第七話:決められない答え
雨が上がった次の日。
空は嘘みたいに晴れ渡っていて、アスファルトには昨日の名残がまだ光っていた。
芽は教室で翔太の隣に座っていた。
それだけのことが、特別に感じる朝だった。
けれど、そこへ花恋が現れる。
「……ねえ、ちょっと話せる?」
芽は一瞬、迷ったがうなずいた。
屋上への階段。人気のない場所に、ふたりの影が並ぶ。
「嫌いになりたくなかったの。あんたのことも、自分のことも」
花恋は真っ直ぐだった。
憎らしくなるほど、まっすぐで、きれいだった。
「好きだったんだ。バカみたいに。翔太が他の子を見るたび、壊れそうだった。けど……」
言葉を切った花恋が、少しだけ笑った。
「ちゃんと好きでいてくれる子が現れたなら、それは、あたしじゃなくてもいいって思った。……くやしいけどね」
芽は、何も言えなかった。ただ、強く胸を押さえていた。
翔太を信じたい。でも、誰かを傷つけてまで、進んでいいのか。
恋って、幸せになるためのものなのに、こんなにも痛いのか。
その夜。翔太はスマホを握りしめていた。
「話せないか?」
そう芽に送って、届いた返事は短かった。
——“ごめん、今はちょっと”
翔太はうつむいた。
伝えたはずの気持ちが、ちゃんと届いてない気がした。
好きだ。
でも、好きだけじゃどうにもならない瞬間がある。
次に会った時、どんな顔をすればいいのか。
翔太も芽も、誰も、まだ“答え”を持っていなかった。
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