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反省はともかく、今は今で食べられるものを。
でもその前に。
「クリスタさんは食べ物で、これは駄目とか、食べないことにしているものはありますか」
動物性のものを食べない主義のエルフは結構多い。
そう前世では聞いている。
だから念のため確認した訳だ。
「私は大丈夫です。特に好き嫌いはありませんし、戒律その他で食べてはいけないという物もありません」
「わかりました」
それならという事で、
○ 小魚(イワシ、小鯖、小鯵)のフライ
○ アジの味醂漬けを焼いたもの(骨を外し済み)
○ トマトと卵のスープ(魚出汁味)
○ ごはん
を出しつつ、言い訳を一言。
「小休憩用の食事を作っておくのを失念していました。午後の休憩には、もっと簡単に食べられるものを用意しておきます」
「私は、しっかり食べられる方がいいのニャ」
「すみません、わざわざ用意していただいて。ミーニャですね、用意させたのは」
ミーニャさんの返答はない。
既に味醂漬けのアジをごはんとともにかっ込み中で、返答する余裕がないのだ。
「悪い、エイダン。しっかり用意してもらって」
「ただ、小休憩用までは考えが至らなくてさ。分量は用意しておいたから問題はないけれど、午後の休憩用にはもっと簡単に食べられるものにする」
ジョンは既にその辺を知っているから問題ない。
「でも用意した分の金は、ちゃんと請求しろよ」
いや、大丈夫だ。
「材料のメインは昨日、自分で釣ったものだからさ。米も俺が買ったものじゃないし、金はかかっていない」
米はミーニャさんのお金で買ったものだという事は、ジョンも知っている筈だ。
しかしジョンは首を横に振る。
「いや、自分で調達した魚であっても、パーティ活動中に捕ったものでなければ、ちゃんと計算してくれ。無料で手に入れたものでも市場価格を考えて。その辺はきっちりしたい」
こういう所はジョンはかたいよな。
そう思ったところで、クリスタさんが口を開く。
「そういう考え方は似ていますね、ヘンリーに。今も元気でやっていますか?」
ジョンは一瞬、驚いた表情を見せた。
「はい、農家兼狩人をしています。父をご存じなのですか」
「二回ほど、任務で一緒に活動した事があります。一回は大規模護衛で、もう一度はやはり大規模な討伐で。狙撃、速射どちらも得意な弓の名手でした。あっさりお金を貯めて、農地を買って引退してしまったのですけれど」
つまりクリスタさんは、ジョンの父親の現役時代についても知っていると。
やっぱり見た目通りの年齢ではないようだ。
そう俺が思ったところで、ミーニャさんはうんうんと頷いて口を開いた。
「ニャるほどなのニャ。道理で弓の腕がベテラン並なのニャ。普通の弓使いは、飛んでいるバットを速射で討伐なんて事は出来ないのニャ」
ジョン、そんな事が出来るのか。
村にいる頃は全然気づかなかった。
まあ俺は狩猟とか全く興味なかったし、基本的に家の手伝いで畑仕事ばかりしていた。
だから知らないのは仕方ないのだけれど。
「ミーニャさんの槍術の方がとんでもなかった。どう見ても槍が届かないところにいる敵まで落とす技は、実際自分の目で見たけれど信じられない」
「よくある遠当てと衝撃波なのニャ。ジョンが弓でバットを誘導してくれたから、当てやすかったのニャ」
どうやらジョンは、少なくとも弓については今の時点でかなり出来るようだ。
そしてミーニャさんは、そんなとんでもない技を『よくある遠当てと衝撃波』で片付けられる程の実力者だと。
しかし確か……
「ミーニャさんって、本当は籠手を装着して近接格闘をするのが一番得意なんですよね」
「その前に、おかわりニャ」
ここでおかわりを許していいのだろうか。
どう考えても、十時の小休憩という量ではなくなるけれど。
そう思ったら、クリスタさんが口を開く。
「ミーニャ、ここでこれ以上食べると動きにくくなります。夕食までは動けること前提でお願いします」
