異変発表から2年と数か月。
覚悟が決めれないまま、朝が来た。
アメリカはまだ寝ているようで、まだ朝も早いし寝かせておこうとそっとベッドから出る。
すると裾が急に掴まれた。
「まって、俺も一緒に起きる…」
寝ぼけたアメリカが目をこすりながら起きた。
「お前にしては早起きだな」
「まぁな」
そう話しながら、リビングへ降りる。
そのまま俺はキッチンへ向かい、朝ごはんを作るために冷蔵庫を開ける。
冷蔵庫はほとんど空だった。
せめて使えるもので温かいものを作ろうと、鍋に少しの水と残りの食材を放り込み、簡単なスープを作る。
湯気が立ちのぼる匂いが、ほんの少しだけ心を落ち着かせてくれた。
「あっ、スープ?!美味そう」
そう言ってアメリカが駆け寄ってくる。
「ん、座ってろ、入れるから」
そう言って盛り付け、アメリカに渡す。
アメリカは椅子に座るなり、ふぅふぅと息を吹きながらスープをすくう。
口に入れた瞬間、ふわっと表情が緩んだ。
「ロシアが作るの久々だけど……なんか、いいな…こういうの」
「…そうか?」
そう言いながら俺も向かいに腰を降ろす。
毎日こうやって食べているのに、どこか今日は特別感があった。
朝ごはんを食べ終え、最後の準備をする。
荷物は玄関に置いてある。あとは着替えて、行くだけ。
「行くなら早く行こうぜ~」
「じゃあもう行くか?」
「…行こう」
静かに頷く。そのままお互いがお互いの部屋に行き、着替える。
着替え終わったので、部屋から出る。
丁度アメリカも着替え終わったところだった。
「よし、…行くか」
「…うん」
そう言って玄関に向かう。この家でやり残したことはもうない。
覚悟を決めて、外に出る。
「うわっ、さみぃな…」
「でも吹雪はマシだよな」
「いつもよりはな」
少しずつ、離れないように手をつなぎながら進んで行った。
しばらく歩いて、吹雪から身を守れそうなところで休憩に昼ご飯を食べた。
「なぁロシア、帰ったら、昨日の夜みたいに一緒にゲームしようぜ」
「…じゃあその時は寝落ちしないようにする」
「じゃあ俺も~」
帰れないのはわかってる。でももしも帰れたら…帰れたら、きっと温かいココアを一緒に飲むんだろうな。
このまま世界が凍らずに、溶けていったら…すきって言ってあげてもいいし
昼ご飯を食べ終え、また進む。最初より心なしか手をつなぐ力が強くなっている気がする。
二人とも知っていた。
手を離したら――終わりだと。
しばらく歩いた頃、急に足元が沈んだ。俺は慣れていたけど、雪に慣れていないアメリカは前のめりになる。
「うおっ、?!」
「おわっ、大丈夫か?」
反射的につないでいた手を引き寄せる。
「…っ、びびった…ここ、思ったより雪深ぇな」
「転ばないように気をつけろよ」
「ん、そっちもな」
そこで気が付いた。さっきより強くふぶいている。
それにアメリカも気づいたようで、アメリカが呟く。
「雪、強くなってきたな…やべぇかもしんねぇ」
「……行けるよな、俺たち」
「大丈夫、きっと行けるから」
握る手だけが、確かに互いを繋いでいた。
浅い洞窟を見つけ、そこで休憩する。
…なんとなく怖い。底なしの不安の湖に放り投げられた気分だ。
不安を書き消したい気持ちで、持って来たキャラメルキャンドルに火を灯す。
洞窟にキャンドルの光と、甘い匂いが香る
「えっ、キャンドル?」
「ほら、クリスマスの時にくれただろ」
「あ~、あれか!…やっぱいい香りだな」
「どうしても持ってきたかったんだ、これ」
「使えないまま凍っても無駄だしな~」
そこで小1時間ほど時間をつぶす。
少し溶けたキャンドルの火を消しまた荷物の中に入れ、歩き出す。
遠くの地平が、いつのまにか白から青へ変わっていた。
「…海、だな」
アメリカが呟く。
その声は風に溶けて、かすかに震えていた。
「はは、ほんとに来ちまったな」
近づくほどに潮の匂いが強くなる。
白い雪と青い海の境目が、妙に綺麗だった。
「なぁ、ここまで来たの奇跡じゃね?」
「奇跡って言うなら、もっと別の奇跡起きてほしいだろ」
「ははっ、まぁな~!」
海が近づくほど、寒さは鋭くなるのに、
心だけは妙に落ち着いていった。
ここが、終着点だ。
でも別にアメリカが一緒なら、ここで終わりでも別にいい。
全球凍結まであと■日
コメント
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やめろ!ふたりとも早まるな!あああああああΩ\ζ°)チーン