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深層――
ないこが手をかけた“始まりの扉”が、静かに開いた。
そこは、色も音も温度もない空間。
ただ一つ、“小さな光の点”だけが浮かんでいる。
冬心(静かに): ここが、君の“最初の心”。
名前を持つ前、仮面を持つ前、世界と繋がる前の、ただの“君自身”。
ないこ: ……なにも、ない。
累(頷いて): そう、ここには最初“何もなかった”。
けれど、それは「何もなかった」のではなく――「何も許されなかった」場所だった。
ないこが光の点に近づいた瞬間――視界が一変する。
***
映し出されたのは、薄暗い部屋。
子ども用とは思えないほど無機質な壁、音のしないテレビ、色のないおもちゃ。
その部屋の隅で、小さな子ども――かつてのないこが、座っていた。
彼はただ、虚ろな目で前を見つめている。
泣きもせず、笑いもせず。
そこに“感情”というものは、なかった。
???(遠くで大人の声): また泣いたの? 表に出せる顔じゃないのに……
「人に見せる顔」は選ばなきゃ、君が嫌われるのよ。
???(別の声): この子は“普通”に見えるように育てないと……恥ずかしいじゃない。
ないこ(幼い声で): ……うん。……わかった。
目の奥で、光が一つ消える。
冬心(ナレーションのように): 君はその日、“自分”をやめた。
感情を見せないようにして、「愛される形」に、自分を削った。
次の場面――
“外”で笑顔を浮かべて歌う小さなないこ。
誰かに褒められるたびに、「笑顔の仮面」が少しずつ固定されていく。
でも――その影に、何度も泣き出しそうな目をした自分が映っていた。
ないこ(現代の意識): ……これが、僕の“始まり”。
累(優しく): そう。
でも君は、壊れなかった。
本当は、壊れかけてたのに……“最後の選択”をしたんだ。
場面が切り替わる。
夜。誰もいない鏡の前。
感情が爆発し、泣き叫び、喉が枯れるほど嗚咽する“ないこ”の姿。
ないこ(幼少期): ……もう、無理だよ……っ!
笑いたくない……本当のこと、言いたい……でも……でも、言ったら……誰もいなくなる……!
その時、鏡の奥に現れた“二つの光”。
一つは――静かに涙を受け止めようとするような、あたたかい光。
もう一つは――冷たいが、確かに彼の怒りや悲しみを代弁しようとする、深く黒い光。
累(語る): その瞬間、君は“僕”を生んだ。
“本音を抱きしめてくれる存在”として。
冬心: そして僕は、“壊れてしまわないように、心の奥で見守る存在”として生まれた。
ないこ(涙を浮かべながら): ……僕が……君たちを……
累(頷く): 君は「助けて」と言えなかった。だから、自分の中に“支え”を作ったんだ。
それが、僕と冬心。
冬心: けして弱さじゃない。
むしろそれは――“生きようとした証”だった。
ないこ: ずっと……僕は、自分が壊れたと思ってた。
でも……あの時、本当は壊れなかった。僕は、耐えてたんだね……一人じゃなかったんだ。
累: そう。
君はずっと一人じゃなかった。
たとえ誰にも言えなくても、君の中には、僕たちがいた。
ないこは、涙を零しながら、穏やかに微笑む。
ないこ: 累、冬心……ありがとう。君たちがいたから、僕はここにいる。
冬心: でも、これで終わりじゃない。
もうすぐ、“もう一人”の君と向き合う時が来る。
累: 闇ないこ……あれは、君が「すべてを壊してでも叫びたかった声」の化身。
本当の意味で、自分自身を受け入れなければならない。
ないこ(静かに頷く): ……うん。
彼とも、ちゃんと向き合う。
そして――僕自身を、取り戻す。
***
現実世界――
闇ないこは、割れた鏡の中で震えていた。
だがその表情には、かすかな“焦り”が混じっていた。
闇ないこ: ふざけるな……なんで、今さら思い出してんだよ……!
お前は壊れてたはずだろ……! だから俺が生まれたんだろ……!
だが、その言葉にはかつての確信がなかった。
鏡の残骸の中で、“あの夜の涙を流すないこ”が、重なって見える。
闇ないこ(かすかに震える声で): ……俺は……間違ってない……
だが――その声を、誰が肯定してくれるだろうか。
次回:「第十四話:壊す者と守る者」へ続く