外と面白い試合になるかもしれない。
十勝の澄み切った青空に、俺たちの大笑いする声と、ミットの快音がいつまでも響き渡っていた。
ゆうき あきや
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ゆうき あきや
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キュルノ
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#聖女
コメント
1件
わあああ第106話もめちゃくちゃ最高だったよおおお!!😭💕💕 草野球の助っ人頼まれたお兄さん、しかもまさかの元自衛隊・需品科!?「物資を正確に投擲する肩の強さ」に草生えたwwwでもってコン吉コン次郎の二遊間ゲッツー、シロ様のフワッと浮いてショックアブソーバーキャッチ…もうバグすぎて笑いが止まらんかった!!「少しアクロバティックなじゃれ合い」って誤魔化すお兄さんに、小春ちゃんのメガホンツッコミ炸裂なのもツボすぎる😂💥 モフモフ球団、本番でも大暴れしてくれそうで今から楽しみすぎるよ〜!!✨🐾