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一緒にいるよ
・・・・・・・・・・
ここはどこ?
僕は死んだの?
…いや、切断された手足も串刺しにされた右胸も痛みがある。まだ僕は生きているんだ。
茉鈴は?無事なのか?
銀子は?他の仲間は?無惨はどうなった?
何も分からない。
身体が重たい。力が入らない。
「……とう様、…時透様」
誰かが僕を呼ぶ声が聞こえて、重い瞼をこじ開けた。
「…う……」
「あっ、時透様!アオイさーん!時透様がお目覚めに!!」
「時透様!よかった!」
蝶屋敷の子たちだ。…ということは僕は一応助かって治療を受けていたのか。
「う…っ!」
身体を起こそうとして、激しい痛みが走った。
「あっ、まだ起き上がらないほうがいいですよ!」
「…みんなは?…茉鈴は…?」
「茉鈴さんなら、こちらに」
僕が向こうとした反対側を示されて、首だけ動かしてそちらを見た。
「!茉鈴……」
そこには片目を包帯で覆われて、規則正しい寝息を立てて眠る茉鈴の姿が。
「…茉鈴さんもかなり危ない状態だったんです。昨日やっと目を覚まされました。……最後の最後まで戦って…、髪も短くなって、…右腕も……」
同期の神崎さんが涙を浮かべる。
「…っ…、この戦いで大勢の鬼殺隊の仲間が命を落としました。…しのぶ様も、玄弥さんも、岩柱様も、蛇柱様も、恋柱様も……。他にもたくさん、たくさん…っ」
声を詰まらせながら話す神崎さん。
「そう……。僕はどのくらい寝てたの? 」
「2ヶ月半です。その間に、一旦は命を取り留めた人たちも大勢、体力が保たなくて死んでしまいました」
「…そっか……」
涙を拭いて、神崎さんたちが立ち上がった。
「私たちは他の患者さんの様子を見てきます。何かありましたらそこのベルでお呼びください」
「うん。…ありがとう」
彼女たちが退室して、首だけ動かして部屋を見渡す。
同じ部屋には炭治郎、善逸、伊之助、栗花落さんも寝かされていた。
もう一度、隣に寝ている茉鈴を見た。
「……うっ…、ま…りん、茉鈴…」
掠れた声しか出ない。
『………ん…』
茉鈴が片方残った目を開けた。
『!!無一郎くん…』
「茉鈴…!」
にっこり微笑む茉鈴。それを見て僕の目からは涙が溢れ出した。
『無一郎くん…っ…、よかった… 』
「茉鈴っ、傷の具合は?……痛かったよね…」
『…大丈夫よ。泣かないで、無一郎くん…』
茉鈴がぐっと左腕を伸ばし、僕の涙を指で拭ってくれた。
もう二度と会えないと、会えないまま自分は死ぬんだと覚悟した相手が助太刀に来てくれて、あの戦いを生き延びていた。
「……っ、…ふ…うぅっ…」
『無一郎くん。…私は大丈夫よ。大丈夫だから。ね?』
茉鈴も涙を浮かべながら、僕の頭を撫でてくれていた。
その2日後、お見舞いに来てくれた宇随さんや隠の人たちから僕が気を失っている間に起きたことの詳細を聞いた。
胡蝶さんは1年以上掛けて体内を藤の花の毒で満たし、上限の弐に自分を食わせて命を落とした。
玄弥は上弦の壱の身体の一部を取り入れたことで鬼化が激しく、亡くなってから遺体が残らなかったらしい。
無惨が灼けて塵になった後、悲鳴嶼さんは脚を切断された状態で、隠に手を握られながら穏やかな微笑みを浮かべて息を引き取った。
顔に酷い怪我を負った伊黒さんは両腕を失った甘露寺さんに自分の羽織を着せて彼女を抱き締め、2人共幸せそうに笑って一緒に旅立っていったそう。
不死川さんは出血が酷く、内臓もひしゃげた状態で生死の境を彷徨っていた。
冨岡さんは炭治郎が鬼になってからも現場の指揮を取って戦った。無惨と戦った際に切断された右腕は、その後の治療の過程でさらに短くなってしまったそうだ。
そして、体内に残った無惨の細胞のせいで鬼になった炭治郎を、人間に戻った禰豆子や善逸や伊之助が必死に止めて、栗花落さんが打ち込んだ鬼を人間に戻す薬により、ようやく炭治郎は自我を取り戻したらしい。
茉鈴は上弦の壱を倒した後、みんなと合流して無惨と戦った。その時に、仲間を庇って右腕を切断されてしまった。
綺麗な黒髪も短くなって、簪を差すこともできなくなってしまった。それでも、彼女は簪をポケットに入れて、短くなった髪で片方だけになった腕で戦い続けたそうだ。
話を聞いて泣きじゃくる僕たちを、宇随さんが頭をワシャワシャ撫でて、隠の人たちも泣きながら背中をさすったりして励ましてくれた。
鬼舞辻無惨を倒せたのはよかったけれど、その代償は大き過ぎるものだった。
たくさんの仲間が死んだ。大好きな人たちも、名前も知らない剣士も隠も。お館様も、あまね様も、ひなき様も、にちか様も。
みんなの力で鬼のいない平和な世界がやって来た。でも、失った手足も目も元には戻らないし、何より、僕たちは心に深い傷を負った。
それでも、生き残った僕たちは、先に旅立っていった仲間たちの分まで精一杯生きていかなきゃいけないんだ。
僕の希望で茉鈴と2人部屋にしてもらい、励まし合いながら治療とリハビリを続けた。
療養中、片足を失った僕は車椅子で生活していたけれど、リハビリを頑張ってどうにか杖歩行ができるようになった。でも、左手も失くしているから右半身で身体全体を支えるのは結構しんどくて。長時間歩くのは厳しかった。
夜中、目が覚めた。今はない筈の左手が痛い。足も。傷口が痛いんじゃない。“そこにあった部位”が痛む気がするんだ。これが“幻肢痛”ってやつなのかな。
「…うっ……」
身体が熱い。まだ熱が続いてるみたいだ。
喉が乾いた。水をもらいに行こう。
『……無一郎くん…?』
「あ、茉鈴。ごめん、起こしちゃったね」
『平気よ。…どうしたの?』
「ちょっと喉が乾いたから水を飲みに行こうと思って……、うわっ!?」
ガターン!!
