テラーノベル
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磔にされてから、何度か柊が訪ねてきた。至近距離で目を見て質問をする、というのがお決まりの流れ。質問は大体三つくらい。阿部は当然、はぐらかすことを選んでいる。
何かの異能を使おうとしているのは明確だからだ。
それまでの柊は一定の距離を保っていた。観察対象だったからだろう。けれど、磔にされた後からはその距離が縮まった。そして必ず、目を見てくる。これが恐らくは発動条件なのだろうけれど、最初に目を見た時、柊は「これでは上手くいきません」と言っていた。つまり、見るだけではダメなのだろう。
だから阿部は、柊の目は見るけれど焦点をずらす、という方法を取っている。恐らく柊にはそこまでは気付かれていないと思う。その証拠に、何度も試しているのに、結果は付いてきていない。
毎回、柊が不思議そうに帰っていくのを見送っていた。
💚「柊さんの異能……ずっと質問してる。それも、俺の隠し事について」
そこで考えられるのは、阿部の特異な能力についてだ。阿部がひた隠しにしていることなど、それしかない。何らかの理由で知られてしまった可能性がある。
夕星かとも思ったけれど、完全に分断されたのは確定だったし、情報を送っているような様子もなかった。実際に夕星の本体と戦っていた深澤達にも訊いたけれど、情報交換をしているような素振りはなかったという。何より突然、接続が切れたことに驚いていたらしいから、そこから漏れた可能性は低い。
どこから得たか分からない。けれど、確証もない。だから訊ねる。恐らくはその辺りの段階なのだろう。
だからこそ、阿部が無事に過ごす為には隠し通さなければいけない。片鱗すら、見せてはいけない。
そんな阿部を、三階のガラスから見下ろしているファントムと柊。
「ふむ。なかなか効きませんねぇ、あなたの催眠」
「弱い催眠であれば、目視するだけでいけるんですがね。けれど、彼に遠くから試してもまるで反応がありませんでした。だから直接、目で見て声を聴かせる必要があるのです。しかし、警戒している内は催眠など効きません。不意打ちが狙えないので、あなたのゴムの力で、異能を封じずに逃げられない状況を作っているのですが、なかなか強情ですね」
「実質、使える異能はない。次に使うのは、例の特殊な異能、ということですな」
「ええ。そうでなくとも、催眠がかかれば吐かせるのは容易なのですが、どちらも上手くいっていないのが現状です」
どうしたものか、と柊がペンでタブレットをトントンと叩き始める。
その様子を見ていたファントムが、口元に不敵な笑みを浮かべた。
「進展しないというのであれば、別の刺激を与えましょう」
「……というと?」
「彼のデータの中に、仲間の為に行動する、というものがあったではないですか。それを使うのですよ」
「……ふむ。このまま成果が出ないのは困りますからね。そちらは任せますよ」
「どうぞ、お任せください」
ファントムの下に黒い水のようなしみが浮かび、それが円を描いて広がると、ファントムの体が黒い水の中へと消えていった。
探し回り続けて身を削っているのは当然のことながらメンバーにはバレていて、「今日は絶対に休め」と深澤から局長命令を出されてしまった目黒は一人、自宅のソファに座っていた。
本当なら、家を飛び出したい。無事なのは分かったけれど、それがいつまで続くのかは分からない。
何日も捜しているのに、どうしても居場所についての進展はなくて、また焦り始めている自分がいて、目黒はソファの背もたれに体重を預けると天井を仰ぎ、腕で目を覆う。
はぁっと、ため息が漏れた。
こんなんでは、阿部に合わせる顔がない。
危険を承知で無事を知らせてくれた阿部の気持ちに応えたいのに、それでも焦燥感が募ってきてしまう。
何か、少しでも手掛かりがあれば――――不意に、視線を落とした目黒の近くの床に黒いシミができたのがわかった。それは段々と広がっていき、形を成していくとそこにいたのは男。その風貌から、恐らくはファントム。
「あなたが、特務調査局の目黒さんですか?」
🖤「……だったら、なんだよ」
「いえ。阿部さんがなかなかこちらの思い通りになってくれなくて、ぜひ、あなたの協力を仰ぎたいと思ったのですよ。阿部さんは仲間の為なら身を削る、と聞いていますからね。どうです? 大人しく付いてきますか?」
🖤「……」
「それとも、痛いのがお好みで?」
🖤「……ははっ。何、言ってんの?」
「はい?」
🖤「あんたさ、それちゃんと調査したわけ? 確かにあいつは仲間の為なら無茶もする。けどさ、だからってあんたのいう事、聞くと思う?」
「……何を仰りたいのです?」
🖤「俺を使えよ。俺、あいつがずっと邪魔だったんだよね。あいつは俺のこと頼って、くっついてくる。でももう、うんざりなんだよ。面倒を見るのも疲れた。だから、あんたがあいつのことを壊してくれるんなら、喜んで付き合うよ」
「……ほう? では、共に来ていただきましょう」
ファントムの近くに立つと、目黒の体はファントムと一緒に黒い水の中へと消えていった。
