テラーノベル
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移動車の中は、息が詰まるほどの沈黙に支配されていた。後部座席の右端に渡辺、左端に宮舘。その間には、人が一人座れるほどの、絶望的な距離が空いている。バックミラー越しに二人の様子を窺うマネージャーは、生きた心地がしなかった。
そして、地獄は次のステージへと移る。
「本日の企画は『シンメの流儀』と題しまして、お二人の揺るぎない絆の歴史に迫っていきたいと思います!」
スタジオに到着した二人を待ち受けていたのは、笑顔が眩しい雑誌の編集者と、『揺るぎない二人の絆』という、今の二人にとっては皮肉でしかないテーマだった。渡辺も宮舘も、一瞬だけ表情を固くしたが、すぐに完璧なアイドルスマイルを顔に貼り付けた。
「よろしくお願いします」
撮影が始まる。カメラマンから「もっと肩を組んで、仲良い感じで!」という指示が飛ぶ。渡辺は、内心で舌打ちしながらも、宮舘の肩に腕を回す。宮舘も、ごく自然に渡辺の腰に手を添える。その距離、ゼロセンチ。しかし、心の距離は、地球の裏側よりも遠かった。
インタビューが始まる。
「お互いを一言で表すなら?」
マイクを向けられた渡辺は、にっこりと笑って答える。
「んー、『いて当たり前の存在』、ですかね。もう、空気みたいなものです」
嘘ではない。だが、今はその空気がとてつもなく重い。
次に宮舘が答える。
「そうですね…彼を一言で表すなら、『道標』でしょうか。常に先を歩いて、俺を導いてくれる存在です」
その完璧な回答に、女性編集者が「素敵…!」と目を輝かせる。
(どの口が言ってんだよ…)
渡辺は、笑顔の仮面の下で、心の中で毒づいた。
「もし、お互いの好きなところを一つ挙げるとしたら?」
最悪の質問が続く。
「やっぱり、歌声じゃないですかね。彼の歌声は、Snow Manの武器なので」
渡辺が答える。
「俺は、彼の正直なところですね。嘘がつけない、その真っ直ぐさが彼の魅力だと思っています」
宮舘が返す。
その言葉を聞いた瞬間、渡辺の笑顔が、ほんの少しだけ引きつった。
(正直…?お前は、俺にちゃんと本当のこと、言ってんのかよ…)
カメラが止まった瞬間、二人はバッと離れ、真顔に戻る。そのあまりの切り替えの速さに、現場のスタッフは「さすがプロだ…」と感心しきりだが、事情を知るマネージャーだけが、胃を押さえながら青い顔でその光景を見守っていた。
プロフェッショナルな仮面の下で、二人の心はすり減り続けていく。この地獄のインタビューは、まだ始まったばかりだった。
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