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鈍い音とともにアルベルトの身体が痙攣し、糸の切れた操り人形のように力なく崩れ落ちる。
私は素早く彼を支え、床に転がっていた古いブランケットを広げると、そこにゆっくりと横たえた。
彼の荒い息遣いが、静寂の中で徐々に落ち着いていく。
それにつれ、私の掌にも冷たい汗が滲んでくるのを感じた。
「……エカ、テリーナ……? 私は……一体」
「ふう……正気に戻ったようね」
(今のショック療法で少しはマシになったみたいだけど……)
私はテープデッキの方へ向き直った。
映像の中で交わされていた言葉の断片が、呪詛のように頭蓋骨の内側でこだまする。
『名もなきゴミが……』『ただの機能として……』『完璧に改造された……』
どれも吐き気を催すような醜悪な言葉ばかりだ。
自分たちが神にでもなったかのような、あの高慢な物言い。
(アルベルトのこんな姿、初めて見た……)
私は立ち上がり、近くに転がっていた椅子に腰掛けた。
深呼吸をして冷静を取り戻しながら、意識の戻ったアルベルトに静かに語りかける。
「アルベルト……今日はここまでにしましょう。それと少し、話がしたいわ」
◆◇◆◇
数時間後──
いつものバーで、私たちはカウンターではなく隅のボックス席に身を沈めていた。
私が注文したのは、蜂蜜酒をベースにした、甘く、それでいて喉を焼くような強いカクテル。
アルベルトはいつものアイラモルト・シングルモルトをロックで飲んでいる。
大きな氷が溶け出し、琥珀色の液体はすでに薄くなっていた。
「……話とは、先程のテープのことですね」
彼はグラスを回すでもなく、ただ静かに一口含んだ。
氷の粒がカランと沈み、琥珀が微かに揺れる。
その指先は、今はもう震えていなかったが、どこか現実味を欠いているように見えた。
「ええ。それもあるけど……それを話す前に、ひとつ聞きたいことがあるの」
「なんでしょう?」
「この間掃除した、あなたの両親2名。始末するに至った理由を、改めて知りたいの」
私は敢えて、彼が隠していた核心に触れた。
彼は一瞬だけ動きを止め、それから再びグラスに口をつけた。
「……特に深い意味はありません。あの人たちは、既に私にとって不要でした」
「嘘よ。必要かどうかで人を殺すのなら、もっと早い段階でやっていたでしょ。あんなに事務的に、冷徹に『掃除』をしたのは、そこに強烈な理由があったからじゃないの?」
アルベルトは小さくため息をつく。
硝煙の匂いのする風のように、冷たく、どこまでも乾いた息だった。
「……正確に言えば、彼らが親ではなく“実施者”だったということが本能的に分かってしまったのです」
「どういうこと?」
「……さきほどテープで言われていたことを覚えていますか」
「ええ……『ただの「機能」として生きる。お前が創り上げたその怪物は、我が娘エカテリーナの毒とどちらが鋭いかな』って言ってた父の発言も気になるところだけど……」