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学校の終わりのチャイムが鳴るや否や、私は荷物を持って教室を飛び出した。今日は待ちに待った夏祭りの日。私は今日、友達からの誘いも全て断って、彼らと交わした約束を数年越しに果たすのだ。
フワフワとした気持ちで通学路を走り、家の門を開ける。玄関の隣の縁側で、座って笑いあっている浴衣の青年が二人。二人は同時にこちらを振り向くと、優しい笑顔を浮かべた。
💙「よお。久しぶりだな」
❤️「学校から走ってきたの?すっごく汗かいてるよ」
親戚の双子のお兄ちゃんである、翔太くんと涼太くん。彼らはどんな時も一緒にいる。浴衣を着て、縁側に腰かけているその姿があまりにも美しくて……それと、久しぶりにお兄ちゃんたちに会えた嬉しさで。私は笑顔で頷いた。
「今日があの約束の日だから、待ちきれなくて!」
❤️「ふふ、そうだね」
💙「早く着替えて来いよ。祭り、もうすぐ始まるだろ?」
「うん!」
微笑む二人の隣に荷物を置き、家の奥へと向かう。あらかじめ用意しておいた浴衣を着る前に……
「汗、ふかないとだな」
急いで汗ふきシートで体を拭こうとすると、縁側の方から、
💙「汗ふきシートじゃ大変だろ。シャワー浴びてきたら?」
「えーでも、お兄ちゃんたち待たせてばっかりになっちゃう……ていうか!見てたの?!」
💙「ばっ……!違ぇよ、別に見てなんか……!」
❤️「汗ふきシートとか言ってる時点でもうバレバレだからね?」
💙「おい涼太っ……!」
「もー。翔太お兄ちゃん変態〜」
💙「違えって!早く風呂行ってこい!」
❤️「俺たちいくらでも待つからさ。こういうのはレディーファーストでしょ?」
「なんかちょっと違う気もするけど……ありがとう、じゃあ入ってくる!」
涼太くんの言葉に笑いながら、足早にお風呂場に向かう。体の汗を軽く流すついでに、汗でおでこに張り付くほどになっていた髪も洗ってしまう。
ササッとお風呂を出て、ドライヤーで髪を乾かす。そのまま脱衣所で浴衣を着て二人の元へ向かうと、二人は驚いた顔で私を見つめる。
「……なに?どこか変かな」
❤️「いや、変とかじゃなくて……」
💙「シャワー早いし、着付けも早いな」
❤️「しかも、浴衣。すっごく似合ってて可愛い」
「え、可愛い?!」
思わぬ言葉にびっくりして、顔が熱くなる私。
💙「おい、俺が言おうと思ってたのに!」
❤️「言ったもの勝ちでしょ」
私を置いて二人でワイワイと話を進めていく様子に、顔の熱も引いて思わずクスリと笑ってしまう。
💙「……なに笑ってんだよ」
不服そうな顔で私を見る翔太くん。私たちが初めて会った時からずっと、二人のこのテンポ感は変わっていない。
「全然変わんないね、二人とも」
気づけば私はふとそう零していた。そんな私にまた目を丸くする二人。
💙「……ふはっ、お前はでっかくなったよな〜。もう高校生だっけ?」
私の頭をわしゃわしゃと撫でながら翔太くんは言う。
七年前。私たちが初めて会ったのは、ひいおじいちゃんの法事があった時だった。小学三年生だった私は、法事というものが何か分からない上に、ひいおじいちゃんとは滅多に会ったことがなかったため、ずっと暇を持て余していた。そんな時、私の遊び相手になってくれたのが翔太くんと涼太くんだった。中学二年生だった彼らが幼い私の面倒をずっと見てくれて、たった一日ですっかり仲良くなった。
……約束をしたのも、この日だった。法事のあった日がちょうど地域の夏祭りと重なっており、今思えば法事をするような雰囲気ではなかった。
「ねぇ、なんでおまつりにいっちゃだめなのー?」
幼い私は、二人にそう聞いたらしい。
💙「うーん、なんでって言われてもなぁ」
❤️「ひいおじいちゃんが死んじゃった日だから、今日は外に遊びに行っちゃダメなんだよ」
「んー、そうなんだぁ……おにいちゃんたちと、おまつりいきたかったなぁ」
私があまりにも行きたい行きたいと言うから、二人は必死に考えてこう言ってくれた。
❤️「じゃあさ、俺たちも滅多にここに来ることは出来ないから、お互いに大きくなったら一緒にお祭りに行こうか」
「おおきくなったらー?」
💙「お、いいじゃんそれ。○○が今三年生だから……七年たったら、高校生?」
❤️「俺たちも成人になるし、ちょうどいいかもね」
💙「じゃあ○○、七年後。七年後の夏祭りは、俺たちと三人で行こうな」
「ななねん……わかった!」
七年後の夏祭り。それが、今日にあたる。
あの頃と変わらない笑い方で、翔太くんは私の頭を撫で続ける。
「そう!私ももう高校生なの。そんな子供みたいに撫でないで!」
なんだか急に照れくさくなって、翔太くんの手を払う。
💙「いやいや、高校生もまだ子供でしょ」
そう言って翔太くんは軽快に笑う。改めて二人を見ると、あの頃とは違う大人っぽさが滲んでいて、なんだか少しソワソワしてしまう……
❤️「それにしても、七年越しに約束を果たすって、なんだか漫画みたいだよね」
「たしかに。七年間もこの約束覚えてるなんて……」
💙「七年経てば忘れちゃうはずなんだけどな」
❤️「相当楽しみだったんだね、俺たち」
「だねぇ……」
お祭りに行くために集まったのに、家の縁側でしんみりと話す私たち。
❤️「……あれ?この音、お祭りの囃子じゃない?」
ふと聞こえてきた祭り囃子に、ピクリと反応する涼太くん。
💙「みたいだな。んーじゃ、そろそろ行こっか」
そう言って二人は手を私に差し出す。戸惑う私に、涼太くんが言う。
❤️「はぐれたら困るでしょ。ほら」
💙「……ふはっ、何顔赤くしてんだよ。ほら行くぞ!」
「え、わ、ちょ!」
私の両手を引いて歩き出す二人。そんな二人の顔も赤くなっているように見えたのは……ただの気のせいなのでしょうか。