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第六話:雨の放課後
ドシャァアアアアッ——!
放課後の校舎に、激しい雨音が降り注いでいた。
空は真っ暗、雷も遠くで唸っている。
教室にはもう誰もいない。
芽は、一人窓の外を見ていた。
傘を忘れたのだ。通学中、取りに帰ろうとも思ったけれど、足を学校へと運んでしまった。
「……佐藤!」
その声に振り返ると、教室のドアが勢いよく開き、翔太がずぶ濡れで立っていた。
「どうして……?」
「追いかけなかったこと、ずっと後悔してた。あの時、ちゃんと言えなかったから。今日こそ言いにきた!」
芽は言葉を失った。
翔太は、びしょ濡れのまま彼女の前まで来て、まっすぐに目を見つめる。
「俺、お前が好きだ。マジで。なんか気になるとか、放っておけないとかじゃなくて、本気で好きなんだよ」
芽の目に、雨ではない雫がにじんだ。
「でも……私、信じきれなかった。花恋さんのことも、自分の気持ちも、全部中途半端で……」
「それでもいい。信じてくれなくてもいい。でも俺は、お前を信じるって決めたんだよ!」
翔太の声は、雷よりもまっすぐだった。
芽は、ほんの少し、唇を震わせたあと、静かに言った。
「……そんなの、ずるいよ」
そして——
そのまま翔太の胸に、ふっと体を預けた。
「……でも、ありがとう」
雨の音が、少しだけ優しくなった気がした。
それは、二人がようやく“同じ場所”に立てた瞬間だった。