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#王子
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それまであった遠慮といったものが、さらさらと砂になって風に飛ばされていくような感覚があった。
「……私、きっと迷惑ばかりかけると思います。世間知らずですし、失敗も多いし……」
「構わん。むしろお前のそういうところを俺が補えばいいだけの話だ」
即答だった。
「それにお前は……もう既に十分すぎるほど、俺にとって特別なんだ。あの夜、熱で朦朧とする意識の中、俺がどんな夢を見ていたか分かるか?」
「夢、ですか……?」
「ああ。俺は生まれて初めて、穏やかで温かい……幸福な夢を見たんだ。その中心にいたのは、お前だった」
あまりにストレートすぎる言葉に、脳の処理能力が限界を超えた。
クラクラとめまいがする。心臓が痛い。
「だから、ノエル。これからは仕事としてではなく……妻として、俺の隣で寝てくれないか?…ってのが俺の本音なんだが…もし迷惑だったら、遠慮なく断ってくれていい」
その言葉を聞いた瞬間、私の世界は本当に時が止まったようだった。
妻。
皇帝の妻。
それはつまり皇后……?
私が?
あまりにも現実味がなくて、体の震えが止まらない。
けれど、アイゼン様は冗談でこんなことを言う人ではない。それは短い付き合いでも分かる。
ならば、真剣に答えなければ。
私が本当に感じている想いを。
「私……まだ自信がありません。貴方の隣に並び立てるような人間じゃないかもしれません」
正直な気持ちを口にする。まだ恐れはある。
「でも……私に居場所をくれたのはアイゼン様です。ですから…アイゼン様がそう言ってくださるなら…っ」
自分なりの覚悟を込めて、正面から彼の瞳を見据えた。
「癒やすだけじゃなくて、妻として支えたいです…」
勇気を出して言い切ると、アイゼン様は息を飲んだ。
次いで、信じられないくらい柔らかく、幸せそうに微笑んでくれた。
「ありがとう……ノエル」
そっと腕を伸ばし、私を優しく抱き寄せてくれる。
鍛え上げられた硬い筋肉の感触と、清涼で落ち着く匂い。
背中に回された腕は力強く、安心感を与えてくれた。
「ああ……やっと伝えられた……」
安堵のため息と共に囁かれる低い声。
私も彼の背中に腕を回し、そっと抱き返した。
「私の方こそ……ありがとうございます」
暫しの沈黙。
けれど不思議と心地よい沈黙。
私たちの間にある壁が溶け出すような、そんな柔らかい時間だった。
「……少し早いが、そろそろ室内に戻るか」
「はい」
アイゼン様が名残惜しそうに一度強く抱きしめてから体を離す。
「帰ったら、明日の予定を確認しなければならない。近いうちに正式に婚約を発表したい」
「こ、婚約、ですか……?なんだか今から緊張してきました…っ」
「そう身構えるな」
キッパリと言い放ち、手を差し出してくる。
迷うことなくその大きな手に自分の手を重ねると、しっかりと握り返された。
お互いの体温が心地よかった。