処女厨とは女性が処女であるかどうかを異常に気にする者への蔑称。マリアの末裔が男だと知った時点で処女厨なんだろうなと思ったら案の定だった。
処女だと思っていた恋人がすでに別の男に処女を捧げていた。そのことを心に引きずったまま結婚したら、ただ処女を奪われていただけではなくクズ男三人の性欲処理の道具にされて、夫である自分が一度もしたことないような変態行為まで繰り返し応じていたことが結婚十八年目に発覚した――
春岡鉄雄の告白を要約すればこんな感じか。今は私自身のことで手一杯だけど、回答がほしいそうだからしてあげることにした。その代わり、鉄雄には私からも別にお願いしたいことがある。
今日 14:28
春岡鉄雄さん、全部読ませてもらったよ。
結論から書く。
子どももいることだし、絶対に別れない方がいい。
〈最高の妻〉だと自分でも言っていたじゃないか。
奥さんはかつてあなたの浮気を疑って、悪い男たちの口車に乗って浮気をやり返した。
夫である僕でさえ一度もしたことがない行為もあった?
そんなのは当たり前だ。愛してないから変態的な行為もできる。奥さんと別れないなら、あいつらにやらせたことをおれにもやらせろなんて提案は絶対にしないことだ。逆に言えば、別れることに決めたなら、最後にそういう行為に応じてもらってもいいかもな。きっと奥さんは罪悪感からあなたの要求に応じるだろう。
そうかと言って、あなたの心のわだかまりを解消することは難しい。奥さんの過去の過ちは今さら消せないが、あなたの心のもやもやの原因は奥さんの過去それ自体より奥さんにずっと隠しごとをされて噓をつかれていることの方が大きそうだ。それなら解決できるんじゃないか。
あなたが上司に要求したことと同じことを奥さんにも求めればいい。つまり、正直に奥さんの口から全部打ち明けてくれれば、それで手打ちにする。
おれからのアドバイスはこんなところだ。
健闘を祈る。
鉄雄がいまだに二十四年前の奥さんの過ちを引きずっているように、私も十五年間の夫の仕打ちにショックを受けている。
何はともあれシークレット結婚式の映像を確認しなければ! またパソコンを起動し、夫のパソコンからバックアップされたフォルダの中の動画ファイルを片っ端から開いていく。
ホテルの部屋の中で撮影されたものと分かったら閉じて、すぐに違うファイルを開く。あいつらの汚らしい行為映像なんて二度と目に入れたくなかったから。そんな空しい作業を何十回も繰り返して、とうとうそれらしき動画データに行き当たった。
天気は晴れ。場面は結婚式直後だろう。タキシードとウェディングドレスに身を包んだ二人が、青空の下並んで進んでいる。おめでとうの声が飛び交う。もちろん新郎新婦は幸季さんと秋山桔梗。
私の不幸はこのときすでに始まっていた。私と結婚するのを予期しながらほかの女と結婚式を挙げられる男も、それを承知で男と結婚式を挙げられる女も人間とは思えない。
裸で激しく行為している映像を見たばかりの二人が正装に身を包んでいるのを見るのは滑稽だった。正装は人間が身につけるものだ。動物なら人前でも裸でいればいい。
私の結婚は最初から偽りだった。裏切られた反動で、誰よりも愛していた人なのに幸季さんがもう人間にも見えない。何を見ても驚かない自信があった。その私が映像の中にそれを見つけた瞬間、頭を鈍器で殴られたような強い衝撃を受けた。
沿道で二人を祝福する列の中にリクライニング車椅子に身を横たえて必死に拍手するおばあさんがいるなと思ったら、幸季さんの実母だった。義母には本当によくしてもらった。当時もう寝たきりで老人ホームで暮らしていたが、結婚後面会に行くたびに、
「幸季は本当にいい人と結婚してくれたよ」
と私の手を取って涙を流していたものだ。
あれは演技だったのか? 本心は幸季さんが秋山桔梗と結婚すればいいと思っていたのだろう。義母が亡くなったとき本気で悲しかった。流した涙を返してほしい。
いや、その報いは全部あなたの息子に受けてもらいます。もうさん付けで呼ぶ気にもなれない。幸季と秋山桔梗を地獄に叩き落とすためなら、私は鬼にも悪魔にもなってみせる!
