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注意事項
〇シスコンいます。
〇純粋枠の前でピンクのものは書いてはいけません。
〇静寂?本作では瞬で消えますよ。
〇全体的にコメディーです。
〇ちょっとキャラ崩壊してます。
〇謎テンションによる謎が入り混じってます。
〇オリキャラ出ます。
〇本年は本当にありがとうございました。
以上の事を御理解の上、本作品をお楽しみ下さい。
2025年12月31日23時丁度。
今や和洋折衷となった日本のドール、愛華の別荘にあるキッチンからは、出汁と醤油のいい香りが漂っていた。
蕎麦を茹でながら、愛華は静かに声を漏らす。
「今年も、もう終わるのか…」
名残惜しいような、そうでないような。少し不思議な感覚を毎年覚える。
しみじみとした、静かな空気がキッチンをただよった。
だが、この世界に愛華が愛華としている限り、静けさというものはそう長くは続かない。
どこからか慌ただしい足音が二人分キッチンへと向かってくる。
軽いため息を漏らしながら愛華は、コンロの火を止め、ゆっくりと振り返った。
「愛ねぇ!!鈴ねぇがいつもの倍以上に発狂してる!!」
満面の笑みのまま、大声で報告してくるのは大日本帝国海軍のドール、炎海。
「鈴姉さん、取り憑かれた、かも……」
少し怯えているような、されど無表情で淡々と言葉を発したのは大日本帝国航空隊のドール、空炎だ。
「今年もそろそろ終わると言うのに、何故こうも…」
そんな愛華のため息混じりの声を掻き消す程の声が、奥の居間から聞こえる。
「キャァーー!和華!それは見ちゃダメェー!」
何やら必死に制止させている大日本帝国陸軍のドール、陸華の声。
「鈴姉さん!何見せようとしてるんですか!!?」
悲鳴とも聞き取れるような怒りの声を出す、大日本帝国のドール、炎帝。
「新年に間に合いそうにねぇんだが〜!?!!」
普段の倍発狂している、日本のもう一人のドール、鈴華の奇声。
そんな声に、愛華はただため息をつくしかなかった。
途端に痛くなりだした頭を抱え、眉間のシワを揉みほぐす。
毎年恒例と言うべきなのか、言って良い物なのか、ほぼ毎日のものだと言って良い物なのか。
そんな事を思考しながら、キッチンへと駆け込んできた二人には、年越しそばを運ばせる。
愛華は暖簾をくぐり、寒月に照らされる回廊を進んだ。
居間からは柔らかな琥珀色の光が障子から漏れ出ている。
静かに障子扉を開けてみれば、ある意味見慣れてしまった光景が愛華の目に飛び込む。
「あと1ページ!あと1ページだけなのっ!!!」
鈴華は畳の上に小さな机を置き、辺りには原稿用紙や何かの資料を散乱させ、必死にペンを走らせている。
「和華、こっちに甘〜い練り切りがあるよ〜。こっちだよ〜」
「ねりきり…?食べてみたいです。でも…、鈴華さんの方も気になります」
「そっちは見ちゃダメェーー!」
必死に和華の視線を誘導する陸華と、純粋な好奇心から鈴華の手元を覗こうとする和華。
「いい加減にそれを片付けてくださいっ…!」
一瞬たりとも人様にお見せすることができないようなそれを取り上げようと奮闘する炎帝。
ピシャリと音を立て障子が閉められた。
「……鈴…」
いつもよりもワントーン低い愛華の声に、鈴華は錆びた人形のごとくゆっくりと、そっと振り返る。
「ねえ、さん……」
居間の空気は静まり返り、鈴華は妙な冷や汗が流れ、背筋が凍った。
「いや、これは、……海よりも深い訳がございまして!!!」
そんな鈴華の言い訳など愛華の耳に届くわけもなく、その紅の瞳は軽蔑と呆れの視線を鈴華に送るのみ。
「炎帝、陸華。よく耐えたな」
愛華は、鈴華の狂気的な行動に必死になっていた弟妹に、労いの言葉をかけた。
「鈴、この紙屑の文字を1つ残らず竈に焚べるか、鞄になおすか選べ」
二人へと向けた優しさは鈴華には向かず、静かでありながら無慈悲に告げた。
「そんな!うちの血と涙と汗と妄想の結晶を!?」
「五、……四、……三」
鈴華の悲鳴を遮るように、愛華の冷酷なカウントダウンと、炎帝と愛華による原稿用紙と資料の回収が始まった。
「そんな殺生な!!」
回収されまいと必死に死守したとしても、愛華のカウントダウンは止まることを知らない。
「二……、一……、ゼ」
「片付けます!!片付けますから!!!」
半泣き状態で、鈴華は渋々鞄に大量の紙屑を詰め込み始めた。
「……よろしい」
そう愛華が言葉を発すると、障子の奥からお盆を持った炎海と空炎が顔を覗かせた。
「「終わった…?」」
「あぁ、終わったぞ。ほら、運んでくれ」
愛華がそう言った瞬間、どこか遠くから低い鐘の音が聞こえた。
「あ、始まったね」
「始まりましたね!」
陸華と和華が顔を見合わせて笑顔を浮かべる。
和華の脳内から鈴華の書いた内容は綺麗さっぱり消えたらしい。
年越しそばを目の前に、勢いよく手を合わせる者と、静かに合掌する者がいる。
「いっただきま〜すっ!」
満面の笑みで炎海が声を上げ、箸をいそいそと取る。
「いただきます」
陸華や炎帝も笑みを浮かべた。
彼らの目の前にある年越しそば。今年は関西、特に京都や大阪辺りのそれと同じだ。
琥珀色に透き通る昆布の出汁と、上品な薄口醤油の香りが鼻の奥をくすぐった。
蕎麦の上には、堂々とニシンの甘露煮が乗せられており、青ネギがパラパラとまぶされている。
食欲旺盛な陸華と炎海の丼の上には、それらに加えて、海老の天ぷらや油揚げなんかも乗せられていた。
炎海は大口を開けてニシンを一口で食べる。
口の中には、ニシンの甘辛いコクと、昆布の旨味。さらには、青ネギの爽やかな香りまでもがそっと広がっていく。
「ひあわへ〜」
口をモグモグとしながらそんな事を呟く炎海に、真横に座る空炎が肘で脇腹を突付いた。
「下品」
そうして、今年も空炎の口からその言葉が炎海へと向けられた。
食事中の鈴華は口だけは静かだ。そう、“口だけ”。
足をジタバタと動かし、満面の笑みで、口福を表現している。
だがそれを愛華は容認していた。
鈴華はドールの持つ能力の関係で、普段身に着けている狐面がその能力を封じているために何ら変わりなく元気に過ごしているが、最悪の場合人を容易く殺せる。
故に、鈴華は狐面を外した時は口だけは、静かである。
まとめると、言葉で幸を表現できない代わりだと言う判断の元、愛華に容認されていたのだ。
そんな鈴華の隣では、和華がニコニコとしながら頬に手を当てて、口いっぱいに蕎麦を含んでいる。
和む。
除夜の鐘の音(ね)をBGMに、愛華は静かに出汁を啜った。
「明日は忙しくなるからな。蕎麦を食べ終えたら各自部屋へ戻りしっかり寝ろよ」
そう言った愛華の表情と声色は穏やかであり、優しかった。