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Side彪斗
その日から、優羽と俺たち生徒会メンバーとの共同生活が始まった。
低血圧の俺の朝は遅い。
やかましく何度もなり続けるアラームにブチ切れること数回。
どうにかベッドから抜け出て、軽い身支度をして一階の食堂に向かう。
睡眠をなによりも愛していた俺が、こうしてきちんと朝食をとりに行くようになったのは、深いわけがある。
「あ、おっはよー彪斗!今日も清々しそうなお目覚めだね!」
廊下の途中で遭遇した寧音のやかましい声を無視すると、俺はその後ろについていた人物に目をやった。
「おはよう…彪斗くん」
「…はよ」
そっけなく返してみるけど、内心は寝ぼけた頭が一気に覚めるくらいの喜びだった。
あー、朝からめちゃくちゃ可愛いぜ、優羽…!
「…よく、眠れたか」
「うん…。彪斗くんこそ、ちゃんと寝た?…なんだか、昨日より目の下のクマがこいよ…?」
「き、気のせいだ…」
優羽がこの館に住み始めて二、三日が経とうとしていた。
それと同じくして、俺は外を出歩くのをやめ、夜型生活を正すのに専念し始めた。
おかげでうまく寝付けなくて睡眠不足気味になっているが…これも規則正しい生活を送って、出来るだけ普通に学校生活を送るようにするため―――。
優羽と少しでも多く一緒に過ごすため、だ。
優羽には、できるだけ多く俺のそばにいさせるようにしている。
朝は必ず一緒に登校して、授業以外の時間はクラスにのぞきに行って、帰る時に寄り道する時もつきっきりでいる。
おジャマ虫の寧音がついてくるのは腹が立つが、アイツも結構忙しい身なので、意外に優羽とすごす時間は多くてうれしい。
まわりの連中は『惣領彪斗がストーカーになった』ってアホみたいに騒いでいるが、知ったことじゃない。
俺はもう優羽が好きで仕方がなかった。
優羽も今ではだいぶ俺に慣れて、笑顔で授業中のことや、自分のことをちょこちょこと話してくれる。
そんな可愛い笑顔を見ていると、「しあわせ、ってこういうことを言うんだろうな」としみじみ実感する。
けど、付き合っているとは言える段階じゃないから、『至福』とまではいたってないけどな…。
それに、まだ安心はできない。
可愛い花には、悪い虫がつきやすいからだ。
「おはよう、優羽ちゃん」
優羽と朝一番の会話をして上がっていた俺のご機嫌は、一気に急降下する。
「おはようございます…雪矢さん」
「あ、ゆっきー、おはよー!今朝は早いねー!」
食堂に行くと、雪矢が早々と起きていて、松川さんと一緒に朝食の準備をしていた。
腰にエプロンを巻いて、シェフさながらの手際のよさでサラダを鮮やかに作っている。
雪矢…。
この中身じじい野郎は、気持ち悪いくらい規則正しい生活を送っているため強敵だ。
こうやってサラダを作ったり、コーヒーを挽いたり、しまいにはパンケーキとかまで作って、女の気をひくのは、こいつの口説き手段のひとつ。
澄ました顔をしてやがるが、そうやってオトした女の数は俺以上。
ほんと、あなどれないやつ。
この雪矢が、あの朝の日に、ぬけぬけと宣戦布告してきやがった。
「めずらしいよね。彪斗が力づくで女をものにしないなんて。てか、初めてじゃない?」
「うるせぇんだよ」
俺だってそうしてやりたいのはやまやまだけど、出来ねぇんだよッ。
「ふふ。もうわかってるとおもうけど、俺も優羽ちゃんに本気。絶対俺のものにして、最高の歌姫にしてみせる」
あの涼しげに言ってきた言葉を思い出すと、はらわたが煮えくり返る。
あんな腹黒タラシ野郎に優羽を取られてたまるか。
雪矢は俺とはちがって表に立ってアーティスト活動もしているから、優羽との接点の数で言ったら俺が勝っている。
けど油断はできねぇ。
って、警戒しているそばから、雪矢の間の手が優羽に近づく。
「優羽ちゃん、今朝はスムージー作ってみたんだ。イチゴベースだよ。イチゴ、すきだったろ?」
「わぁ、ありがとうございます」
「おいこら優羽!そんなうれしそうな顔するな!エサにつられるんじゃねぇ!」
「きゃっ…」
と引き離すが、手にはもうコップが握られていた。
「そんなもん飲むな」
「だって、せっかく作ってくださったのに悪いよ」
とコクリと飲む優羽。
「美味しい」
と零れた笑顔の可愛さは…って!
見惚れてる場合か、俺は…!
「おい、雪矢!俺の優羽に馴れ馴れしくするな」
「だれの、だって?」
雪矢はにっこりと優羽に笑った。
「優羽ちゃん、君は彪斗のものなの?」
「え、え、そう言うわけでは…」
そうですって言えよ…!
俺はぐいっと優羽を引き寄せて、叱るように言った。
「おまえは俺のもんって何回言えばわかんだよ」
「そんな…」
「彪斗って、ほーんと優羽ちゃんのことアイシテルんだね。でもね、優羽ちゃん。俺は優羽ちゃんのこと、彪斗の何倍もアイシテルよ」
雪矢、こんにゃろう。
そうやって優羽を翻弄しやがって…!
雪矢の勝ち誇った顔をにらみながら、俺は食堂を見回す。
寧音のヤツどこに行ったんだよ。
こんな時のおまえだろうが…いつもみたいに優羽のまわりうろついて邪魔しろよ…って、みつけると、寧音は洸と会話中だった。
いや正しくはイジられていた。
洸は寧音が大のお気に入りだ。