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【第十二話:ポーカーフェイスの裏側で】
「……ハハ、完全に、お見通しってわけか」
誰もいない黒羽邸の自室。快斗はベッドの縁に腰掛け、両手で顔を覆ったまま、ぽつりと呟いた。
学校からどうやって帰ってきたのかも、よく覚えていない。
脳裏に焼き付いて離れないのは、今朝、通学路の袋小路で自分を壁に追い詰めた、松田陣平のあの鋭すぎる眼光だ。
『黒羽快斗、17歳。江古田高校の2年B組』
『お前、一人で何と戦ってやがる』
低く、けれどすべてを見透かすようなあの声。
逃げることはおろか、自分の名前も、死んだ親父のことも、そしてキッドとして裏の組織と戦っている事実さえも、あの男には完全に暴かれていた。
「ずるいよ、松田の兄貴……。刑事のくせに、そんな顔でそんなこと、聞くなよな……」
快斗はゆっくりと顔を上げ、机の上に置かれた白いシルクハットと、片方だけになったモノクルを見つめた。
小学生のあの日、爆弾の前で自分を救ってくれた広い背中。
3年前のあの日、観覧車で死を覚悟していたあの人を、ただの中学生の無茶なマジックで引きずり下ろしたあの夜。
快斗にとって、松田陣平という警察官は、世界の誰よりも死んでほしくない、生きていてほしいと願う、たった一人の「誇り」だった。
だからこそ、怪盗キッドとしての犯行現場に彼が現れたとき、どうしても攻撃の手が鈍ってしまった。
たとえ偽物のトランプ銃でも、あの人を傷つける可能性が万が一でもあるなら、引き金なんて引けるはずがない。
「泥棒が警察官に情をかけるなんて、お笑い草だけどさ……」
快斗は自嘲気味に笑い、胸元をぎゅっと 握りしめた。
親父の死の真相を暴き、その命を奪った巨大な組織を壊滅させるまでは、たとえ世界を敵に回しても『怪盗キッド』を辞めるわけにはいかない。それは、快斗がたった一人で背負うと決めた、孤独な運命だ。
だけど、あの人は。
『一人で戦うな』と言わんばかりに、その大きな手で自分の境界線を踏み越えてこようとする。
おまけに、あの時松田の兄貴の近くにいた、あの金髪の警察官(降谷)の視線も尋常じゃなかった。あの人もおそらく、自分の正体に気づき始めている。
このまま泥棒を続ければ、いつか本当にあの人たちに捕まるかもしれない。
あるいは、自分が追っている『組織』の危険な闇に、大好きな命の恩人を巻き込んでしまうかもしれない。
「……でも、ここで立ち止まるわけにはいかないんだ」
快斗は立ち上がり、白いシルクハットを手に取って頭に載せた。
鏡に映る自分の顔を、いつもの完璧なポーカーフェイスで覆い隠す。
たとえこの先、松田陣平という巨大な壁が自分の前に立ち塞がろうとも。公安の網が自分を締め付けようとも。
「次のショーも、派手にいくからね……お巡りさん」
大切な人を守るため、そして自分の戦いを終わらせるため。
黒羽快斗は、覚悟を秘めた冷たい月光のような瞳で、静かに夜の窓外を見つめていた。
コメント
17件
「大切な人を守るため」「自分の戦いを終わらせるため」ってかっこよすぎるけど大丈夫かな……
続きが楽しみです!♪
うわあ、第12話、すごく胸に来ました…。松田刑事に正体を見抜かれた快斗の焦りと、それでも「彼だけは守りたい」という執着が混ざり合ってて。自室で一人、あの日の背中を思い出すシーンが特に沁みました。泥棒と警察官という立場を超えた、命の恩人へのまっすぐな想い。次のショーがどんな結末を呼ぶのか、ドキドキしながら待ってます🌷