「うう……ご飯にこの煮物と汁をかけて食べたかったのニャ……でも、わかったのニャ。お昼まで我慢するニャ」
ミーニャさん、クリスタさんの注意は一応聞くようだ。
そして、そのクリスタさんは軽くため息をつく。
「ミーニャは魚メニューですと食欲が壊れます。ですから冒険者ギルドで用意した食事は全て、魚介類を使わないよう配慮したのですけれど」
そうか、魚メニューが悪かったのか。
そう俺が思ったところで、ミーニャさんが抗議する。
「魚食は猫獣人のアイデンティティなのニャ。食べないと本来の動きが出来ニャくニャるのニャ」
「それはミーニャの気のせいです。他の猫獣人さんは、そういう事はありませんから」
クリスタさんが正しいのだろうな、そう俺は思う。
猫獣人といっても、普通人との違いは猫耳と尻尾があって、速筋がつきやすいという程度でしかない。
消化器官が違うとか、普通人と違う栄養素が必要という事はない筈なのだ。
少なくとも俺の前世の知識では、そうなっている。
「ただ、食欲や燃費はどうであれ、ミーニャの実力は確かです。ただ仕事を選びすぎるのと、食欲と、あと金銭感覚がいい加減すぎるのとで、単独で冒険者を続けられなくなってギルド職員をしていますけれど。今回もまた装備が新しくなっているようですし、相当お金を使ったのではないか心配です」
どうやらクリスタさんとミーニャさん、俺が思っていた以上に親密というか、よく知っている間柄のようだ。
そう言えばミーニャさん、色々言ってはいたけれど、クリスタさんの実力は認めていた。
魔法使いとしての実力と、冒険者ギルド幹部として講習生の実力を見抜く力の両方を。
そしてクリスタさんも、ミーニャさんの冒険者としての実力は褒めていた。
案外その辺、それなりに上手くやっているのかもしれない。
「今回は大丈夫なのニャ。完全に新しいものではなく、今までのを改造して貰ったのニャ。だからお金は、そこまでかかっていないのニャ」
新しい装備というのは、俺が改造した鎧と籠手、そして槍のことだろう。
そしてミーニャさん、出所が俺という事は言わないでくれるようだ。
「確かに痩せてはいませんし、耳の毛艶も悪くなってはいません。お金がなくて節約している感じはありません。むしろ絶好調という感じです」
ミーニャさんは、お金に困るとその分、食を減らすらしい。
そしてクリスタさん、借金とかそういう心配はしていない感じを受ける。
「ただ、この食事と、ミーニャの反応から一つの懸念が生じました。食事関係でミーニャが、エイダンさんにご迷惑をかけていないでしょうか?」
ぴくっ。ミーニャさんの猫耳が痙攣したように動いた。
仕方ない。ここは俺が対処しよう。
「近所ですから、一緒に夕食を食べて、冒険者ギルドについて教えて貰ったりする事はあります。それに俺は釣りが趣味ですから、割と魚が余りますから」
「あまりミーニャを甘やかさないで下さい。もしご迷惑をかけるような事がありましたら、冒険者ギルドの方へ苦情を入れていただいて結構です。寝る場所と寝る時間、そして食料が確保出来ていれば、ミーニャは討伐専門冒険者として優秀ですので、投入すべき現場は幾らでもあります」
投入すべき現場か。
なかなか怖い表現という気がする。
そしてミーニャさんが活躍する為には、寝る場所と寝る時間、食料を確保する必要があると。
「虐待反対なのニャ」
「西部に出てくる程度の魔物なら、ミーニャが負ける事はありません。オーガやヒュドラ程度なら、一人で大丈夫です」
オーガは確か、B級冒険者がパーティで当たる必要がある魔物だ。
速読した教本には、そう書いてあった。
それを一人で大丈夫というのは……
「一匹ならいいのニャ。ただ、ゴブリンや魔狼みたいに数が多いのは勘弁ニャ。持久力には自信がないのニャ」
オーガ程度なら問題ないと、ミーニャさん自身認めている。
そしてクリスタさんも、そう判断していると。
理解した。
ミーニャさんは間違いなく、とんでもない実力者なのだろう。
今の話が全て本当なのだとしたら。