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ふたりだけ、ずっと【一次創作BL】

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ふたりだけ、ずっと【一次創作BL】

3 - あの人と"いきたかった"のに

♥

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2024年03月30日

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─廉が、トラックに轢かれました。


その言葉が電話越しで耳に届いて鼓膜を揺らしても、5秒ほど言葉が呑み込めなかった。口はぱくぱくと空気を食むばかりで、思う言葉を出すことができない。

やっと言葉を発することができても、かすれて今にも消えてしまいそうな疑問の言葉だけ。


「嘘、や…ろ……?」

『…今、市内の__病院、__室にいます。…伊織くん、来てくれますか?』


聞き慣れた声。あの人の同僚、一さんだ。

信じたくなかった。目の前にいる現実から目を背けて、そのままなかったことにしたかった。当たり前だったことが当たり前じゃなくなる。日常の崩れ落ちる音が聞こえて、吐き気を催した。



「…残念なのですが─」


今日未明、横断歩道を渡っていたあの人は、飲酒運転で暴走していたトラックに轢かれた。医者の判断によれば即死状態。遺体の腹部の損傷が激しく、諸臓器などが傷付いたことによる失血死だったという。

目眩がした。冷や汗が止まらなくなった。言葉すら出せずに、呼吸が浅く早くなる。過呼吸を起こしてうずくまってしまった俺を一さんは「大丈夫ですよ」となだめてくれた。


その後、医者の諸々の説明を遠のきゆく意識で必死に聞いた後、たくさんの書類に半分絶望しながら帰宅する。ここまで来てもなお夢だと信じたくて、ベッドに倒れ込んでしまった。…あの人がいた時の、安心する匂いがした。


もうこのベッドを暖めてくれる人はいない。

ここで、何回も何回も愛を確かめあった人はここにいない。

身体を重ねて、俺の全てを受け止めてくれた人はもう、


(……いないんやね…)



目を覚ました。午前四時。残っている画面のやり取りを見つめ、夢ではないことを分からされた。


不意にあの人との会話を思い出したくなって、トーク画面を開く。会話はサムズアップのハンドサインをしたうさぎのスタンプで終わっていて、それがどうしようもない虚無さを生む。かつての幸せそうな自分たちを写した写真を見ても、あの人がくれたプレゼントに照明の光をかざしても。

とにかく、どんなに中身のあるあの人との思い出をもってしても、空虚な心が埋まることはないまま一日が過ぎていった。



あの人がいなくなって、約2日。目を覚ましても、もう誰の姿もない。

この日はとにかくぽっかりと空いた身体を何かで満たしたくて、自慰行為をしたりかつてあの人の物だったパーカーやブランケットに埋まったりした。

部屋に響くか細くて甘ったるい声は、余計に自分への嫌悪感をかさ増しさせて。気持ちいいとかそんなことは感じずに、ただただ気持ち悪かった。

まあ、そんなことであの人を失った俺が満たされる訳もなく、色々な液体でぐしゃぐしゃになったシーツを抱えてずっと、ずうっと泣きじゃくっていた。



─何をやっても、満たされない。自傷をしたせいでじくじくと痛む四肢は、血が滲んで時折垂れる感覚が伝わってくる。

震える手で、隣に放置していたパウンドケーキを齧る。あの人の好きなベリーの入った、手作りのパウンドケーキ。思い出がこもっている大事なケーキのはずなのに、全く味がしなかった。

口の水分を奪っていくだけのそれを頬張って無理やり胃に押し込んだ途端、涙が溢れる。何も出来ずに、過去を引きずってばかりのダメ人間。あの人がいないと何もできない。そんな自分が情けなくて。惨めで。


ひたすらに苦しかった。ひたすらに、死にたかった。後を追いたかった。またもう一度笑い合いたかった。ただ、それだけを考えて。


「……にいちゃん…」


…ああ、言葉に出してしまった。もう、ダメだ。


─兄ちゃん。

……兄ちゃん。

にいちゃん。


ごめんね、兄ちゃん。

俺、多分もう生きられないわ。


「…にい、ちゃん……」


昔は、俺兄ちゃんのこと大っ嫌いやった。

殺そうとしたのも、兄ちゃんは許してくれとるかな。


「……兄ちゃん…」


…甘いもの、あんまり好きじゃなかったの最近知ったっけ。

空のお星さまになったら、たくさん好きなもの作ってあげる。


「…兄ちゃん」


俺がつらい時は、いっつも隣で慰めてくれた。

…最期ぐらい、一緒にいてあげたかったんやけどね。


「兄ちゃん……」


いい雰囲気になったら、決まって俺にキスしてくれた。

今はあれもなくなったの、寂しいわ。


「……にいちゃん…」


名前を呼ぶ度に、次々と思い出が蘇る。初めてをたくさんあげて、その代わりにたくさんのものをくれた。愛情、絶望。甘いものとかもいっぱい。


二人で過ごす夜は、いつも俺の宝物で。

二人で見たものは、いつまでも脳に焼き付いて。

二人で交わした言葉は、いつまでも俺を振り回す。

二人の想いは、いつまでも変わらない。


これからの人生なんて、二人でなくちゃ意味がない。二人で過ごさなくちゃ、俺の人生は空っぽも同然だ。

“いずれ時が癒してくれる”とか言うのも、信じたくない。その時まで待てそうにないから。



兄ちゃん。いま、行くから。…いや、”逝く”から。


自傷に使った、血がこびりつくカッターに手が伸びる。

カッターを首に突き立てると、また涙が零れた。



─兄ちゃん。


「……天国で、まっててね」




𝗍𝗁𝖾 𝖾𝗇𝖽

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コメント

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ヤバい…最初に幸せな日常見ちゃってるせいで心臓がバクバクする… 没入感ある…

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