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それからの毎日は、驚くほど賑やかだった。
カイルは世話係だと言いながら、ほとんど遊び相手みたいなものだったし、イタズラをしては受付嬢のリズベットに怒られていた。
けれど——
そんな騒がしい日々が、嫌じゃなかった。
むしろ、少しだけ心が軽くなっている自分がいた。
書庫の本を読んでいると不意にカイルが問いかけてきた。
「なぁアレン、お前魔法は何属性なんだ?」
「あっ…」
言葉に詰まる。突然の問いかけに何を言えばいいかわからなくなる。
「ぼ、僕は魔法が使えないんだ…」
少しだけ間が空いた。
(やっぱり……引かれるかもしれない)
そう思った、そのとき——
「そうか、んーなら何か武器は使うのか?」
(あれ?なんで?)
返ってきた言葉が予想外すぎて呆気に取られている僕をよそに、カイルは輝いた瞳をこちらに向ける。
「なぁ!なぁなぁ!なんの武器を使うんだよ!」
「ま、待ってくれカイル!僕には魔法の才が無いんだよ?」
「ん?ああ、それが?どうかしたのか?」
「いや!だって…!」
「何言ってんだ?」
カイルは本気で不思議そうな顔をしていた。
「魔法が使えない奴なんて、別に珍しくもねぇだろ」
(……え?)
その一言は、これまでの常識を簡単に壊した。
あまりにも衝撃的な出来事に動揺を隠しきれない。カイルの反応もだが、それよりも自分以外にも同じような人がいることに。
「ーーなぁ!!」
「…っ!ご、ごめん。僕は剣を使うよ」
「お、そうか!…..よし!」
混乱している僕をよそにカイルは一瞬考えたかと思うと、勢いよく立ち上がり僕の方へと歩み寄る。
「ん?どうしたのカイル?」
「アレン!訓練場に行くぞ!」
僕の手を引き駆け出すカイル。
「あ、ちょ、カイル!」
「ほら、善は急げだ!はははは!」
振り回されるばかりの日々だけど、カイルの明るい性格は僕の心を照らしてくれた。
そんな日々を過ごし、ギルドの生活に慣れてきた頃。
「ふぁ〜、眠みぃなぁ」
「そうだね、昨日もずっと剣の撃ち合いしてたからね」
「おう、おはようさん!さっそくで悪いんだがお前らには討伐依頼にいってもらう!」
そう言ったのはギルドマスターのグラムだった。 今回のクエストは、町外れにある村で畑を荒らす猪の魔獣【ボア】の退治だ。
「お!まってたぜ!毎日稽古ばかりで退屈だったんだよ!」
そう意気込むカイルとは打って変わって、僕の顔引き攣っていた。
(だ、大丈夫だ…!ここ最近も小型の魔獣を討伐したんだし…)
「んじゃ、気をつけて行ってこいよぉ」
マスターやギルドのみんなに見送られながら、街道を歩き今回の依頼先へと向かう。
「行ってきまーす!!…. なぁなぁ!ボアの肉って美味しいらしいぞ!」
「はあ…カイルは呑気でいいな」
「はぁ!?誰が呑気だ!」
そんな話をしながら、例の畑につき情報収集を行った。村人が言うには、体長3mほどのボアが2匹森の奥からやってくるそうだ。
「いつ来るのか分からない、警戒を怠らずにいこう!」
「おう!」
夕暮れ時。
「……来た…!」
「やるぞ、アレン…! ……ん? アレン?」
暗く染まる空。
魔獣の低い唸り声。
そして——
脳裏に焼き付いた、あの夜の光景。
(……まただ)
呼吸が浅くなる。
足が、動かない。
ボアが地を震わせながら突進してくる。迫る殺意。
「くそっ! ……こっちだ、ブタ野郎!!燃えろ【ファイアボール】!」
カイルの怒声が響く。炎を纏った火球が彼の手から弾丸のように撃ち出され、ボアの左目を焼いた。
ブヒィィッッ!
悲鳴を上げた魔獣がカイルに向かって突進する。
(落ち着け…大丈夫だ…あの日とは違う。カイルもいる…!)
深く息を吸い、震える指に力を込める。
「……よし!」
ドドドドッッ!
片目を焼かれ、怒り狂ったボアが地を砕く勢いで襲いかかる。
「うおっ! あっぶねぇ!」
ギリギリで避けたカイルの横に並ぶ。
「ごめん、カイル遅れた! もう大丈夫だ…!」
「ったく、焦らせやがって! ……よっしゃ! そんじゃあ、やってやろうぜ!」
カイルが火魔法で牽制する。
その炎に紛れるように、僕は踏み込んだ。
(今だ——!)
剣閃が月光を反射し、ボアの喉元を正確に捉える。
ザシュッッ!
倒れたボアをながめていると、カイルが駆け寄ってきた。
「よっしゃー! やったなアレン! これで美味い肉が食べれるぞぉ!」
「そうだな。無事終わってよかっーー」
ほっと一息ついたその瞬間、殺気が背を貫く。
ドドドドッ!
「……っ! 後ろだ、アレンっ!!」
カイルの叫びと同時に、背中に痛みが走る。
「うっ…!」
すぐにボアの方へ視線を向けると、強烈な一撃をくらい宙を舞うカイルの姿が瞳に飛び込んできた。
「カ、カイルゥゥゥ!!」
鈍い音。
次の瞬間、カイルの体が地面に叩きつけられた。
「……ぁ」
声が出なかった。
さっきまで、笑っていたはずなのに。
(…嘘だろ、なんで…)
握る剣に力がこもる。
「くっそぉぉぉぉ!!」
一気に距離を詰め、剣を振り下ろした。
ザシュッッ!!
(……あれ?)
手応えが軽い。
あまりにも、簡単すぎる。
(なんでだ……?)
よく見れば、ボアの両目は完全に焼かれていた。
(…っ!カイルが……吹き飛ばされた瞬間に…ってそんな事より!)
「カイルっ! おいっ!!」
血が止まらない。
「くそっ! すぐ村に連れて行くからな!」
村の方へと急いでカイルを運んだが、医者は応急処置をするも表情は険しかった。
「命は繋いだが、右脚と肋骨が数本折れている。内臓も損傷が激しい、早く街の医者に診せたほうがいいーー」
「……っ!…はいっ ……ありがとうございました」
話を聞き終えるや飛び出そうとした僕に医者が声をかける。
「待ちなさい、今から行くと夜になる。それでも行くと言うのなら、これを持っていきなさい」
医者が渡してきたのは、魔除けの粉だった。僕は深々と感謝をしすぐに街へと向かうことにした。道中、カイルを背負いながら焦りと後悔が胸中を駆け巡る。それでも親友を助けるべく夜の荒野を駆けた——。
(ギルドには凄腕の治癒魔法使いがいたはずっ……!)
早く。
もっと早く。
遅れれば——取り返しがつかなくなる。
「絶対に、助ける……!」
夜の荒野を、僕はただ必死に駆けた。