不倫に制裁といっても合法的には慰謝料を払わせるくらいしかない。会社に告げ口するという制裁もよく聞くが、逆に名誉毀損だと反撃される恐れもある。それに会社に告げ口したところで、不倫社員を処分してくれるかどうかは会社次第。職場不倫であっても社員のプライバシーには立ち入らないと言い訳して口頭注意程度で済ませる例も多い。
私はお金なんていらない。そもそも慰謝料請求の対象になるのは不貞行為のある場合。恋愛感情だけでは対象にならない。幸季と秋山桔梗の肉体関係は幸季の結婚後はないようだから、残念ながら慰謝料請求の対象にはならない。
もし幸季にお金を請求できるとしたら、毎月十万円も私に無断で秋山桔梗に送金し続けた件だけだろう。家計の損失に対する補填を求めるわけだ。
その場合、月十万円が十五年間で1800万円。私の十五年の不幸が1800万円でチャラにされると考えたら腹が立つ。もしかしたら父が幸季の肩を持って全額肩代わりして、幸季がまったく痛手を負わないという事態さえありえる。
合法的な制裁では効果的な制裁は望めない。それなら合法か非合法かにとらわれず制裁するしかない。効果的な制裁とはつまり相手の弱点を突くことだ。
幸季が私と離婚するに当たって娘たちの親権を望むのか望まないのか、秋山桔梗からなかなか返事が来なかった。
とはいえ返事など聞くまでもない。一円玉呼ばわりするくらいだから、幸季は私とさっさと離婚したいだろう。ただ彼と娘たちの関係は良好。浮気を疑うほど私を嫌っているのだとすれば、どちらについていくのか聞かれた娘たちは父親の方を選ぶのではないか? 娘たちが専業主婦の私でなく、ふだん多忙でなかなか会話もできない幸季を選ぶとするなら、これ以上の屈辱はない。
そんな事態だけはなんとしてでも阻止しなければならない。
幸季が隠していた映像を見た日は金曜日。幸季は家族サービスのつもりか、有名店のスイーツを買って帰ってきた。娘たちが喜んでいたから、私の分まで娘たちにあげた。幸季が買ってきたものなど何も口に入れたくなかった。
ただ私は何も知らない振りをしていつも通りに家事をした。幸季の食事に毒でも入れたい気持ちはあるが、そんな短絡的な報復はしない。秋山桔梗もろとも地獄に叩き落とすその日まで私は間抜けな妻を装い続けるだけだ。
その夜、知らずに上司の愛人と結婚させられたという相談者から結果報告があった。
(相談)玉虫色 (トピ主)三十年騙され夫
(投稿日時)9月22日23時11分
みなさん、先日はこんな老人の相談に真剣に回答して下さり本当にありがとうございました。決着しましたので報告いたします。
おとといは私の会社の給料日でした。毎月、給料日には妻の実家にいくらか送金していました。妻の両親はもう亡くなっていますが、実家を引き継いだ妻の兄がアリとキリギリスのキリギリスのような男で、私と同い年でありながら結婚もせず定職にもつかずその日暮らしの独居生活を送っていました。
妻に頼まれて生活費を毎月援助していたのですが、そうする気にならず今月の給料日は送金しませんでした。すぐに義兄から妻に連絡があったらしく、夜、妻から送金を催促されました。
「いや、忘れていたわけじゃないんだ。今までは君を愛していたから、君の兄さんを助けるのも当然のことだと思っていた」
妻は怒るでも声を荒げるでもなく、ただ澄んだ目を私に向けるだけでした。
「今は私を愛していないということですか?」
「いや愛している。でも愛は0か100かというものではないと思うんだ。今までを99とするなら今は30くらい。それでも亡くなった君のご両親なら世話になったから喜んで援助させてもらったと思う。でも僕は君の兄さんには与えるばかりで何も受け取ったことがないからね。今はとても援助を続ける気にはなれないんだよ」
