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「で、どこから探す?」
潮見の言葉に、真帆さんはショルダーバッグから取り出した磁石とにらめっこしながら、
「そうですねぇ、魔力磁石を使えば簡単に見つけられると思っていたんですけど、思った以上に魔力の流れが細すぎるみたいで、全然使い物にならないみたいです」
それから大きくため息を吐いてから肩をすくめて、
「仕方がありません、しらみつぶしに調べていきましょうか」
そんな真帆さんに、僕は首を傾げながら、
「細すぎるって、それなのにミナトは、あんなに体調を悪くしてるの?」
「それだけ地力との結びつきが強いということでしょう。どんなに流れが細くとも、そこに穴がある限りは、際限なく魔力は流出し続けているわけですから」
「ただ、本来なら、多少の穴は人体に悪影響なんて及ぼさないんだよ」
歩きながら、潮見がそう教えてくれた。
「穴ができて、そこから魔力が流れ出して、また新たな魔力の流れが生み出される。川の流れと一緒。川が山の斜面を削ることによって、それまで流れていた川のルートが変わったりするでしょ? 魔力も、それと一緒でいつも同じ場所を流れ続けているわけじゃない。長い年月をかけて、少しずつ動きを変えながら、絶えず地中を流れ続けている、そういうものなんだよ。その流れを人間にとって都合のいいように制御するために、私たち魔女は要石を設置してきた――って、おばあちゃんが言ってた」
おばあちゃん――坂の上の魔女が。
僕は「ふうん」と曖昧な返事をしてから、
「とにかく、もう一つ、魔力の穴を見つけて塞げば、今度こそ湊は回復する、そういうことだろ?」
潮見はうんと頷いて、
「ま、そういうこと」
「あの様子だと、本当にこの近くだと思うんですけど…… 或いは地力というより、この場と言うべきかもしれません。より限定的な魔力の流れ、だと思うんですが」
言いながら、真帆さんはきょろきょろと辺りを見回す。
腰を屈めては地面を睨みつけ、背筋を伸ばしては少し先の方を見つめている。
僕と潮見もそれに倣うように辺りを色々と探ってみたのだけれど、正直なところ、何がきっかけで魔力が流れ出しているのかが解らないのだから、探しようがない。
昨日みたいに、その近くに龍か何かが居てくれたなら、少しは探しやすいのだろうけれど。
「結局、どこからどんなふうに魔力が流れているのか、予想もできないの?」
訊ねると、真帆さんは「ほら、何度も言ったじゃないですか」とこちらに振り向き、
「祠とか社があったような場所ですよ。或いはそれに代わる何かかも知れません。仏像、石像、それこそ漂着神的なものかも知れません。それが何なのかまでは私には判りません。むしろ、メイさんとハルトくんの方が詳しいのではないですか? この辺りに、何かが祀られていたりとかしていませんでしたか?」
「祀られていた、って言われても……」
昔からこの辺りでずっと遊んできたけれど、そんなものを見た記憶は一切ない。
潮見はどうだろうと顔を向けてみたのだけれど、潮見も僕と同じように、眉を寄せながら首を傾げて、
「そんなもの、あったかなぁ……」
と呟いた。
「もしかしたら、それは一見して祀られているようには見えないかも知れません。何かの標、意味ありげにそこにあるだけの、正体不明の構築物、とか」
本当に、何も心当たりはありませんか?
そう真帆さんに改めて問われて、僕は眼を閉じて記憶の底を探ってみる。
けれど、幼少の頃からの記憶に、そんなものはまるで出てこなくて。
いや、もしかしたら、僕が意識していないだけで、確かに何かがこの辺りにあったのかも知れない。
しかもそれは、ここ数日の間に破壊されるか、何かがあって、それが原因で魔力の穴ができて――
そこでふと、僕は思い至るものがあった。
それは湊が体調を崩した、あの朝のことだ。
僕と陸と優斗の三人で魚釣りに行った、その帰り道。
道端に放り投げられていた、あの、長さ三十センチくらいの、大きくて四角い石。
優斗はあれに躓いて転んでしまい、膝にケガをしてしまった。
あの石は、いったい何だったんだろう。
どうしてあの石は、あんなところに転がっていたんだろうか。
もしかして、アレが――?
「真帆さん」
僕はたまらず、真帆さんに声をかける。
「はい?」
返事する真帆さんに、僕はその眼を見つめながら、
「もしかしたら、アレかも知れない」
「アレって、心当たり、ありましたか?」
「そうなの? 天満」
「うん」
と僕は頷き、
「こっち、すぐそこの釣具屋の前だ」
ふたりを案内するように、駆け出したのだった。