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第9話:魔法のマルシェ
秋の気配が残る風に乗って、校庭に賑やかな音楽が流れていた。
県立天翔高校の文化祭《天翔フェスタ》、その2日目。
テントが並ぶ中、ひときわ人だかりができているブースがあった。
看板には手書きの文字でこう書かれている。
『カスタムリング屋 スパーククラフト』
店番をしているのは、高校3年生のジュンとナナ。
どちらも校内ではちょっとした“魔法クラフトの天才”として知られている。
ジュンは細身で長身、Tシャツにエプロンを重ね、髪は銀灰色のツーブロック。
指には工具用リングが並ぶ。
リングは鉄のものが多く、火花・切断・組成など、工房系属性が揃っている。
ナナはショートカットで、三角のイヤリングがトレードマーク。
服はカラフルなパーカー、指には装飾特化の光属性リングを4本着けていた。
それぞれ違う色で輝き、指を振るたびに淡い光の軌跡を描く。
「次のお客さま〜!刻印体験は3人待ちです〜!」
「属性診断はタブレットでできるよー、最初は気軽なやつからどうぞ!」
ふたりが手際よく案内する横で、子どもたちが嬉しそうにリングを選んでいる。
机には、未刻印のリング素材が30種以上。
木製、金属製、合成樹脂、宝石付き……どれもデザイン性に優れ、すべて文化祭用に手作りされたものだ。
「ぼく、雷がいい!」
「ならこれ!電気属性用の中でも反応早いやつ。しかも模様がイナズマっぽくてカッコいい」
ジュンが差し出したのは、薄金色のリングに、光の溝が彫られたモデル。
ナナが横で指をスライドさせると、刻印台に光のラインが浮かび上がる。
「さあ、君だけのマークを、ここに刻んで」
少年はペンのような刻印棒で、自分だけの雷を描いた。
午後。少し落ち着いた時間帯。
ナナが休憩に入ったあと、ひとりの少女がブースに現れた。
中学1年生くらい、白のセーラー服にグレーのリュック、顔は伏せ気味。
指にはリングがない。
「……リング、ほしいんです」
声は小さいが、芯がある。
「もちろん、ようこそ。属性、決まってる?」
「……わからない。何にも、できない気がして」
ジュンは一瞬だけ目を細めて、それから静かに首を振った。
「できない人なんて、いないよ。模様、描ける?」
少女はうなずき、小さな木製リングを選んだ。
そして、ゆっくりと小さな波紋のような模様を描いた。
それは、ナナが休憩中にジュンへ贈ったものと、よく似ていた。
「それ、風だね。しかも、人に“気づく”タイプの風。きっと、やさしい風になるよ」
少女は目を見開いて、そして小さく微笑んだ。
その日の夕方。
展示リングの人気投票で、スパーククラフトは1位を獲得。
「いいじゃん、夢見た未来。ちょっとだけ、叶ったね」
ナナがそう言うと、ジュンは無言で指輪を一回転させた。
その動きに合わせて、リングがふわりと光を放った。
魔法は、売るものじゃなく、分け合うもの。
誰かの“こうありたい”という願いが、刻印になる――
それが、ふたりの作る魔法だった。