テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
89
BOOK Only
243
??「………あの………大丈夫……です…?」
長い沈黙に耐えかねたのか、彼女が翡翠の瞳を少しだけ見上げて、心配そうに聞いてきた。
少し困ったような、それでいてひたすら純粋な視線が、俺の胸に突き刺さる。
(やばい、可愛すぎて息が止まる……!)
三十路の理性が一瞬で消し飛んだ。
俺は今、漆黒のマントを羽織った、世界を滅ぼす最強の魔王。
そんな男が、路地裏の入り口で、小柄な妖精の少女を前に完全に挙動不審になっている。
何とかして「大丈夫だ」と言いたいのに、喉が完全にロックされて声が出ない。
(落ち着け俺! 前世の営業スマイルを思い出せ! いや、魔王の顔で笑ったら脅迫になるか!?)
脳内が大パニックのサラリーマンオタク。
しかし、見た目は威圧感MAXの冷酷な魔王アズリス。
俺の無言のプレッシャーのせいで、彼女をさらに怯えさせてしまっているかもしれない。
何とかして、この最悪の第一印象を取り返さなくてはならなかった。
俺の無言の威圧感のせいで、彼女は小さく肩を震わせ、翡翠の瞳を泳がせてオロオロとし始めてしまった。
淡水色の4枚の羽が、不安を表すように細かくパタパタと揺れている。
(しまっていこう、元サラリーマンの俺! 顧客(一目惚れ相手)を不安にさせてどうする!)
俺は胃に穴が空きそうだった前世のプレゼン直前を思い出し、喉のロックを力技でこじ開けた。
魔王の重低音ボイスが、威圧感にならないよう細心の注意を払いながら、なんとか言葉を絞り出す。
「……あ、いや。すまない。怪我は、なかっただろうか」
奇跡的に、ちゃんとした大人の敬語が出た。
黒いフードの奥で、俺はこれ以上ないほど必死に、穏やかな笑みを浮かべようと試みていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!