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手を握ったままで再び彼は眠ってしまい、緊張でうとうとすることもできずに数時間を過ごした──。
──ターミナル駅に着いて、タクシーに乗り合わせると、駅から近い蓮水さんの家へ先に向かうことになった。
彼の家のそばまで来て、「お疲れさまでした」と、そのままタクシーで帰ろうとしたら、
「降りなさい」と、彼に手を引かれた。
「えっ、でも……」と、戸惑いが口をつく。
「降りてほしい」
抗えない思いを感じて、手を引かれるままタクシーから降りる。
彼が料金を支払い、走り去って行くタクシーをぼんやりと見送っていると、
「こちらを向いて」
言われて、彼へ顔を向けた刹那、
不意討ちで、胸に抱きすくめられた──。
「あっ、あの……」
さっきの電車の中でのこともだけれど、一体どうしてと思うのに、
「……無理に降ろして、悪かったな…」
腕の中に私の身体を包み込んで、彼がぼそりと口にした。
どう反応したらいいのかもわからなくて、棒立ちでいるしかない私に、
「……もう少し、君といたかったんだ……」
低く掠れ気味な声が、耳元に囁きかけた──。