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第8話:風の通学路
春の風がやわらかく吹く朝。
小学1年生・カズマは、大きめのランドセルを背負って、知らない道をゆっくり歩いていた。
この春、転校してきたばかり。
背は低く、髪はふわっとした明るい茶色。頬にそばかすがあり、少し困ったような表情をしているのが常だった。
制服の袖からは、小さなシルバーのリングがちらりと見える。
まだ刻印されていない、学校支給の「学習用リング」だ。
「……えっと、こっち、で合ってるかな」
住宅街の角で立ち止まり、カズマは地図アプリを見ようとしてスマートリングに話しかける。
「リングアシスト、道案内……えーと、学校……“校”の字、どう書くんだっけ……」
リングは一度だけ光ってから沈黙した。
“会話認識失敗”のサインだった。
そこへ、軽やかな声が聞こえてきた。
「まようのは、風が止まったとき。風を探そっか!」
カズマが顔を上げると、向こうからスカートを揺らしながら走ってきた女の子がいた。
彼女は小学4年生くらい。長い黒髪を三つ編みにし、黄色のリボンをしている。
そして指には、風属性のリングがついていた。
半透明の緑色、リングの中に渦巻き模様の刻印が浮かんでいる。
「きみ、転校生でしょ?今日、道にまよう子いるって聞いてた!」
「えっ……あ、はい。ぼく、カズマ」
「わたし、ユイ。風と一緒に歩くの得意だよ」
そう言って、ユイは指をくるりと回す。
すると、リングが微かに光り、カズマの周りにふんわりした風の流れが生まれた。
「風を流せば、空気の道ができるの。ほら、ついてきて!」
彼女が歩く後ろで、カズマは驚いた。
街路樹の葉が、ユイの動きに合わせてそよぐように揺れる。
落ち葉が、まるで“矢印”のように道を指していた。
「これ、どうやって使うの?」
カズマは自分のリングを見せた。
ユイはしゃがんで、彼のリングにそっと触れた。
「まだ“模様”がないから、風は通りにくいかも。
でも、風は怖がらないから。きみが“たのしい”って思えたら、すぐ通じるよ」
その言葉に背中を押され、カズマは深呼吸して小さく指を振ってみた。
その瞬間――
リングの中心に、小さな“しるし”が浮かんだ。
渦巻きのような線。ぎこちないけれど、確かに風が通った印だった。
「できた……!」
「やったじゃん!じゃあもう大丈夫だね」
ユイは笑って、校門の前で手を振った。
カズマは深くお辞儀をして、こう言った。
「ありがとう、風のおねえちゃん!」
その日、教室で先生が言った。
「今日のリング刻印は“自分の風景”を模様にしてみましょう」
カズマは迷わず、**“風の通学路”**を思い浮かべて、
自分のリングに、小さな渦の刻印を描いた。
魔法はいつだって、
最初は「誰か」のおかげで、動き始める。