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#探偵
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「やめましょう、秋山さん。あなたは私に勝てません」
「それはできません、常務」
秋山が再び距離を詰めてくる。
ブルースは左ジャブをひとつ放って距離を保ち、秋山の右側へ回り込んだ。
秋山がさらに攻め込もうとしたところを、ローキックで牽制する。
そのまま視野の薄い側へ抜け、ジャブで距離を取った。
ゴッ。
左ジャブが、はじめて秋山の顔面をとらえた。
ブルースは追撃しなかった。
距離を保ち、ローキックとジャブを入れ、また秋山の右側へ回る。
徹底したアウトボクシングだった。
「秋山さん、もうやめましょう」
スウェーバックとダッキングで秋山の攻撃を避ける。
ローとジャブで距離を保ち、視野の外へ抜ける。
過去に名を馳せたアナコンダが、財閥息子に翻弄されていた。
秋山は攻めあぐねたのか、ブルースの足元めがけてタックルを試みた。
しかしブルースは金網を利用して体を反転させ、そのまま秋山を押しつける。
密着した状態で、短い連打を加えた。
「秋山さん!」
労働者たちが心配そうに叫んだ。
ブルースは一定の打撃を打ち込むと、すぐに距離を取ろうとした。
秋山はその隙を逃さず、ストレートをブルースの顔面へめり込ませる。
しかしブルースは何事もなかったように距離を維持し、再び秋山の右側へ移動した。
ケージの中央でブルースを見据える秋山。
徹底して外から削ろうとするブルース。
ふたりはそれ以上、簡単には仕掛けられなかった。
勝負は膠着状態へ入っていく。
時間が刻々と過ぎていった。
どうにか状況を変えようと、秋山が無理に攻め込んできた。
左ジャブがひとつ。
ストレートがひとつ。
ブルースの鼻先をかすめる。
さらに距離を詰めようと、秋山が突進した。
ブルースは、この時だけを待っていた。
秋山が放った左フックをガードしながら、自らもカウンターの左フックを入れる。
ふたつのこぶしが、互いの顔面に突き刺さった。
目の前の景色がぐらぐらと揺れ、ブルースはよろめいた。
マズい。
追撃が来る。
どうにかガードを上げようとした。
しかしアナコンダの追撃はなかった。
秋山は片膝をついていた。
完全には倒れていない。
しかし、立ち上がることもできなかった。
片手をマットにつき、もう片方の手で金網をつかもうとしている。
それでも体が言うことをきかず、肩が大きく上下していた。
ブルースもまた、尻もちをついたまま動けずにいる。
ケージの外から男たちの叫び声が聞こえた。
ケージの扉が開き、医師たちが中へ駆けつけてくる。
「秋山さん!」
労働者たちもケージへ入ってきた。
「大丈夫だ……」
秋山は顔を上げようとした。
だが、その目はまだ焦点を結んでいなかった。
「いくら経験者だからって、どうやって監督を……」
玖村は大きく口を開け、ブルースを見つめた。
ブルースは全身がしびれて、すぐには答えなかった。
そのままあぐらをかいて座った。
「当然、私が勝つに決まっています。秋山さんは……片目が見えないんですから」
はぁ……と、労働者たちのため息が漏れた。
「片目が見えないことを、知っていたんですね」
秋山はゆっくりと立ち上がり、ブルースの前に近づいて座り込んだ。
「引退理由は網膜剥離。肘打ちを受け、数か月後に左目の視力を失った。大好きだった選手なので、引退の理由くらいは知っています」
「にしても、弱点に対応した動きなんて簡単にはできませんよ」
「専属トレーナーのひとりに、片目の視力が弱い方がいましてね。その方が冗談交じりに、自分の攻略法を教えてくれたんです」
「そうだったんですか」
秋山が小さく笑った。
「常務、格闘家に転身するつもりはありませんか?」
「残念ですが、そういった夢は持ち合わせていません。私には抜け出すことのできない社会的な責任がありますので」
「冗談です。常務にはビジネスのほうがお似合いです」
ブルースはようやく立ち上がった。
「皆さん。古き良き時代の鉄拳制裁というものは、ここまでにしましょう。堀口課長に対するあなたたちの愚行は、私の愚行によって相殺されたとご理解ください」
「今回の件、本当に申し訳ありませんでした。どうか堀口課長に直接お会いして、謝罪する機会を作っていただけませんか」
「もちろん、人としてそうすべきです。ただ、まだ堀口課長の行方がわかっていません。まずは彼を見つけなければなりません」
「ビスタに戻ったら、我々がすぐに探します」
「その必要はありません。堀口さんはこちらで見つけます」
今頃、東京に沈思熟考だけを残し、他の勇信たちはしそね町へ向かっているだろう。
明日からはポジティブマンとあまのじゃくが、できる限りの変装をして町全体を探す予定になっている。
「実は、皆さんをここに呼んだのは、他にも理由があってなのです」
「他の理由ですか」
労働者たちがブルースの前に集まりはじめた。
「ビスタの建設が中断となった今、皆さんに新たな業務を任せたいと思っています」