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※戦争・ドリームコア表現あり
ひゅん、ひゅん。
風の音だけが、耳の横を通り過ぎていく。
だれもいない、パステルイエローの空。
見上げると、はるか遠く、雲の上。
終わりのないらせん階段が、バグみたいに途中でぷつりと切れている。
「……あ、れ。俺、なんで落ちてるんだっけ」
どれだけ手足をバタつかせても、掴めるものは何もない。
頭の奥で、お祭りの太鼓の音が、ぶつぶつと途切れながらずーっと響いてる。
せんそうは、おわらない。
大好きなにぃにの背中を、ずっと追いかけていた。
にぃにの隣に並びたくて、一生懸命、階段を登っていたはずなのに。
現実にいる俺の身体が、高いビルから突き落とされた瞬間、この世界の重力が、狂ってしまったんだ。
視界の端に、パチパチとシステム文字が浮かびあがる。
『⚠️警告:高度低下。地面との衝突まで残り5秒』
「あは、……にぃに、おれ、おちていってるよ……」
下を見ると、地面なんてない。
ただ、真っ黒なインクのような底が、口を開けて待っている。
どれだけ叫んでも、にぃにには届かない。
ちいさな画面を、落ちながら、ぽちぽち、叩く。
『にぃに、たすけて』
送信ボタンを押した瞬間、スマホが手からすっぽ抜けて、上へと置き去りにされていった。
[エラー:通信機器との距離が離れすぎています。]
「……あ」
ぐちゃ。
いやな音と、衝突の衝撃。
骨がバラバラに砕けて、自分の存在が地面的黒いインクにべちゃりと混ざっていく。
「……にぃ、に……ごめん……」
最後まで、にぃにの手を握れないまま、ただのシミになって消えていく。
[通知:衝撃によるサーバー【埼玉】の完全損壊。データの初期化を開始します。]
コメント
3件
読み終えました……冒頭の「ひゅん、ひゅん」という風の音だけで、もう胸が締め付けられるようでした。パステルイエローの空と、ぷつりと途切れたらせん階段。現実と非現実の境が溶けていくような、不安で美しい世界観に引き込まれました。 特に最後の、にぃにへのメッセージが届かず、システムに「初期化」と処理される瞬間。存在ごとインクに溶けて「ただのシミになっていく」感覚が、あまりにも切なくて——「とどかない」って、こういうことなんだなと思いました。言葉も、手も、命さえも、届かないまま終わってしまう無念が、静かに重く残っています。