暗い空間を歩いて行き、気付くとどこかの白い部屋の中だった。目の前に立っているファントム。その奥に、阿部の姿を見止めた。
壁に磔にされたままの阿部の前に、黒い水から出現したファントム。
「ずいぶんと、お疲れのようですね?」
💚「……誰のせいだと思ってるんですか」
「まだそのような目をしているのですか。けれど、それももう終わりですよ」
ファントムの後ろから現れたのは、目黒。その姿を見て、阿部は目を見開いた。
💚「っ、なんで!」
スッと、ファントムの横を通って阿部に近づく目黒。その雰囲気に、表情に、阿部は口を噤んだ。
🖤「……いい格好だな」
💚「……蓮……?」
阿部がその名前を口にした時、目黒は一瞬目を丸くし、すぐに「ふはっ」と堪えきれなかったように笑う。
🖤「まだ、俺のことそうやって名前で呼ぶんだ? この状況で? わかってんの? 亮平」
目黒を見つめる阿部。
💚「……なに……どういう、こと……?」
🖤「こんな状況でもまだ分かんない? 俺が何のためにここに来たのか……」
💚「っ?! まさか……そんな、嘘でしょ、蓮……!」
🖤「今まで信じてきたものが崩れるって、どんな気分? せいぜい、いい声で泣いてよね」
近づいて来て、そう言って阿部の顎に右手をかける目黒。つー……と阿部の目から涙が頬を伝って零れ落ちる。
💚「……蓮っ……」
縋るような目で見つめる阿部に、目黒の左拳がぎゅっと強く握られる。そして阿部の顎から手を離し、目黒は踵を返すとファントムの方に歩いて行った。
その後ろ姿を見つめながら、がっくりと項垂れたような阿部は俯いている。
💚(……ヤバ……嬉しくて思わず泣いちゃった……けど、多分、今の涙だといい感じに見えたよね……)
今は誰もいないけれど監視の目はまだある。だから悟られてはいけない。少しでも隙を見せたら何もかもが無駄になってしまう。
だから絶対にやり遂げなければならない。その時が来るまで。
💚(……でも、無茶しすぎだよ……めめ……)
自宅にいる筈の目黒と連絡が取れない。まさか、また勝手に探し回っているのかと思ってラウールと深澤と向井が目黒の家に向かうことになった。
家まで来てチャイムを鳴らしても、ドアを叩いても、声をかけても返事はない。玄関の鍵はかかっている。
前まで一緒に住んでいたラウールは、今の目黒の家の合鍵も貰っているので、その鍵を使って中に入った。
🤍「めめ、入るよー」
一応、声をかけて家の中に入るけれどそこには誰もいない。やはり出かけてしまったのかと思った時、向井が声を上げた。
🧡「ふっかさん、めめ、ケータイ置いてっとる」
💜「えっ。あ、ホントだ」
食卓テーブルの上に置かれているスマホには、深澤達からの不在着信が残されたままだ。
💜「阿部ちゃんの捜索に行くのに、スマホ置いてくか?」
🧡「連絡されんようにやない? 今日、家にいろって言われとるから」
💜「めめがそんな偽装すると思う?」
🧡「せんな。バレても、すいませんで通しそう」
するとラウールはハッとしたようにルーペを取り出すと、部屋の中を見て回り始めた。そして、ソファの近くで動きが止まる。
🤍「……これ、ファントムの異能の痕跡だ」
🧡「ぅえっ!? ファントムがここに来たってこと?!」
🤍「見間違えるようなものじゃないからね。阿部ちゃんが連れて行かれた現場と同じ、異能の痕跡と魔術式が重なったものだよ」
💜「……めめも、攫われた?」
🤍「そう思ったんだけど、多分、違う」
🧡「えっ?」
🤍「めめの異能の痕跡が見当たらないんだよ。阿部ちゃんは電気を封じられてたから、あそこにはファントムとふっかさんの痕跡しかなかった。でもめめの蔓を、ゴムで完全に封じるのは不可能だと思う。それこそ、異能封じとか使われてたら分かんないけど、阿部ちゃんの捕らえ方を見ると、そういう道具に頼る人じゃないと思う」
💜「……自分から、ついてった?」
🤍「可能性はあるね。めめの事だから、何か探りに行ったのかも」
🧡「そんな無茶苦茶な」
🤍「でもするよ。阿部ちゃんの為だもん。めめが阿部ちゃんのこと、どれだけ大事か僕らにだって分かる。自分の命をかけてまで守ってくれた人の為なら、そのくらいやれちゃうよ」
これまで見てきて、目黒が阿部のことを大切に思っているのはもちろんのこと、目黒の行動原理が阿部ということも、他のメンバーはよく知っている。その思いが段々強くなっているのも見て分かっている。
だからこそ、無茶だと思う方法を取っても、目黒ならそうすると思えるくらいに。
💜「めめが敵側で情報を探ってるなら、俺らは待つしかないな。今は、めめに頼るしかない」
自分一人しか阿部の傍で動けないとなれば、そう無茶なことはしないだろう。阿部が絡むと理性を失いがちな目黒でも、そこは自制するはずだから。それは、闇オークションの時にも感じていた。
それまでだったら一人で突っ走るところを、阿部の命が危険だとメンバーに知らせてくれたおかげで、作戦を立てることができたのだから。
コメント
1件
🖤💚の阿吽の呼吸の茶番劇が最高すぎます😍
おその★
23,007
めかぶぷりん
358
#SnowMan
おその★
6,887
483