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#松田陣平
千導 渉
610
【第十一話:背負うものの重さ】
「――悪いなゼロ。お前の説教に付き合ってる暇はねぇんだよ」
松田はそう言い放つと、降谷がさらに距離を詰めるより一瞬早く、愛車のアクセルを激しく踏み込んだ。
急発進したタイヤが地下駐車場のコンクリートを鳴らし、制止しようとする降谷の影をバックミラーの彼方へと置き去りにする。
公安の網が完全に閉じきる前の、文字通りの強行突破だった。
都内の喧騒から離れた寂れたコインパーキングに車を止め、松田はハンドルに突っ伏した。
心臓の鼓動がまだうるさい。だが、それ以上に頭の中を占めていたのは、降谷の言葉によって残酷なまでに浮き彫りになった、黒羽快斗という少年の歪な生き方だった。
「17歳のクソガキが……何考えてやがる」
松田は内ポケットから、江古田で手に入れた黒羽快斗の、そして父親である黒羽盗一の薄い資料を取り出した。
8年前、マジックの最中に起きた不慮の事故。
だが、その裏に『何か』があると気づいたからこそ、あいつは父親の遺した白い衣装を身に纏い、怪盗キッドとして闇夜に踊り出たのだ。
キッドが狙うのは、常に世界中の巨大な宝石。
そして、それらを月光に透かしては、価値がないと言わんばかりにあっさりと手放す奇妙な行動。
「……探してんだろ、何かを。親父の命を奪った引き金になった、特別な石を」
松田は煙草に火をつけ、深く煙を吸い込んだ。
自分だって、親友の萩原を爆殺した犯人を4年間ずっと追い続けてきた。その執念と孤独、復讐の炎がどれだけ身を焦がすものかは、誰よりも理解しているつもりだ。
けれど、あいつはまだ17歳の高校生だ。
学校に通い、青子とかいう幼馴染と笑い合い、普通のガキとしての日常を守りながら、夜になればたった一人で世界中の警察、さらには父親を殺したかもしれない正体不明の巨大な組織と戦っている。
小学生の時に自分に命を救われ、3年前には死を覚悟した自分をゼロ秒の奇跡で引っ張り上げた、あの小さくて生意気な指先。
あの指先は、今や世界を敵に回す大泥棒の道具として、あまりにも重すぎる因縁を背負わされていた。
「泥棒の真似事をしてまで、親父の敵を討ちてぇってか……。おまけに、追ってくる俺を傷つけないために攻撃の引き金も引けねぇときた。……どこまでお人好しで、バカなガキなんだよ」
紫煙の向こう、松田の胸に去来したのは、刑事としての義務感ではなかった。
ただひたすらに、あの夜の、そして今も孤独な戦いを続ける少年の背中を、今度こそこの手でしっかりと支えてやりたいという、切実なまでの想いだった。
「ゼロのやつも、もう完全に動き出してる。……あいつが公安に文字通り潰される前に、何が何でも俺が捕まえなきゃな」
煙草の火を消し、松田は静かに前を向いた。
快斗の背負う闇の深さを理解した今、松田陣平の覚悟は、さらに揺るぎないものへと研ぎ澄まされていった。
コメント
5件
わたるん…何をどう考えても120%執筆力(?)上がってる…!! そしていろいろ背負ってる快斗&それに気づいて守ろうとする松田&国際的な犯罪者を捕まえるという正義のため戦う降谷のコンビネーション神…
松田さんかっこよ! 快斗さんはやっぱり子供なんだな……だから全部背負おうとしちゃうんだな((にわかがすみません
初コメ失礼します! 続きが楽しみです!