イジりまくって寧音がぎゃーぎゃー困らせるのが、たまらなく楽しいらしい。
しょーもないドS野郎で、寧音みたいなガチャガチャしたのをイヂめるのが好きでしょうがないらしい。
あの勝気な寧音も洸にはてんてこまいで、「変態」って叫んでは逃げ回っている。
「はいはい、朝のスキンシップはここまでにしてくださいね、みなさん。朝ごはんが冷めてしまいますよ」
そんな騒がしい俺たちをやさしく見守ってくれる、松川さんは常に冷静だ。
バスケット一杯にして運んできた焼きたてのクロワッサンの香りで、俺たちの騒ぎを自然とおさめてしまう。
おのおの席について、俺たちはクロワッサンに一斉に手を伸ばした。
「ほら、優羽」
ちょっと遠慮して見守っていた優羽に、俺はクロワッサンを持って来てやる。
「ありがとう、彪斗くん」
あーあ、可愛いな。
なんて、しあわせになるけど。
俺のもやもやも限界に近づいている。
優羽ともっともっと近づきてぇ。
もう俺の心がもたねぇんだ。
※
「あ!ここ、この近くにできた所だよね!」
朝食を食べすすめていると、寧音が急にテレビを見て声をあげた。
朝の情報系番組で、自然体験型パークがオープンして、家族連れやカップルでにぎわっている、と特集が流れているところだった。
湖を中心としたこの高原は避暑地として人気が高く、うちの学校以外にもペンションやホテルが立っていて、観光客がよく訪れる。
それらの客を狙ってできたそのパークが、なかなか楽しいと評判らしく、綺麗なオープンカフェやレストランまであって、湖でボートに乗れたり、森林散策できたり、小さな動物園で動物と触れ合えたり、と次々と紹介されていて、なかなか楽しそうだ。
『美しい高原で、家族や恋人と自然に癒されてみませんか?』
と締められて特集が終わるなり、
「ねー、みんなで行こうよ!」
と寧音が提案した。
「ばかだねーおまえ。俺たちがこんなところ行って顔割れて見ろよ、大騒ぎになって楽しむどころじゃなくなるしょ」
洸があきれて、寧音の頭を小突いたが、寧音は引き下がらない。
「だいじょうぶだよぉ。人目についたところでそう簡単にバレないよ。『ちょっと似てるかも』くらいで、まさか私たちだなんて気づかないって」
「でたー寧音のノー天気。ま、テレビに出ている以外のおまえなんて、小学生のガキと大して変わんないしなー、っ痛ぇ!」
フォークで洸の手をグサリとやると、寧音は続けた。
「ねー行こうよ!こんなに広いんだし、地味なかっこうで平日の午前中とか狙ってけば、絶対に大丈夫だよ。それに、優羽ちゃんの歓迎会だってまだでしょー?」
と俺と雪矢を交互に見て言う。
こいつ、なかなか抜け目ない。
俺が『優羽のため』と言われるのに弱いと知っての狙いか…。
まぁでも確かに、優羽には『自分が正式な生徒会メンバー』と自覚してもらうためにも、歓迎会は必要だろう。
俺のワガママで入れたことにはなっているけど、眠っている才能を考慮すれば、よゆーで生徒会入りできる実力はあるんだし。
それに、優羽は少しおどおどし過ぎなところがある。
この機会にそういう損するような性格を少しでも変えてやりたかった。
どうやら、雪矢のやつも考えは俺と同じらしい。
「優羽ちゃんは行きたい?」
と俺を差し置いて優羽を見た。
「えっと・・森林浴ができたり、動物とふれあえたりできてすごく楽しそうですけど…でもみなさんプライバシーがあるでしょうし、せっかくのお休みの日をわたしなんかのために使っていただくのも…」
「おまえは、どうしたいんだよ、優羽」
煮え切らない優羽に俺は問い質した。
「行きたいの?行きたくねぇの?」
「……」
「おまえのために訊いてんだ。おまえが決めろ」
四人の視線が集まって、うなだれきってしまった優羽だったけど、
「…行きたい、です…」
しばらくして、ぎこちない笑顔を浮かべた。
「みんなと、遊びに行きたい…!」
「じゃ決まり。おまえらオフの日決まったら俺に教えろ。マネージャーと話しつけて、今日中に連絡よこせ」
と、俺が三人を見回しながら命じると、
「えー」
と洸が困った声をあげた。
「俺いま映画の撮影入っててー予定たてらんないんだけどなーぁ」
「じゃ洸はいいよーだ。四人で行ってくるから、お仕事ガンバんなよ」
と寧音があっかんべーをすると、洸はしかめ面を浮かべた。
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