小休止の後、再び電撃魔法を放って歩くこと二回。
三回目の電撃魔法を撃つ前に、俺は先を透視で確認する。
この先30mで右に分岐がある。これは第1採掘坑だろう。
そこでポイズンスライムとポイズントードの魔力反応が途切れている。
透視魔法で今までとの違いを確認する。
第1採掘坑への分岐がある事の他、右側通路端に排水路があることが大きな違いだ。
そして、その排水路を流れている水から感じる、濁った魔素の存在。
これは間違いなく……
「クリスタさん。この先30m、第1採掘坑との分岐付近で一気に魔物がいなくなっています。またその付近から、右側端にある排水溝に濁った魔素の存在を感じます」
クリスタさんは目を細め、坑道の先を見る。
「確かによくない感じの魔素ですね。ただ、ここから正確に分析するのは難しいです。取り敢えずもう一度電撃魔法を放って、第1採掘坑の分岐までの魔物を倒していただけないでしょうか。その後、ゆっくり周囲を確認しながら進みましょう」
「わかりました」
今までと同様、電撃魔法を放つ。
ポイズントードなどの気配が消え失せた。
排水溝を流れる水に感じる魔素は変わらない。
「それでは注意して進みましょう。ミーニャさん、水路の5mほど手前で立ち止まって下さい」
「わかったニャ」
ミーニャさんがゆっくりと歩き始める。
今のところ怪しい魔力は感じない。
ゆっくり歩いて、そして……
「この辺で止まるニャ」
ミーニャさんが立ち止まった。
第1採掘坑と、そこから先の坑道右端を流れて第1採掘坑へと続いている排水溝が、はっきりと見える。
俺は排水溝の前後を、透視と魔力探知で確認。
排水溝はこの奥、第2採掘坑分岐方向から流れてきて、第1採掘方向へと続いている。
第1採掘坑の元採掘現場から、この坑道とは別経路で外へ通じており、最終的には沈殿池へと続くようだ。
そういえば、この魔素の濁り方は、沈殿池のものと同じだ。
つまり……
「アンデッド系の汚染ですか」
クリスタさんは頷いた。
「そのようです。ポイズントードやポイズンスライムがこの先にいないのも、この汚染のせいでしょう。これらの魔物にとっても、アンデッド系に汚染された魔素は有害ですから」
なるほど。ならこの水路に濁った魔素を感じる限り、小型の魔物は出ないだろう。
その代わり……
「今、俺が確認した限りでは、第1採掘坑と第2採掘坑、そして第2採掘坑までの間のこの坑道に、魔物や魔獣は感知できません。透視や魔力探知で、という意味ですが。その先でアンデッド系の魔物が出る可能性はありますか」
「あり得ると思います。ここに魔物化する死骸がどれだけ残っていたかによりますけれど。この坑道の扉のすぐ内側にいたゴブリンゾンビ。あれは廃坑後、この坑道に住み着こうとして侵入したゴブリンのなれの果てでしょう。この坑道内の汚染された水や空気によって、アンデッド化したと考えるのが一番簡単です。ゴブリン程度なら、排水溝や通気口など、入り込める場所がいくつもありますから」
やはり、そういう事か。
「汚染された魔素で発生した魔物は、より魔素が濃い奥にいる。そう考えていいですか」
「ええ、その通りです。魔物は襲う対象があればそちらへ動きますが、そうでない場合は魔素の濃い場所に留まります。ですから、襲うべき対象がいないこの坑道内では、最も魔素が濃い場所、もしくはその近辺にいると考えられます」
「そこへ行って、魔物を一掃すればいいのニャ?」
ミーニャさん、なかなか豪快な事を言う。
「もちろんそれも必要です。ただし、アンデッド汚染がどうして起こったのかについても調査する必要があります。具体的には、祭壇や魔法陣、魔術式などの儀式の痕跡、あるいはまだ生きている魔道具が残っていないか、です」
確かにその通りだ。
今なお効力を発揮している何かがあれば、いくら魔物を倒しても意味がない。
ある程度の期間で復活してしまうだろう。
「ところでエイダンさん。この先、第1採掘坑には敵はいない。この坑道も第2採掘坑までは敵はいない。そう判断していいでしょうか」
一応、念のため魔力探査と透視魔法で再確認する。
「ええ、大丈夫です」
「わかりました。それでは第2採掘坑との分岐まで進みましょう」
「わかったニャ」
俺達は再び歩き始める。
◇◇◇
第9採掘坑の分岐までの間、魔物も魔獣も出なかった。
それでも警戒しながら歩くし、場所は地下の坑道だ。
昼休憩も3時の休憩も当然取った。
そのため、そこそこ時間がかかってしまう。
そして。
「そろそろ疲れたのニャ」
時間確認魔法で時刻を確認すると、午後5時過ぎだ。
周辺を魔力探査と透視魔法で確認する。
「エイダンさん、周辺に危険な存在はいますか」
「いません」
「では今日はここで休みましょう。換気口と脱出口もありますし、坑道の中では比較的環境が良い方です。重野営セットの設営をお願いできますか」
「わかりました」
設営は簡単だ。
① 結界柱を通路の両端、10mほど離した場所に置く
② その間に組み立て済みの箱型構造物を出す
これで完了だ。
この結界柱は魔法収納内で形状や大きさを確認し、材質以外は同一のものを鉄で作ってある。
この依頼が終わったら、銀を入手して作るつもりだ。
「やはりエイダンさんの魔法収納があると楽ですね。組み立ての時間がかかりません」
「それより何より御飯なのニャ。ここまで節制したから、夕食は気持ちよく食べるのニャ」
確かにミーニャさんなりに節制したのだろう。
昼にバゲットサンドの他、一人だけアジ・サバ天丼フルサイズ2杯を食べ、3時の間食で拳骨サイズのおにぎり6個を食べていたとしても。
俺はミーニャさんの食事量をよく知っている。
だから今回は負けないくらい用意してきたつもりだ。
まずは冒険者ギルドが用意した夕食を出す。
楕円形で表面がやや硬いパンが1人1個半。
レタス、アスパラガス、トマト、ジャガイモのサラダ。
そこそこ分厚いビフテキ1枚半。
初心者講習生とは段違いの内容だ。
普通なら十分満足できる量だろう。
しかし……
「魚と米も出してなのニャ」
「はいはい」
おにぎり6個。中身はアジの干物とアジの味醂干し。
ヒラメの刺身半身分。
ウミタナゴとヒイラギの煮物も出す。
「これでいいですか」
「フライも欲しいにゃ」
……はいはい。
◇◇◇
食後。
「明日は5時起床にしましょう。私とミーニャは右側、エイダンさんとジョンさんは左側のベッドを使って下さい」
「わかりました」
二段ベッドは左右でカーテン仕切りになっている。
男女別という意味でも妥当だろう。
「上と下、どっちにする?」
「下がいい。エイダンはそれでいいか?」
「問題ない」
俺は上段へ。
ベッドはしっかりしており、布団もマットも十分だ。
横になると、一気に睡魔が押し寄せてきた。
一日中慣れない探索をしていたのだから、当然だ。
結界柱もあり、クリスタさんもいる。
問題はないだろう。
そう考えて、俺は目を閉じた。






