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第五話 「閉ざされた教室」
「紬、逃げて——」
その声が聞こえた瞬間、空気が震えた。
誰もいないはずの教室で、カーテンが一斉に揺れる。
私は息をのんで、怜と美園の腕をつかんだ。
「……今の、聞こえたよね?」
「うん。確かに“誰か”が……紬の名前を呼んだ。」
怜の声も、かすかに震えていた。
ライトを点け直すと、
黒板の文字が変わっていた。
『真実は、放課後に閉じ込められている。』
「どういう意味……?」
私がつぶやくと、美園が何かに気づいたように顔を上げた。
「——机の並び、変じゃない?」
確かに。
机が、クラスの生徒たちの席順ではなく、
“十字”の形に並べられていた。
その中心に、小さな紙片が落ちている。
怜が拾い上げて読む。
『10月19日、放課後。
私は“誰かの代わり”にここへ来る。』
「……これも、美咲さんの字だ。」
「代わり? 誰の……?」
美園が小さく首を振ったその時、
教室のドアが“ガチャン”と音を立てて閉まった。
ノブを回しても、びくともしない。
「嘘でしょ……閉まってる!?」
「鍵なんて掛けてないのに!」
怜が力を込めてドアを引く。
でも、開かない。
その瞬間、教室のスピーカーから雑音が流れた。
キィィ……ガガッ……と耳を裂くような音のあと、
かすかに人の声が混じる。
『——代わりは、もういらない。』
「誰!?」
思わず叫んだ私の声が、空間に吸い込まれる。
怜が黒板を見つめながら、低くつぶやいた。
「もしかして……“声の主”は、美咲さんじゃない。」
「え?」
「彼女が代わりに呼ばれたなら——
本当の“呼ばれた人”は、まだこの学校のどこかにいる。」
教室の空気が、ピシッとひび割れるように張りつめた。
その時、窓の外で“誰か”がこちらを見ていた。
制服姿の女の子。
——けれど、その姿はゆっくりと霧のように消えていった。
「紬……あれ、見た?」
「うん。きっと……あれが、“代わり”の——」
言葉を失った瞬間、
机の上のノートがひとりでに開いた。
『次は——屋上で会おう。』