持久力試験が始まって、早くも数時間が経過した。
チラホラと脱落者が出ているが、まだまだ大多数が残っている。
そんな中、また新たな脱落者が出ようとしていた。
「はぁ、はぁ……。そ、そんなバカな……」
その参加者は肩で息をしながら必死に走っている。
それよりも後方にはすでに誰もいない。
「ぜぇ、ぜぇ……。う、嘘……。こんな……こんなところで脱落するわけには……」
その頭の中にあるのは、ただ一つ。
――失格だけは避けなければならない。
第一試験で落ちるなど、あり得ないことだ。
「い、嫌ですわ!!!」
彼女――魔導師アーシアは叫ぶ。
その顔は焦燥感で歪んでいた。
全身が汗まみれになり、涙や鼻水で顔面がぐしゃぐしゃになっている。
だが、それでも走る足を止めることはできない。
すでに体力の限界は超えている。
しかし、ここで立ち止まることは、彼女のプライドが許さなかった。
「わたくしは負けません!! 絶対に、絶対に、絶対に……!!」
アーシアは走り続ける。
だが、現実は非情である。
やがて、彼女は足をもつれさせ転んでしまった。
「きゃああっ!?」
地面に倒れ込み、そのまま動かなくなる。
もう立ち上がることすらできないようだ。
「そ、んな……。どうして、わたくしが……。こんな、はずじゃ……。こんな、はずじゃないのに……。おかしい……。おかしすぎますわよ……」
アーシアは地面を這って進むが、そんなペースでは付いていけるはずもない。
他の参加者たちはどんどん進んでいく。
「ううっ……。お家の再興が……。魔導師としての栄光が……。やっと掴んだチャンスなのに……。なのに、なのにぃ……」
ついには泣き崩れてしまった。
しかし、それで許されるほど冒険者試験は甘くない。
誰も彼もが、自分のことで必死なのだから。
こうして、魔導師アーシアのBランク昇格試験は幕を閉じる――はずであった。
「大丈夫か?」
彼女に手を差し伸べる者がいた。
シンヤ・レギンレイヴである。
「な、何を……? あなたまで失格になりますわよ……?」
「大丈夫さ。まだ間に合う」
シンヤは軽い調子で答える。
彼には身体能力強化系の魔法がある。
それを使えば、まだまだ追いつくことも可能だろう。
「早く立て。置いて行かれるぞ」
「え? ……ま、まさか、本気で言っていますの? 今から追いかけたとしても、とても……」
アーシアは戸惑いながらも、差し出された手を握り返した。
すると、身体中に力が湧いてくる。
(これは一体……?)
今まで感じたことのなかった感覚だ。
まるで、何かが自分の中に流れ込んでくるような――。
「これなら、行けるはずだ」
「い、行けますけど、何が起こっているんですの!? どうして急に力が……。それに、なんだか気分も高揚していますわ!」
「俺の魔力を注入したのさ。ちょっと前の件で、お前はかなりの魔力を使ってしまっていただろ? その分を補充したような感じだ。これが本来のお前の実力だよ」
「ほ、本当の実力……。こ、これで、本当に合格できるのでしょうか……?」
「さぁな。あとは全力を出すだけだ」
シンヤの言葉を聞いたアーシアは、ゆっくりと立ち上がった。
そして、前を走る参加者たちの背中を見つめる。
(ここからなら、ギリギリ届きそうですわね)
アーシアは深呼吸をして気持ちを整えると、一気に駆け出したのだった。
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