『無一郎くん!』
杖でバランスが取れずに転倒してしまった僕を、慌てて起こしてくれる茉鈴。
「ご…ごめん…」
『いいのよ。車椅子持ってこようか?』
「……うん…」
茉鈴が部屋に置かれていた車椅子を持ってきてくれて、支えてもらいながら腰掛ける。
ブレーキを外し、車椅子を押してもらって2人で台所に向かった。
水を飲み、再び部屋に戻ってきた。
僕をベッドに腰掛けさせた後、邪魔にならないところに車椅子を置いた茉鈴が、自分のベッドに戻ろうとしたその時、力尽きたように膝から崩れ落ちた。
「!?茉鈴!…あっ!」
慌てて駆け寄ろうとして、またバランスを崩した僕は自分も床に倒れ込んでしまった。すぐに起き上がり、這うようにして茉鈴のところへ行く。
『…ぅ……』
すごい熱だ。僕より高い。
「茉鈴!大丈夫!?ベルを鳴らして神崎さんを呼ぼうか!?」
『…ううん、大丈夫。アオイさんたちもせっかく寝てるだろうから…、起こさないであげて 』
「でもっ…!」
『平気だから。…それより無一郎くんは?身体、痛い?』
自分もきつい筈なのに。なんでこの子はここまで他人を気遣うの。
「少し痛むけど大丈夫だよ。それより茉鈴が…」
『私は大丈夫』
「大丈夫じゃないよ!」
『…無一郎くん?』
ああ、だめだ。また涙が止まらなくなってしまう。
「こんなに高い熱で大丈夫なわけないよ!茉鈴、右腕もないし…、髪も短くなって…っ、目だって……!綺麗な琥珀色の瞳が片方だけになっちゃって僕は悲しくて仕方ないんだ…!茉鈴のこと守りたかったのに、それも満足にできなくて…、そのせいで君はこんなに傷付いて…。うぅっ…! 」
なんで僕が泣くんだ。茉鈴だってつらい筈なのに。
『無一郎くん』
茉鈴が残った左腕で僕を抱き締めた。
『私はほんとに大丈夫よ。片目片腕になって正直不便だし髪も短くなったけど、生きてる。私たち、生きてるの。それだけでラッキーだと思わなきゃ』
「…ううっ……」
『熱はこれだけ怪我してるんだから高くて当然なんだよ。身体の細胞がバイ菌と戦ってる証拠なの。いずれ下がるよ。大丈夫』
背中をさすりながら茉鈴が続ける。
『私が片方しか見えない分、無一郎くんがいっぱい色んな物を見て。私は両足はあるから、無一郎くんの左側に立ってあなたを支える。利き手だった右腕がもうなくてちょっと不便だけど、左手でもできることはたくさんあるの。だから、ね。大丈夫よ』
「うぅっ…、茉鈴…!」
僕も茉鈴の身体にぎゅっと腕を回す。高い体温と規則正しい心音が僕の身体にも伝わってくる。
しばらく泣いて、ゆっくりと身体を離した。
「…ごめん。僕、茉鈴の前で泣いてばっかりだね。情けないや……」
『いいのよ。私はお姉さんだからね。もっと甘えて頼ってくれていいんだよ』
お姉さん……。そっか。茉鈴は僕より歳上だったね。
茉鈴に支えてもらって再びベッドに戻る。彼女もゆっくりと僕の隣に腰掛けた。
『無一郎くん。…今回の戦いで失ったものは山程あるけど、これからは一緒にたくさんのことを積み重ねて幸せを増やしていこうね』
「茉鈴…」
『私はずっと無一郎くんと一緒にいるよ。約束したでしょ?』
茉鈴の言葉に、一度は止まった涙がまた溢れて頬を濡らしていく。
「で…、でもっ…!僕は痣が出てるから、25までしか生きられないんだよ…!」
『それは私も同じ』
「!」
『私も痣が出てるから。…歳が2つ上な分、私のほうが先に逝ってしまうかもしれないけど、その時が来るまでは絶対に無一郎くんを独りぼっちになんてさせないんだから。覚悟しといてね?』
にっこり笑った茉鈴。いつもと変わらない、優しい笑顔だった。
“時透様、大丈夫です。独りぼっちじゃありませんからね。私がずっとお傍にいます。何があっても、私はあなた様の味方です”
まだ記憶がなかった頃の僕に言ってくれた茉鈴の言葉が蘇る。
“無一郎くん。これからは私が傍にいるから。独りぼっちじゃないからね。だから頑張って。元気になるのよ”
お館様のところに保護されていた時に掛けてくれた言葉も。
涙を拭いて、もう一度抱き締め合う僕たち。
あったかい。茉鈴…、生きてるんだ……。
茉鈴はいつだって、僕の傍にいてくれたんだね。
ああ、神様。仏様。茉鈴を連れて行かないでくれて、ありがとうございます。
大好きな人と一緒にいられる幸せを噛みしめる。
身体を離し、そっと唇を重ねた。茉鈴の唇はほんの少し乾燥していたけれど、それでもやっぱり柔らかくて、ほんのり甘い味がした。
続く