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柘榴とAI

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#探偵
橘靖竜
5,431
#闇バイト
るしゅ
753
「やめましょう、秋山さん。あなたは私に勝てません」
「それはできません、常務」
秋山が再び距離を詰めてくる。
ブルースは左ジャブをひとつ放って距離を保ち、秋山の右側へ回り込んだ。
秋山がさらに攻め込もうとしたところを、ローキックで牽制する。
そのまま視野の薄い側へ抜け、ジャブで距離を取った。
ゴッ。
左ジャブが、はじめて秋山の顔面をとらえた。
ブルースは追撃しなかった。
距離を保ち、ローキックとジャブを入れ、また秋山の右側へ回る。
徹底したアウトボクシングだった。
「秋山さん、もうやめましょう」
スウェーバックとダッキングで秋山の攻撃を避ける。
ローとジャブで距離を保ち、視野の外へ抜ける。
過去に名を馳せたアナコンダが、財閥息子に翻弄されていた。
秋山は攻めあぐねたのか、ブルースの足元めがけてタックルを試みた。
しかしブルースは金網を利用して体を反転させ、そのまま秋山を押しつける。
密着した状態で、短い連打を加えた。
「秋山さん!」
労働者たちが心配そうに叫んだ。
ブルースは一定の打撃を打ち込むと、すぐに距離を取ろうとした。
秋山はその隙を逃さず、ストレートをブルースの顔面へめり込ませる。
しかしブルースは何事もなかったように距離を維持し、再び秋山の右側へ移動した。
ケージの中央でブルースを見据える秋山。
徹底して外から削ろうとするブルース。
ふたりはそれ以上、簡単には仕掛けられなかった。
勝負は膠着状態へ入っていく。
時間が刻々と過ぎていった。
どうにか状況を変えようと、秋山が無理に攻め込んできた。
左ジャブがひとつ。
ストレートがひとつ。
ブルースの鼻先をかすめる。
さらに距離を詰めようと、秋山が突進した。
ブルースは、この時だけを待っていた。
秋山が放った左フックをガードしながら、自らもカウンターの左フックを入れる。
ふたつのこぶしが、互いの顔面に突き刺さった。
目の前の景色がぐらぐらと揺れ、ブルースはよろめいた。
マズい。
追撃が来る。
どうにかガードを上げようとした。
しかしアナコンダの追撃はなかった。
秋山は片膝をついていた。
完全には倒れていない。
しかし、立ち上がることもできなかった。
片手をマットにつき、もう片方の手で金網をつかもうとしている。
それでも体が言うことをきかず、肩が大きく上下していた。
ブルースもまた、尻もちをついたまま動けずにいる。
ケージの外から男たちの叫び声が聞こえた。
ケージの扉が開き、医師たちが中へ駆けつけてくる。
「秋山さん!」
労働者たちもケージへ入ってきた。
「大丈夫だ……」
秋山は顔を上げようとした。
だが、その目はまだ焦点を結んでいなかった。
「いくら経験者だからって、どうやって監督を……」
玖村は大きく口を開け、ブルースを見つめた。
ブルースは全身がしびれて、すぐには答えなかった。
そのままあぐらをかいて座った。
「当然、私が勝つに決まっています。秋山さんは……片目が見えないんですから」
はぁ……と、労働者たちのため息が漏れた。
「片目が見えないことを、知っていたんですね」
秋山はゆっくりと立ち上がり、ブルースの前に近づいて座り込んだ。
「引退理由は網膜剥離。肘打ちを受け、数か月後に左目の視力を失った。大好きだった選手なので、引退の理由くらいは知っています」
「にしても、弱点に対応した動きなんて簡単にはできませんよ」
「専属トレーナーのひとりに、片目の視力が弱い方がいましてね。その方が冗談交じりに、自分の攻略法を教えてくれたんです」
「そうだったんですか」
秋山が小さく笑った。
「常務、格闘家に転身するつもりはありませんか?」
「残念ですが、そういった夢は持ち合わせていません。私には抜け出すことのできない社会的な責任がありますので」
「冗談です。常務にはビジネスのほうがお似合いです」
ブルースはようやく立ち上がった。
「皆さん。古き良き時代の鉄拳制裁というものは、ここまでにしましょう。堀口課長に対するあなたたちの愚行は、私の愚行によって相殺されたとご理解ください」
「今回の件、本当に申し訳ありませんでした。どうか堀口課長に直接お会いして、謝罪する機会を作っていただけませんか」
「もちろん、人としてそうすべきです。ただ、まだ堀口課長の行方がわかっていません。まずは彼を見つけなければなりません」
「ビスタに戻ったら、我々がすぐに探します」
「その必要はありません。堀口さんはこちらで見つけます」
今頃、東京に沈思熟考だけを残し、他の勇信たちはしそね町へ向かっているだろう。
明日からはポジティブマンとあまのじゃくが、できる限りの変装をして町全体を探す予定になっている。
「実は、皆さんをここに呼んだのは、他にも理由があってなのです」
「他の理由ですか」
労働者たちがブルースの前に集まりはじめた。
「ビスタの建設が中断となった今、皆さんに新たな業務を任せたいと思っています」