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さて、目の前の彼は何て言い出すのだろうか。
言い訳……と表現すれば聞こえは悪いし、最悪だが、何を言おうとしているのか全く予想がつかなかったのだ。
(トワイライトのことで話があるっていってたけど……実際どうなんだろう)
グランツのいった、トワイライトのことで話したいこと。とは一体何なのだろうかと、私は考えた。考えるより先に聞けばいいのだが、どうしてもグランツの表情から何かを読み取ることは不可能だ。
(怖いめしてる……)
何というか背筋が凍るようなぞくりとしたものを感じてしまったのだ。
だんだんと、彼と関わっていくうちに、彼が私に向ける目が変わって言っているような気がして、そう感じてならない。
「トワイライトのこと……? あ、アンタも不運というか、こんな言い方あれかも知れないけど、主人が攫われて落ち込んでるんだもんね。私に協力してくれているのも、トワイライトを助けるためだし」
中々言い出さないものだから、私から口を開けば、グランツは目を細めた。
まるで違うとでも言うようなその態度に、やはり引っかかりを覚える。
「はい、そうですね」
「何、他人事みたいに」
「いえ、あの時は彼女が攫われたことよりも、『元』主人で、『今』の主人であるエトワール様が目の前で倒れたことの方が心配でしたし」
「でも、攫われたんでしょ?目の前で」
そう、ブライトからは聞いている。
実際どうだったかなんて確認しようがないが、ブライトの話しに寄れば、天幕をでていったトワイライトを追いかけて、それから戻ってきたらしい。ブライトの話は正しいだろうし、嘘ではないのだろうが、本当に全力でトワイライトを守ろうとしたかは怪しい。グランツからは、彼女を護といった思いが込められていないような気がしたから。彼女の護衛になると言い出しておきながら、その実彼女よりも私を見ているような。思い込みが激しすぎるかも知れないし、そうでなければいいなとも思っている。主人に忠実じゃない護衛は、もはや護衛とは言えない気がしたから。
まあ、だからといって、混沌を前にしたら何も出来ないかも知れないけれど。
「目の前で……はい。ブリリアント卿の弟君であるファウダー様と一緒に消えてしまいました。その時には既に正気じゃなかったように思います」
「あの時既に、トワイライトは混沌の手に堕ちていたって言うこと?」
そう聞けば、グランツは肯定の意味で首を縦に振った。
だとしたら、トワイライトが消えたのは自分の意思か。攫われたと言うより、あの時既に洗脳されて、欲まみれになってそれでファウダーと一緒に消えたと言うことになる。きっと、グランツの説得も何も聞けないだろう。
(私の予想はこっぴどく外れたって事ね)
別に疑っていたわけではない。でも、もしかしたらって思っていたことが外れていたのだただそれだけの話しだし、どうと言うことでない。
(グランツが、わざとトワイライトを逃がしたのかと思った。そして、トワイライトと今も繋がっていて、ヘウンデウン教の手先に……とか考えちゃった、ダメだよね、こんなの)
自分が恥ずかしくて酷く情けない、最低な人間だと思った。
元とはいえ、そして現護衛を疑うなんて良くないと。
少し、可笑しな行動をしたからと言ってそこまで疑わなくて良かったんじゃないかと思った。もう少し、グランツの事も信じてあげようと。
「ごめんね」
「何が、ですか?」
「ううん、こっちの話なんだけど。そっか、そうだよね。グランツは私のこと裏切ったりしないよね」
「…………」
グランツは何も言わずじっと見つめているだけだった。
無言の圧力に私はおずと一方白に足が引いてしまう。
それは、どっちの意味なのだろうかと聞く勇気はなかったが、信じてあげた方がいいと、疑心暗鬼の心を取り払う。
(それに、トワイライトがあの時既に混沌の手に堕ちていたというのなら、トワイライトとグランツがぶつかったりしていたとした……グランツに勝ち目があるかどうかは分からないし)
主人を傷つけるほど、阿呆な人間とは思えない。
