~魔坑道最深部~
進とサンドルの戦いが始まろうとしていた。
「フラムさん、周りの人たちはまだ生きている人もいます。」
「―――なので、戦いの前にヒールを掛けようと思います。」
進は、真剣な顔でフラムに提案した。
「僕は構わないが、ススム君の魔力は大丈夫かい?」
「おいおい、俺様との戦いの前だってのにずいぶんと余裕なことだな。」
サンドルは進を茶化すように言った。
「五月蠅い!」
進は、サンドルを睨みつけた。
進はこの世界に来てから、最高に怒りを露わにしていた。
「白魔法:エリアヒール!」
魔坑道最深部は白魔法の光で辺りが包まれ、倒れていた冒険者の生命力が忽ち回復していった。
「凄い…まさかこんな広範囲にヒールを掛けられるなんて…」
余りの光景にフラムは感嘆の声を漏らす。
「ススム君!サンドルは強い!それもとてつもなくだ!」
「それなのに君はなぜ立ち向かうことができるんだ。」
「僕は・・・僕は、いや俺は悔しいんだ!とても!親友が殺され、仲間が殺され!大切な人が殺された!その仇が今俺の目の前にいる!それなのに震えて動けないでいるんだ!!怖いんだ…恐ろしいんだ…!」
「俺は大切な人を一人も守れなかった!己の非力さをここまで呪った日はない!」
「教えてくれないか!なぜ君は立ち向かうことができる?」
フラムさんは膝を地面に付け、大粒の涙をぽろぽろと目から流し、顔がくしゃくしゃに歪んでオレに訴えてきた。
「分かります、その気持ち―――」
「オレだってそうだ。」
「大切な女性を一人守ることもできなかった。」
「だからオレは今この場にいる。」
「自分の力が今目の前にいる相手に通用しなかったらなんて気持ちはいつもあった。」
「それでも戦わないければ、大切な何かは守れない!だからオレは戦い続ける。今もそしてこれからも…」
「ススム君―――」
「フラムさん、爆剣-クレイモア借りてもいいですか?」
「あ、ああ大丈夫だ!」
「ありがとうございます。」
「奴には剣一本では到底太刀打ちできそうもありませんから。」
そう言って、進は爆剣-クレイモアを左手に持ち、右手に神聖剣(セイクリッドブレード)を持った。
「ほう。二刀流ってやつか…!そんなことをする奴は500年前にも数多くいたぞ!」
「黄土魔法:岩石弾(ストーンバレット)」
進は岩石弾(ストーンバレット)の魔法陣を展開した。
「ススム君そいつ相手にその程度の魔法じゃ…!」
「貴様、剣を構えながら魔法陣を展開できるのか!」
「人間にしてはなかなかやるな…いや女神の手先だから当たり前か。」
「岩石弾(ストーンバレット)×100」
「100だって!」
その数にフラムは驚いた。
進の周囲に魔法陣が展開され、岩石弾(ストーンバレット)が100個出現し、その全てがサンドルに向けて放たれた。
「だから俺様に魔法は効かないんだって!」
「灰魔法:魔法却下(ロストマジック)!」
進の岩石弾(ストーンバレット)は全てサンドルの目の前でかき消された。
「無駄無駄無駄さ!その程度の魔法は俺様には通用しない。」
「ふっ、今ので分かったよ。」
進は不敵な笑みを露わにする。
「貴様、何が可笑しい?」
「お前の魔法のからくりだよ。」
「何だとォ?」
「お前は、魔法を消しているように見えて消していない!」
「正確には弱体化させてるだけだそれも急速に!」
「ハハハ!いきなり何を言い出すかと思えば、それがどうした。」
「結局お前らの魔法は俺様に触れることさえできず消滅しているじゃないか!」
「魔力を離散的に0にするのと、連続的に0に減衰させるのとでは雲泥の差だぞ。」
「つまり、お前に魔力を完全に0にされる前にお前に当てることができるくらいの出力を出してやればいい!」
「だからその出力が難しいんだろが。」
段々サンドルは進の指摘にイライラしてきている。
「なら、今から見せてやるよ!お前の攻略法を!」
そう言って、進は自身に強化魔法を施し、サンドルに接近した。
爆剣-クレイモアと神聖剣の目にも止まらぬ剣舞をサンドルに放った。
サンドルは進の攻撃を全て右手のみで受け流していく。
「なんて戦いなんだ…。ススム君も凄いがサンドルはあの猛攻を息一つ切らすことなく片手のみで全て受け流している。」
「進よ!確かに貴様は強い!だがそれは人間の枠組みで見たらの話だ!貴様程度は500年前に飽きるほど勝利をしてきた。」
「いい加減終わらせてやるよ!」
「灰魔法:生命消失(ロストライフ)!」
サンドルの右手が進の首元を掴んだ。
「ススム君!それはまずい!」
フラムは必死に叫んだ。
その瞬間進の体を白魔法の光が包んだ。
「なっ!なんだこの光は!」
進はサンドルの灰魔法を自身の白魔法で中和したのであった。
進はサンドルの腕を振り払い、神聖剣(セイクリッドブレード)でサンドルの首を狙った。
咄嗟にサンドルは自身の左手を盾にする。
「ズッシャ!」
鈍い音を立て、サンドルの腕が切断され、血しぶきが宙を舞った。
一瞬の出来事で、サンドル自身も呆気に取られていた。
その隙を進は見逃さず、続けざまに自身の体を回転させ、左手の爆剣-クレイモアでさらにサンドルの首を狙う。
「そうはさせるか!」
サンドルは、強引に右手から魔法陣を展開させ魔法を詠唱した。
「灰魔法:時間消失(ロストタイム)!」
サンドルの回りは灰色の世界となり、時間の経過が1/1000以下になってしまった。
全てがスローモーションとなっている中サンドル自身は普通に動けていた。
「ふははは、流石に今のは俺様もヒヤリとしたぞ!」
サンドルはゆっくりと自身の吹き飛ばされた左手を拾い、自身の腕にくっつけた。
「だがこの勝負、俺様の勝ちだ!」
そうして、サンドルは進の心臓を貫いて、自身の魔法を解除した。
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