聡明な妻は私の変化の理由を悟ったらしく言い訳もせず沈黙していました。
「身に覚えがあるようだね」
「私は幸せになってはいけない女でした」
「確かに不倫は誰も幸せにしない。だから結婚して三十年、僕は今まで一度もそれをしたことがない。でも君は違った。僕との結婚前に妻子ある上司と七年間も不倫を続けていたそうだね。一つ聞くけど、その関係はMに強制されたものだったの?」
「いえ。強引な人ではありましたが、それを続けたのは私の意志です」
「当時、君とMの関係は公然の秘密だったようだ。僕は知らなかったのに、出世のためにMの愛人だと承知でお下がりをもらい受けたのだと同僚にずっと軽蔑されていた。実際、僕の出世はMの後押しがあったおかげなのだろう。すべて自分の力だとうぬぼれていた自分が恥ずかしい」
「恥ずかしいことをしたのは私です。今まで黙っていてすいませんでした」
「三十年隠していたことがバレたのにずいぶん冷静に見える」
「最近あなたの様子が変だから覚悟はしてました」
もっとしどろもどろになると思っていたから、妻の毅然とした様子にむしろ感心しました。逆にこのあとすぐ私の方がしどろもどろになりました。
「考えたのだけど、君が不倫していたといっても僕と知り合う前。僕は君を許そうと思う」
ただし君のお兄さんには援助しないよ、と続けようとした私に妻が爆弾を落としました。
「許さないで下さい。交際中はもちろん、結婚後も私はMに抱かれていました」
「えっ。う、嘘だ。君は何を……?」
「Mはあなたの夜勤中を狙って当時あなたと住んでいたアパートに毎週のように訪ねてきました。結婚後一年近くそんな関係が続きました」
「結婚後も……? その関係はどうして終わったの?」
「私の方から別れを切り出しました。あなたのような誠実な人を騙し続けることに耐えられなくなったんです。でもMはまだ私の体が惜しかったようで、終わりにしようとは言ってくれませんでした。私は恥ずかしいビデオをたくさん撮られていて、それをあなたに見せるとMに脅されました。すべて打ち明けて離婚したあとに自殺するつもりだったので、どうぞお好きにと答えたら、青い顔して帰っていきました。それからまた戻ってきて、慰謝料だと言って有無を言わせずお金を置いていきました。加害者の私に慰謝料だなんて変な話です。きっと口止め料のつもりでしょう。お金は三百万円ありましたが、銀行に口座を作ってすべてそこに入れました。三十年間手をつけてません。あとで通帳ごとお渡しします」
自殺という単語が出てきてドキッとしました。ビデオなら見たよとは言い出せませんでした。
「今思えばMは傍若無人な男で、職場でも暴君のように振る舞っていた。君は自分の意志で不倫を続けたと言うけど、少なくとも最初はMに強要されたものだったんじゃないの?」
「そうだとしてもMはもういません。私が死んだMのせいにして自分の罪を逃れようとするのは違うと思います」
「でも君は結局、三十年自分からは打ち明けなかったんだね」
「あなたとの生活が幸せすぎて、いつしか絶対にあなたと別れたくないと思うようになりました。結果的にあなたをだまし続けることになりました。申し訳ありません」
「僕と別れても、君ならすぐに次の男が見つかったと思うよ」
「私にとってあなた以上の男はいません。私はずっと勘違いしていました。男の価値は金や地位で決まるって。あなたに愛されて、あなたを愛するようになって、私はやっと人の心を取り戻すことができました」
不倫に溺れていた妻は人の心を失っていたということでしょうか。私は知らないうちに彼女を改心させていたようです。