連れ戻すにしても、暴力以外の方法を取るはずだと、私は言い聞かせる。
実際その現場にいなかったのが惜しい。
「それで、グランツの……トワイライトについて話したい事って? その、前の攫われたときの話じゃなくて?」
「はい、エトワール様の言うとおりです。彼女は目の前で俺を護衛から外すと……ですから、俺はエトワール様の護衛に戻ったのです」
「捨てられたから?」
「……はい」
静かに答えるグランツ。
確かに、主人に護衛から外すと言われたら捨てられたと思うだろうし、自分が率先して手を挙げた主人に捨てられるのは辛いだろう。引きずるかも知れない。グランツはまだ、年齢で言えば成人していないわけだし、精神的にも未熟なところもあると思う。そう考えると、矢っ張り可哀相に思えてきた。
私は無意識に伸びていた手でグランツの頭を撫でる。見た目以上にふわふわしている亜麻色の髪は柔らかくて肌触りが良かった。グランツは、目を閉じてされるがままになっている。
(何か、猫みたいで可愛い)
どちらかというと、犬なのだろうが、こう撫でていると気持ち予想に目を閉じてゴロゴロと鳴いているようにも思えた。幻覚だが。
「辛かった?」
「辛かったといったら、何かしてくれるんですか?」
と、グランツはゆっくりと目を開けて私を見据える。物欲しそうに見ているその目を見て、私は少しぎょっとしてしまう。何というか、矢っ張り分からない。
彼が何を望んでいるかもそうだが、彼は私とどうなりたいのだろうか。
主人に捨てられたから、本当の護衛としてまた戻らせてくださいとかだろうか。
可哀相だから……と言う思いは少し合ったが、そんなすぐ鞍替えするような護衛も嫌だなあとかも思う。平民上がりで、どうしたら良いか分からないというのもあるだろうが、彼がそういうタイプでない事もよく知っている。
物わかりが良くて、何が最善か、自分にとって利益のあることか理解している人間なのだ、グランツは。
「何かって、私何もあげられないと思うけど」
「……エトワール様が側にいてくれるだけで、俺は十分です」
「えー」
何というか、甘えてきているのは分かるけど、重い感じもした。
リースも最近までは重かったけど、色々経て相変わらず距離は近いままだけど、私のことも自分の事も考えられるようになった。そう思うと、まだ彼のほうが重いけど軽いみたいな感じなのかなあとも思う。表現の仕方がよく分からないからあれだけど。
グランツも何かあれば変わるのかも知れないけれど、当分そんなことあって欲しくない。誰かが成長する時って必ず、面倒な事に巻き込まれるときだから。ブライトとかも、リースの暴走間近に変わったわけだし。
(巻き込まれたくないって言うのは一つ大きくあるんだろうな)
聞えないぐらい小さなため息をついてグランツを見る。グランツは、まだ私に何かくれるのかと期待の目を向けていた。そんな目をされるとどうしたら良いか分からない。
「……私の側にいて楽しい?」
「楽しい……と聞かれると、どう答えれば良いか分かりません。ですが、エトワール様の側にいたい」
側にいさせてください。と、懇願するようにグランツは頭を下げた。私の手は彼の頭の上に乗ったままで、退けようにも退けれない雰囲気になっていた。
ここで断ったらどんな顔するんだろうと変な好奇心が湧いたが、グランツの沸点も分からないし、余計なことを言わない方がいいと、私は彼の頭を再度撫でた。
「……俺は、貴方の側にいられるだけでいいです。貴方の側にいたい」
「はいはい」
私が冗談を言っているように聞えた、見たいな言い方をしてしまったせいで、軽くあしらったせいで、グランツは目線だけあげて私の方を見ていた。無表情なガラに、きっとムスッとしているんだろうな、何て思って笑えてきてしまった。
(まあ、黙っていれば、可愛いし)
大概私は、年下に弱いなあ、何て思いつつグランツを見る。
好感度は90以上で、彼ももう少しで100%になる事を知る。グランツは頭を上げないままだった。
「高望みはしないので、貴方の『隣』にいたいです」
彼のいったその言葉を、私はしっかりと理解していなかった。
彼の真意を。彼の言葉の本当の意味を。