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『《高魔力保持者》だけは、人族の《比翼連理の片翼》のことを《伴侶》だと、しっかりと認識しており、神々の祝福であり神々の愛し子だというのも理解していた。心から愛している存在。《高魔力保持者》だから人族の《比翼連理の片翼》を番にする──ではなく、元は神々の子であり、雌雄の目や翼、角などが一つずつしかない比翼竜だった。いつも仲睦まじい夫婦でもあったという。地上に降り立つ時に、蛇が邪魔をしたことで二人の力が半分ではなく8:2で別れてしまった。そして人族の器にしか転生できなかった《比翼連理の片翼》は、もう自分の片翼に気付く術を失ってしまった。だからこそ四大種族の中で生まれた《高魔力保持者》は、片翼を求めて世界を巡り見つけ出そうとする』
それは以前、ルティ様が話してくれた言葉だった。
あれは私を騙す嘘だと思っていたのだ。でも、違った。
『しかし時と共に人族の《比翼連理の片翼》は政治的な背景、種族の格差なども相まって歪んでしまった。そもそも《高魔力保持者》の数が減ったことも、大きな要因と言える』
そこから書かれた内容は、驚くべきものばかりだった。
四大種族。元は四大竜王を祖として他の神獣と交わったことで、天竜狐、地竜馬、空竜鳥、水竜魚が生まれ、獣から人族に近い姿へと進化したという。元は竜の血を色濃く受け継いだため、習性なども竜寄りと書かれていた。
(つまり……最初からブリジットの認識が違っていた? ううん、まだこの世界が前世の世界とは限らないわ!)
ペラペラとページを捲ると、四大種族の作法が書かれていた。天狐族もとい《天竜狐》のページに目を向けると──。
『竜の血が最も濃く、伴侶を見つけると溺愛する。束縛と独占欲が強く、自分への愛が伝わってない、受け入れられないと落ち着かず不安でいっぱいになる。できるだけ一緒の時間を設けようとするため、上位種族でも王族は職務放棄するほど愛する』
そんな愛し方ではなかったような気がする。なんとなく前世の嫌な記憶を思い出しそうになったので、伝承などのページを開く。海竜魚と人族の悲劇で、最初に海竜魚の独白から始まる。
『生まれた時から何かが足りなくて、喉が渇く感覚がずっと続いていた。成長するうちに内なる魔力は多く、《高魔力保持者》であると判定された。《高魔力保持者》は、人族の《片翼》と出会えなければ百五十年しか生きられない。以前よりも《片翼》が見つからない理由は、種族による格差により行動範囲が狭まってしまっていることだった。四大種族はそれぞれ人族が訪れること自体が難しい場所に国を作った。天空都市、真宵の森、神聖高山、海底。……圧倒的出会いのなさ、そして人族を見下すことで自らの種族は増長し、神の代行者だと国を運営する王族が勝手に決めた』
ぺらり、とページを捲った。挿絵などカラーで書かれた海底都市はとても深海の中にあり、明るく幻想的な建物ばかりで、ちょっとワクワクした。
『人族より長寿であること、魔力量が多いこと。たったそれだけで人族を劣等種族だと、その考えが浸透していった。そして《高魔力保持者》の暴走による自爆死が増えた段階で、人族の《片翼》を得られなかったら、心が蝕まれて狂ってしまうと私たち海竜魚族は気づいた。あまりにも遅すぎる気づきだったが、人族と交流を持つことを決めて──海上に出た』
歴史を紐解くと種族の違い、寿命や魔力量の差が少しずつ関係を可笑しくしてしまったのだろう。
『そこで滅亡しそうだった王国の姫ロザリーヌが伴侶だと分かり、海竜魚族は彼女の小国を帝国から救った。我らは国の英雄として受け入れられ、国交を約束する。私は王族の末弟。それ故、政治的な部分は兄たちに任せていた。母も兄たちも人族の《比翼連理の片翼》がどのような存在なのか重々承知していると、祝福してくれたのだ』
その文章を読んだとき、ドキリとした。
もしかしてヴィクトルもまた、そう思っていたのではないか、と。同族から祝福されていると本気で思っていたとしたら。
#恋愛
#長編
『この時、自分と母、兄たちの認識のすり合わせをしっかりしていたら、ああはならなかったのではないか。ロザリーヌを追い詰めることも、自ら死を望むことも──なかったのではないか、と』
そこまで読んで心臓がドクドクと煩い。種族は違うけれど、ブリジットの体験と似ている部分があった。そして上位種族の認識は海竜魚族、天竜狐族どちらも共通点がある。
その先を読むと驚くことに、人族には魔力を体内に蓄積する魔力炉がないという。《高魔力保持者》の魔力を受け入れるには、この魔力炉が必要らしい。それによって人族の《片翼》の寿命を引き上げるとか。
しかし驚いたのは、その魔力炉の作り方だ。
『私はロザリーヌも同じ《片翼》なのだから、神々から授かった《片翼》としての知識があると思い込んでいた。儀式をするために準備で、二人の時間を作ることができなかったのもある。でも儀式が終われば時間はたっぷりあるのだ。
愚かにもそう思って、儀式に臨んだ。彼女の心臓を一度取り除き、私の三つある心臓の一つを分け与える。痛みはない──はずだった。それなのに、彼女は自分の心臓が抉られた瞬間、ショック死してしまったのだ。事前の説明は母と兄たちがすると言っていたのに、問い詰めたら「人族と我ら王族が同じ寿命になるのは、おかしい」とか「人族の心臓を食べてしまえば、お前の寿命は延びるのだから良いのだろう」とか「また寿命が来たら人族を攫ってくれば良い」と、あり得ないことを言い出した』
絶望。
後悔。
激怒。
この作品の主人公アルムートはたった一人の伴侶を失い、その怒りで竜魚族を滅ぼしたという。周囲の暴走、人族という下級種族というレッテル、国内の鎖国的な背景も含めてブリジットと酷似していた。
(ブリジット以外にも似たような終わり方をした人が、この世界にいた……)
偶然。それともブリジットのことを題材に書いたのだろうか。
「くうん」と、私が本を読んでいないと気づいたのか、四足獣のモフモフは引っ付いてきた。ずっと私の体に寄り添って泣いていた子は、スヤスヤと眠っている。
時計の針は夜の十時を過ぎていた。いつもなら寝る時間だ。情報量も多いし、明日続きを読もうと眠ることにした。