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――ドンッ!
「あ、っと……」
路地裏から大通りへ出ようとした瞬間、正面から来た誰かと肩がぶつかった。
カンストステータスの俺は微動だにしなかったが、相手は小さくよろめく。
「すまない、前を見ていなかっ――」
謝りながら相手を見下ろした俺は、言葉を失った。
そこにいたのは、透き通るような水色の髪に、吸い込まれそうな翡翠(ひすい)の瞳を持つ少女。
いや、少女ではない。
彼女の背中には、光を浴びてきらめく、淡水色の美しい羽が4枚。
(……妖精、か?)
ゲームの知識が脳内を駆け巡る。
『魔王様と聖女様』の世界において、妖精は極めて希少で、人間を避けて暮らす隠世の存在のはずだ。なぜこんな人間の街に?
彼女は俯き、小さく唇を動かした。
??「………その、…………すみません」
消え入りそうなほど物静かで、無口な彼女が、確かにそう呟いた。
その瞬間、俺の胸の奥で何かが爆発した。
ドクン、と心臓が跳ね上がる。
三十路のサラリーマン時代を含め、これまでの人生で味わったことのない衝撃。
全ステータスがカンストした魔王の身体が、たった一言で完全に硬直していた。
(――可愛い。いや、そんなレベルじゃない。何だこれ、頭が真っ白になる……!)
ゲームのシナリオも、聖女リリスの破滅ルートも、一瞬でどうでもよくなった。
俺は今、目の前の妖精に、完全に一目惚れしていた。