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翌朝。寝室にスマホのアラーム音が鳴り響く。
「う・・朝か・・・」駿は寝ぼけ眼を指で擦りながら時刻を確認する。
「6時か・・そろそろ起きるか」
駿は布団から起き上がり背伸びをする。
それとなくベッドを確認すると、そこには梓の姿はなかった。
「あれ?金森は?」寝室を見回すが梓の姿はなかった。
駿が首を傾げていると、ドアが開き
「あ!先生!起きた?」
制服姿の梓が元気よく入ってきた。
「ああ!金森か!おはよう」
駿はもしかしたら、帰ってしまったのかもしれないと思っていた梓が居た事で、安心したのか優しく微笑む。
「早く顔洗ってきてよ!いっしょに食べよ❤︎」
「食べる?」梓の言葉を不思議に思った駿だから、とりあえず顔を洗うのが先だと思い、寝室を出る。
リビングに出ると、テーブルには、トースターで焼いたであろう数枚の食パン、スクランブルエッグ、焼いたウインナーが盛られた、人数分の皿が準備されていた。
「これ・・金森が準備してくれたのか?」
「まぁ、料理できない私でも、これくらいなら出来るし・・それにあれだよ!泊めてもらったしさ、ホラ!なんとかの恩義ってあるじゃん」
梓は照れたように顔を赤くして言う。
「ああ、一宿一飯の恩義?」
「そう❤︎それ❤︎」
それから駿と梓は、家を出る時間まで、朝食に舌鼓をうつ。
「先生・・なんか嬉しそうだね?」
「あ、いや、なんか、起きたら朝食が準備されてるなんて、何年ぶりかなぁって思ってな」
駿は梓に聞こえないレベルのボソボソ声で呟く。
「え?何て言ったの?」梓は駿の言葉が聞き取れず聞き返す。
「あ、ああ、まぁ、美味しいなって言ったんだよ」駿は笑いながら誤魔化す。
「うそ!?ホント!?なら私、頑張れば料理出来るようになるかな?」
梓は目をキラキラ輝かせて駿に尋ねる。
「いや、出来てるじゃないか!これだけ出来れば上出来だよ」
「えへへ❤︎そうかなぁ❤︎」
梓はまんざらでもない様子で体をクネクネとうねらせる。
駿に褒められた事が相当嬉しかったようだ。
朝食を食べ終え、時刻は既に7時になろうとしていた。
「もう、こんな時間か!早く出なきゃな!」
駿は2人分の食器を重ねて、キッチンに持って行こうとする。
しかし「あ!待って!私が持って行くから!」と梓が焦った様子で駿から食器を奪う。
「いや、いいよ!用意してもったし・・・」
「いいったらいいの!私が持っていくってば!」
梓は真剣な眼差しで駿に訴えかける
何をそんなにムキになっているのだろうかと、駿は首を傾げるが、梓の熱意に根負けし食器を手渡す。
「そう!そう!それでいいの!私が洗うんだから!先生はキッチンには行かなくていいの!わかった?」
梓は満足げな表情を浮かべる。
しかし、行くなと言われれば、行きたくなるのが人間の性と言うもので、駿は梓がよそを向いた隙に、キッチンへと向かう。
「ああああ!だからキッチンはダメだってば!」
梓は慌てふためいて駿に向かって走る。
「いや、キッチンに何があるって・・」
駿の言葉はそこで途切れる。
「ああ・・そういう事か・・・」
駿はキッチンの惨状を目の当たりにし、全てを理解した。
キッチンには卵の殻、食パンの袋、ウインナーの袋、焼いた卵がこびり付いたフライパンなどが散乱していた。
「だからダメだって言ったのに・・・」
梓はしょんぼりした様子で、ガックリと肩を落とす。
駿は目の前の光景に驚いたが、怒りという感情は全くと言って無かった。
むしろ、慣れない事を自分のためにやってくれたのだと考えたら、むしろ感謝や愛しさの気持ちの方が勝っていた。
「ありがとな金森」駿は梓の頭を優しく撫でる。
「え?」てっきり駿に怒られるのだとばかり思っていた梓は、駿の予想外の発言に戸惑う。
「お、怒らないの?私・・こんなに散らかしちゃって・・・」
「怒らないよ!」駿は笑顔で応える。
「先生・・」駿を見上げる梓の目には、うっすらと涙が浮かんでいる。
「それに、金森がわざとこんな事する子じゃないって知ってるしな!」駿は笑みを浮かべて梓をフォローする。
「ありがとう・・先生」
「でもこのままだったら、小蝿とか湧くから、2人でちゃっちゃと片付けるぞ!」
駿は腕まくりをしながら言う。
「うん❤︎」駿と梓は、2人掛かりでキッチンの掃除に取り掛かる。
キッチンの掃除を終え、駿と梓は一通りの準備を済ませていた。
「じゃあ、先に行ってるね?」梓はそう言うと、足早に玄関へ向かう。
「あ、待って!一緒に」駿が梓の後を追い、玄関に行こうとすると「一緒はダメでしょ!!」と梓が一喝する。
「え?ダメ?いや、目的地一緒だしさ」
「え?なんで私がダメって言ってるか分からないの?」
梓の問いかけに駿は「ごめん・・ちょっと分かんない・・かな」戸惑った様子で応える。
「はぁ〜・・呆れた」梓はため息をつき
「いい?先生と私が、先生の家から一緒に出て来るトコを、他の生徒に見られたりしたら、先生どうするの?」と続けた。
梓の言葉で駿は、たった今自分はとんでもない事をしようとしていたのだ気づき
「あ!確かにそうだ!やば!俺・・金森に言われなかったら、一緒に出るつもりだったよ」
もしもそうなっていたらと考える駿の顔は、見る見るうちに青ざめていく。
「また私みたいな生徒に弱み握られちゃうよ?」
そういう梓に対し、確かに!とは言えるわけもなく、駿はただただ苦笑いをするしか出来なかった。
確かに!と言ってしまったら、駿自身が梓に弱みを握られているという事を認めてしまう事になるから。
「よかったね❤︎見られたのが私で❤︎」
「ま、まぁ、よ、よかった・・のか?」
どっちつかずの返事をする駿に梓は「そこは良かったって言ってよ!」と駿の両胸を両手でポカポカと叩く。
「ああ!はいはい!よかったよ!よかった!」駿は笑みを浮かべながら応える。
「まぁ、いいけど。なら、私いくね?」
「ああ!寄り道して遅刻しないようにな?」
「わかってる!」
梓はそう言うと、先に家を後にする。
家を出た梓は
「ごめんね・・先生・・でも、今日は来てるかもしれないから」 と呟き、学校とは反対方向に向かって歩いていく。
そんな梓の姿が見えなくなった頃、駿が自宅から出て来る。
駿は辺りを見回し「あれ?もう金森の姿が見えないな」と首を傾げる。
「まぁいいっか。俺もは早く行かなきゃな。教師が遅刻してちゃ、示しがつかないからな」
駿は梓とは反対方向、つまり学校に向かって歩みを進める。