「Mが死んだとき君は泣き崩れていたよね。てっきりまだMに気があったからとばかり……」
「Mと二人であなたに謝るチャンスが永遠に失われたから悲しかったんです」
「僕は君を許そうと思っていたのに……。君は僕と離婚したらどうする気なんだ?」
「あなたにも独立した子どもたちにも迷惑はかけません。しばらく兄のいる実家に身を寄せようと思っています。決して償い切れるものではないですが、働いて少しずつでもあなたに償い続けていきたいです」
「あいつのうちに? 君に外で働かせて、家では家政婦扱いされるだけだよ」
「そうかもしれません」
結婚後もMと関係を続けていたと聞いても、不思議と妻への怒りは燃え上がってきませんでした。逆に妻を失いたくないという焦りで私の心はいっぱいでした。妻の不倫は妻と過ごした三十年という歳月を否定するほどのものとは思えませんでした。
一方、妻は私の罰を欲しています。それなしでは先に進めない、という鉄のような意思を感じます。すでに妻を許すと決めてこの話し合いに臨んだはずが、私は再度の決断を余儀なくされました。
「分かった。離婚しよう」
私にそう言われても、妻は顔色一つ変えませんでした。むしろホッとした表情。
「離婚は独身に戻り自由になるというだけ。制裁としては弱い。償いたいと言っていたけど、どんな過酷な制裁でも受けるということでいいの? あとからそれは無理だと言われても困るよ」
「一切口答えしません。すべてあなたの言う通りにすると誓います」
今すぐ死ねと言われたら即実行しそうな悲愴な顔をしています。
「どうせ家政婦になるなら義兄さんの家ではなく、僕のうちで家政婦になってもらおう。今まで以上に家事に励んでもらうが、制裁の一環だから仕事に対して給料は一円も渡さない。ただし最低限の衣食住は保証する。雇い主として君を監視しなければならないから、寝るときは僕と同じ部屋で、僕が君を求めても無理に応じる必要はないが、無理でなければ応じてほしい。起きているときも基本的に僕のそばにいなければならない。以上、あまりに過酷な条件だとは思うが、さっきの誓いに二言はないね?」
妻は目を丸くしています。
「私を許さないで下さいと言ったはずです」
「勘違いするな。これは制裁だ。口答えしないと言った以上、君は僕の言う通りにするしかないんだ」
「はあ」
妻は拍子抜けしたようでしたが、次の瞬間身を固くしたのが分かりました。私が離婚届を彼女の前に広げたからです。
「約束通りそれも書いてもらうよ」
「はい」
私の書くべき場所はすべて記入済み。あとは妻の署名だけ。覚悟していたとはいえ、ペンを持つ妻の手は震えていました。
私はそれを提出せず、ずっと手元に持っているつもりです。
提出したかどうか妻に聞かれたら、
「すっかり忘れていた。最近忘れっぽくなってね」
とはぐらかすだけです。
妻の不倫を子どもたちに教えるつもりもありません。
これが悩みに悩んで私が出した答えです。
みなさんから見ればスッキリしない玉虫色の決着かもしれません。
妻に離婚届を書かせたあと寝室で妻を求めたら、妻の協力もあり無事に最後まで行為を成し遂げることができました。先日来のEDが完治したとは断言できませんが、回復傾向にあるのは事実でしょう。
制裁して年老いた妻を路頭に迷わせても私の心は満たされません。私の幸せのためにはどうしても妻が必要なのです。定年後に予定していた夫婦での温泉旅行も必ず実現したいです。隠しごとがなくなり、私たちは結婚後三十年にしてようやく本当の夫婦になれたのかもしれません。
人妻キラー様ほか回答者のみなさま、本当にありがとうございました。
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