異変発表から2年と何か月か。
お互いのことを知って数日経った。特にやることもなく二人でだらだらと話していると、
ラジオからふと「死に場所探し」という言葉が出てくる。
「…なぁ、アメリカは最後、どうしたいんだ?」
「あ~、もうそんな時期?!俺なんだろ、あ、一人では死にたくない。」
「寂しいもんな」
思い出したようにアメリカがニヤッとする
「じゃあ死ぬ前に旅したい、旅しながら死に場所探そうぜ」
「それいいな、久しぶりに外出たい。」
アメリカが、少し寂しそうに笑う。
「それなら行くとしたら明日、…行ったら帰れねぇけど、いいのか?」
「はは、帰れたら奇跡だな。」
冗談めかしているのに、その声はどこか掠れていた。
俺は小さく息を呑む。
冗談で返せば楽だったのに、喉の奥が凍りついたように言葉が出てこない。
帰れない。
――そんなこと、わかってる。
でもそれを認めたら、本当に“終わり”になってしまう気がした。
「怖くなっちまったか?大丈夫だろ、俺たちなら」
アメリカが励ましてくる。
「どうせ映画のセリフだろ、それ」
「げ、バレた。すっげぇかっこいいヒーローがいるんだよ」
「はいはい、分かったから。準備するぞ」
「はーい、なになら持って行っていい?」
「自分で持ってけるもんならなんでも」
「ありがと」
それから明日の準備を始める。キッチンから1~2日分の食料をリュックに詰めてから
どうしても持っていきたい物を入れる。
…最後まで持っていたい物が出来ちまったんだな、俺。
「なぁロシア~?せっかくだから今日は一緒に寝ねぇ?」
「はぁ、??…まぁしゃーねーな、特別だぞ?」
「よっしゃ~!じゃあ今から着替えて俺の部屋来い!」
「はいはい…」
「アメリカ、入るぞ?」
「お!来た!」
アメリカの室内はかなり物が少なく、さっぱりしていた。
「ん!まだ寝るにははえーしこれでも飲みながら話そうぜ」
そういってアメリカはホットココアを差し出して来た。
「ん、ありがと。」
あったかい、美味しい。
「……今日はさ。ここで話して、疲れたらそのまま寝ちまおうぜ。
わざわざ部屋戻んなくていいからさ。」
少し悲しそうな声でアメリカが言う
「…ん、じゃあ眠くなったらお前の布団早い者勝ちな」
「えっ!俺の布団だろ?!」
「別にいいだろ寒いんだし」
「半分こ!!平和的に行こうぜ~?」
「俺らが言うかよ…ww」
「確かになww」
2人で笑い合う、あーあ、明日も明後日も続けばいいのに、…もう1日しか残ってねぇんだな、
「明日も明後日もこんな感じで笑いたかったな」
「…まぁ今笑っておこうぜ!ほら」
アメリカが人差し指で口角をあげさせてくる
「ちょっ、やめろバカ」
つい微笑む、それにつられてアメリカも笑う。
「俺笑ってるお前の方が結構好きだもん」
「なんだよ急に…?!」
「何も~?」
話そらす気か…
「あっそ、あ、そうだゲームあるけど」
「ゲーム?!何々!!」
「これ」
そう言ってSwitchとゲームカセットを出す。
「掃除してたらあったわ、どれやりてぇ?」
「これ! これやりたい、俺」
そう言ってアメリカは棚の端に置かれたパーティゲームを指さした。
「んじゃ、それにするか」
カセットを取り出し、本体に差し込む。
起動音が鳴って、画面がキャラ選択へ移る。
「キャラ…なんだこれ、赤いヤツだけ見覚えあるんだけど」
アメリカが首を傾げる。
俺は小さく笑いながら答えた。
「お前、昔これやってただろ。ほら、そいつ主人公。」
アメリカは「あー!そうそう!」と嬉しそうに手を叩く。
そう言いながらゲームを始めた。
「また負けた!次こそ倒す!」
アメリカがいつも以上に大げさに声を張り上げる。
……わざと明るくしてる?
そう気づいた瞬間、笑いの裏の空気が急に重くなった。
向き合いたくなかった終わりが、じわりと近づいてくる。
考えたくなかった。考えないようにしていた。…でも一度考えだすとその思考は止まらない、
死ぬのが怖い、まだ生きたい、アメリカとずっと笑い合っていたい、そんなことが一気に頭の中に流れてくる。
でも今はまだ、まだ考えたくない…怖い。そんな思考を遮るように、アメリカが数段トーンを落とし話しかけてくる。
「どうした…?大丈夫か?」
「…なんでもねぇよ、大丈夫」
そう言って笑う。上手に笑えてる自信がない。
「ん。……じゃあ続きやるか。そばにいるし、気にすんな」
多分気づかれてる。でも触れないでくれるのは今は助かる。
少しぎこちない雰囲気の中、ゲームを進める。
(アメリカ視点)
「ん…やば、寝てた…」
焦って起き上がると、隣でロシアが寝ている。多分途中で俺が寝て、ベッドに運んでくれたのだろう。
「ほんと、嫌だな…終わるの」
声は掠れて、弱弱しい。
布団にぽた、ぽたと涙が落ちる。
「怖いよ、どうしたってこえーよ、…」
グイっと袖で涙を拭いて、窓の外を見る。
「…綺麗だな」
風も止み、空気が澄んでいて遠くまで見渡せる。雪がキラキラと輝いていて美しい。
窓の外に広がる雪景色は、あまりに綺麗だった。
こんなにも透き通った世界の中に、自分たちだけが取り残されている気がした。
ふと、ロシアの方を見る。安心したように眠っている。
「ははっ、やっぱ年下なんだな」
隣にいるのに、届かない。
ロシアは眠っているはずなのに、なぜか遠く感じる。
明日を挟んだだけで、もう“未来”ってやつに手が届かなくなる気がした。
死んでも一緒に居てぇ、こいつとずっと、明日も明後日もこうしていられたらよかったのに。
布団に涙がまた落ちた。
起きてても考えたくないことばっかだ。寝ようと再びベッドに横になる。
隣にこいつが居たからか、意外とすぐ眠れた。
明日が来なければ、…いいのに。
全球凍結まであと■日
コメント
1件
涙腺何本あっても足りないじゃないですか!これ泣かせにきてるって!(全力投球の褒め言葉)